桐龍座恋川劇団お芝居「下田しぐれ」


2012.11.21夜の部@篠原演芸場
お芝居「下田しぐれ」

写真・恋川心哉さん(10/10舞踊ショーより)



「明日の宵祭りで、お吉と子供に、うまいものの一つ、晴れ着の一枚でも買ってやりたかった…」

このお芝居で祭りの場面はひとつもない。
第二幕の冒頭、幕が上がる前に、太鼓と笛の音が遠くから聴こえるだけだ。
でもこの悲しいお話は、賑やかなまつりばやしの裏側という気がする。

皆の一年に一度の楽しみ、宵の祭りの前夜。
お吉(鈴川かれんさん)は夫・松蔵(恋川心哉さん)が一晩帰らなかったことを気にかけている。
実は昨夜、松蔵はお庄屋から十両の金を盗み、はずみで小作人を一人刺し殺してしまった。
松蔵は長い間仕事が見つからなかった。
これ以上お吉と赤ん坊にひもじい思いをさせたくないと、途方にくれている所に、お庄屋から金を数える音が聞こえ、魔が差したのだった。

恋川心哉さんを観るのは3回目。
まっすぐ、一生懸命生きてる善人の役がハマる。
ご本人のお人柄が近いのかもしれない。

今回の役・松蔵もそんな感じ。
生真面目、気が優しくて、たまにハの字になる眉に人格が滲む。
普段は盗みなんてありえない。
ましてや人殺しなんて、生まれてこのかた考えたこともなさそうな。

―――だけど明日は宵祭りだった。

幕の裏側から聴こえていた。
ぴーひゃらぴーひゃら、笛の音。
タンタンどんどん、太鼓の音。
聴こえてしまった。
普段とは違う、ハレの世界の音。
望んでしまった。
女房と子供にうまいものの一つ、晴れ着の一枚。

結局、松蔵は罪に問われることはない。
島抜けの罪人でお吉の元夫・時次郎(恋川純座長)が、お吉の幸福のため、松蔵の罪を被ってくれたからだ。
ラストは、時次郎が血の繋がった赤ん坊を松蔵に託す。
そして斬首刑になるのをわかっていて、召し捕られていく場面で幕。

この悲しい終盤は、松蔵もお吉も時次郎も、皆泣いていた(心哉さんの泣き顔が、本当に悲しくてたまらないって表情なんだこれが!)。

その向こう側に、笛と太鼓の音がずっと聴こえるような気がした。
翌日、松蔵とお吉と赤ん坊は、お祭りに行ったんだろうか。

ハレの裏側には涙。
中島みゆきさんの名曲・「まつりばやし」とか聴きたくなる、不思議なお芝居。
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