劇団KAZUMAお芝居「その後の沓掛時次郎」

2013. 9月千秋楽 昼の部 @浅草木馬館

白髪混じりの沓掛時次郎(藤美一馬座長)は、噛みしめるように語る。
「お前の死んだおっかさん、おとっつぁん、じいさま、ばあさま……その人たちが今のお前を見たらどう思うんだ」
精悍な若者になった太郎吉(柚姫将さん)に、老いた時次郎のまなざしは慈しみを投げかける。
そして時次郎の語りは、物語の奥深くから、なつかしい人たちを描き出す。

藤美一馬座長(当日太鼓ショーより)


柚姫将さん(当日個人舞踊「春よ来い」より)
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千秋楽のお芝居が楽しみすぎて、前日の夜飲んだにも関わらず、この日は朝6時に目が覚めてしまった。
だって「その後の沓掛時次郎」!
気になる、気になる!

大衆演劇への興味から派生して、昨年12月に長谷川伸傑作選「沓掛時次郎」を読んで大感動。

おきぬ「あたし達母子とお前さんとは、縁もゆかりもない赤の他人だのに、こうして親切にして貰っているのを思うと、つい泣けて、しようがないのですよ」
時次郎「おきぬさんのお株が始まったね。他人も親類もあるもんか。坊や、おっかちゃんに、泣くんじゃねえっていいな」
太郎吉「おっかちゃん。小父さんが心配するから泣くんじゃないよ」


時次郎とおきぬさんは互いに想いを寄せあっていながら、決して口に出さない。
そこがたまらなく情が深くていい。
おきぬさんは産褥で亡くなってしまい、時次郎は残された太郎吉を連れてまた旅へ…

…っていうお話の続きを、劇団KAZUMAが見せてくれるんですよ。
いつ行くのか!今でしょ!(このフレーズ何にでも使えるなぁ)

物語は、おきぬさんの死から18年後。
いまだ一羽烏で旅をかける時次郎は、年老いてもなお、その腕前で津々浦々のやくざ達から畏れられている。
白髪の鬘の一馬座長は、穏やかな笑みの中に凄みを閉じ込め、年輪を重ねた切れ者の風貌。

時次郎が古い知己に聞いて回るのは、
「なあ、太郎吉が、今どこにいるか知らねえかい」
18年前に、手を放した子どもの行方だ。

おきぬさんに死に別れた後、時次郎は太郎吉をおきぬさんの実家に連れて行った。
太郎吉はそこで、祖父母に育てられた。
しかし祖父母が亡くなってから、酒に溺れ、サイコロを転がすようになり、遂には長ドス差して旅烏になったという。
一番なってはいけなかった、父親と同じやくざになった。

運命の巡り合わせで、時次郎は太郎吉を見つける。
ただし、最悪な形で。
時次郎と古くから親しい親分(美影愛さん)の一家に侵入し、親分を斬り捨てた刺客。
その顔を見た瞬間、時次郎はハッと凍りつく。
険しい目つきの暗殺者こそが、18年前に別れた太郎吉だと、一目でわかったのだ。

「頼む、あの男を殺さないでくれ、頼む」
時次郎は、殺された親分の部下・苫屋半太郎(冴刃竜也さん)を、身を張って制止する。
「何言ってるんだ時さん、親分の仇討ちだ。そこをどいてくんねえ!」
いきり立つ苫屋を止め、かぶりを振る一馬座長の切なげな容色。
「あの男を殺すなら、代わりに俺を斬ってくれ」
と白刃の前に腰を下ろす。

18年経っても違えるはずのない、自分が手を引いて旅した子。
たとえ太郎吉には自分が“時のおいちゃん”だと分からなくても。
一粒だって欠けやしない、太郎吉への愛情が、一馬座長の目を閉じた表情から漏れ出づる。

この愛情の深さが、クライマックスの、時次郎が太郎吉を淡々と諭す場面に効いて来る。
「馬鹿な真似をやめて、かたぎになれ」
「お前のおっかさんが、どんな思いでお前を育てたと思う。お前のおとっつぁんが、どんな思いでお前を遺していったと思う」
「お前のじいさまは、ばあさまは…」

聞いているうちに、私の視界の中には、不思議な影がよぎっていた。
諭す一馬座長と、俯き加減に聞いている将さんの間。
お芝居に登場すらしていない人たちの面影が、ぼんやり浮かぶのだ。
太郎吉の母であるおきぬさん、父である六ツ田の三蔵、太郎吉を育てたじいさま、ばあさま。
一馬座長の語りの中だけに登場する人たちなのに。
それぞれの情愛に満ちたまなざしが、一つ一つ、舞台に瞬いているような気がした。

「お前は一人で大人になったわけじゃないだろう。みんなに育てられて、守られて、大人になったんだ。その人たちに今のお前を見せられるか?」

そうだ、死んだ人たちはみんな、太郎吉をどんなに愛したことか。
みんな、この子が大好きだったから。

時次郎の言葉を受けて、将さん演じる太郎吉の“声”に変化が現れる。
序盤では荒みきった声音で、
「そいつを斬ったら、金はちゃんといただけるんでしょうね…」
なんて言っていたのに。

段々甘やかな、まだ童心を引きずったままの、太郎吉の声が帰って来る。
「だって、“時のおいちゃん”は一度も会いに来てくれなかったじゃないか!」
「おいちゃんが来るのをずっと待ってた、なのに5年経っても10年経っても来やしなかった…」

親子の心のぶつかり合いは、時次郎が太郎吉に「新しい足袋を履かせる」という場面で結晶する。
時次郎が地に足を着いて、丁寧に足袋を広げ、太郎吉の脚を持って、涙をこらえながら履かせていく。
このときの舞台から零れ落ちてきた、限りなく温かいもの。

それを胸いっぱいに抱えたまま、一緒に観ていた友人と言い合った。
「この話、私たちの話でもあるよね…」
「親とかおじいちゃんおばあちゃんとかに、守られてきたもんね…」
なにぶん若輩者なので、こういう話には身につまされてしまうのです。

劇団KAZUMA木馬館編は、いよいよ最後、千秋楽の夜の部へと続く。

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