劇団KAZUMAお芝居「三つの魂」

2013. 9. 23 夜の部 @浅草木馬館

伴天連鬼十郎 (藤美一馬座長)の人生に、信じるものひとつ。

藤美一馬座長(当日舞踊ショーより)


この大盗賊が信じるのは、常に胸に下げている、ロザリオかもしれない。
信仰のために親を処刑されようとも、鬼十郎は異端の証を肌身離さず身に付けている。

それとも、幼い頃から鬼十郎の面倒を見てきた、「おやっさん」(美影愛さん)かもしれない。
鬼十郎にとって、唯一の心を許せる存在だったのだから。

美影愛さん(9/22舞踊ショーより)
当日のお写真がうっかり消えてしまったので前日のものから…


キリスト信仰を扱ったお芝居を観たのは初めて。
信仰への迫害を背景にした物語には、千切れるような悲しみが散らされていた。

天草に生まれた三兄妹、鬼十郎・政吉(龍美佑馬さん)・お菊(霞ゆうかさん)の父親は、キリスト教徒だったために処刑された。
さらに三兄妹は生き別れになってしまい、それぞれ過酷な人生を歩んできた。

中でも長男の鬼十郎は、街を彷徨う浮浪児になった。
飢えと寒さ、世間の冷たさに苛まれる日々。
盗まなければ暮らしていけない。
奪わなければ生きていけない。
鬼十郎は次第に悪事に手を染め、大人になる頃には盗賊の頭となっていた。

でも、救いが全くなかったわけではない。
唯一の温情を与えてくれたのが、美影愛さん演じるおやっさんだ。
美影さんの巧みな語りの中で、鬼十郎との初対面の様子が描き出される。
『腹が減ってるのか、お前』
飢える鬼十郎に握り飯をやり、寝床を提供してくれた。

「鬼十郎。ずいぶん久しぶりだなぁ」
酩酊しているような口調とともに、おやっさんはふらりと夜の街に現れる。
その姿を目にした途端、いつも残酷さを彫り込んだような表情の鬼十郎から、笑みが零れる。

「おやっさんがいなきゃ、俺は今頃死んでた。感謝してるよ」
「なあに、俺はなぁ、お前を助けたなんて言えねえ、とてもお前の親だなんて言えねえ。俺のほうが助けられてきたのよ」

つかみどころのない話し方が印象的だ。
美影さんの自由気ままな風情が、とても合っていた。
「鬼十郎、あまり無茶するなよ。終わったら、また一杯飲もうや。いつもの所で、待ってるからな」
古い付き合いの醸し出す温もりは、家族のそれにも似ている。

ああ、良かった。
鬼十郎の人生に、少しでも優しい出会いがあったんだ。
おやっさんとの再会の場面を観ていて、私はついホッとしてしまった。

けれど、物語は希望を振り捨てて進んで行く。
鬼十郎はとうとう御用になってしまう。
それも、十手持ちになっていた弟・政吉の手で。

だが、覚悟を決めた鬼十郎は、もはや抵抗しない。
演じる一馬座長は、達観とも諦観ともつかない表情を浮かべていた。
役人に父を奪われ、家族を奪われて。
どこまでも終わりのない世間の白眼の中、一人ロザリオに縋るように生きてきた。
縄をかけられた鬼十郎は、この世の暗いことの全てを受け入れるかのように、笑みすら浮かべている。

縄を引かれていく直前、妹・お菊の赤ん坊にロザリオをかざして、何か祈るように囁く。
ここのセリフは口の動きだけだったので、何と言ったのかどうしても気になり、直接一馬座長に聞いてみた。
“神のご加護を”
だそうな。
聞いたとき、鬼十郎の心境がくっきりと見える気がした。
どんなに力で押さえつけられても、心の中の信仰だけは消すことができないのだ。
そのために石もて追われる身となっても。

だが、鬼十郎がおとなしく連行されようとしたとき、背後から突如声がかかる。
「鬼十郎!お前が気になってるのは、俺のことだろう」
涙混じりのその声に、鬼十郎は初めて動揺して振り返る。
よろよろと駆けつけたおやっさんは、包丁を握りしめていた。
「こんな老いぼれ一人、子の気掛かりになってちゃいけねえ…」
止める間もなく、おやっさんは包丁を自らの腹に突き立てる。

「おやじどの――!」
慟哭。
これまで何があっても激しい感情を見せなかった鬼十郎が、ただ一度悲嘆に叫ぶ。

目の前で死んでいくその人は、何よりも掛け替えのなかった温もり。
死んだ親よりも、生き別れになった弟妹よりも、もしかすると首に下げた祈りよりも。

私は涙線崩壊した視界の中で、悲劇の幕切れを見つめていた。

“神のご加護を”
盗賊の黒づくめの服に、しんしんと光るロザリオ。
世間の冷たさばかりに喘ぐ人生にも、縋るよすががひとつある。

差し出された握り飯。
闇の底へ突き落とされたような人生にも、残る灯がひとつある。

「いつもの所で、待ってるからな」

その人生に、信じるものひとつ。

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