劇団KAZUMAお芝居「男の人生」

2013.9.8 昼の部@浅草木馬館

こんな酷い話を最初に考えた人は、絶対に歪んだ目で世を見ていたに違いない!
…いや、悲劇好きとしては喜んでるんだけどね。

でも、目を覆う布のせいで、何も知らずに自分の愛妻を斬ろうとする伊三郎(藤美一馬座長)の姿。
必死に身をよじって、夫に自分をわからせようとする妻・お菊(霞ゆうかさん)の姿。
今、私はなんて恐ろしい光景を観ているのだろうと、正直震えが来た。

そして。
「お見事、さすが伊三だ!」
妻を斬り殺してしまった伊三郎に、白木屋一家の二代目 (柚姫将さん)は、ほくそ笑んで告げるのである。
将さんの悪役は、目線の上げ方から声の出し方から、とことん濃い悪の色。

柚姫将さん(当日舞踊ショー・個人舞踊「娘よ…」より)


この残酷極まりない話には、二人の悪役が存在する。
一人は、全ての首謀者・鉄五郎(美影愛さん)。
鉄五郎は白木屋一家の若い衆だが、一家を我が手に収めるため、黒い欲望を渦巻かせて、あれこれと悪企みの糸を引く。
わかりやすい、悪役の鉄板だ。

そしていま一人の悪役が、将さん演じる二代目親分・大五郎。
この二代目の悪役が面白いのは、本来優しい人格の持ち主ということ。
襲名の披露目の席では、鉄五郎に頭を下げられても、
「先代の頃は同じ兄弟分だったじゃねえか。どうかそんな風にしないでくれよ」
なんて遠慮がち。

だからこそ二代目は、その優しさを鉄五郎につけ込まれ、いいように利用される。
「親分、俺が心配してるのは伊三の野郎のことです」
長年信頼してきた若い衆の伊三郎に、不信を抱くように仕向けられる。
「奴は、先代の信頼も厚かった。二代目が息子だからという理由で一家を継げば、内心面白くねえはずです」
素直な心に、疑いと虚栄心、そして何より“不安”を注ぎこまれて。
段々と、二代目の輪郭に影が落ちていくのだ。

鉄五郎の口車で、二代目は伊三郎への不信に満ち、ついに一家から追い出してしまう。
だが、まだ疑いは収まらない。
「いつ伊三が俺の寝首を掻きにくるかと思うと、おちおち寝られやしねえ…」
そこで、伊三郎を嘘で呼び出す。
――自分が、流れ者の仙蔵という奴に腕を斬られたと。
二代目の身を心配して飛んできた伊三郎。
「伊三、伊三、よく来てくれた!」
かつての兄弟分を堂々と騙す二代目の目は、荒んで暴力に尖っている。
お芝居序盤の、まだ優しい人柄が残っていた頃の顔つきと、あんまり異なるので驚いた。

「伊三、頼む、一家に戻って来てくれ」
「しかし、お前もただでは戻りづれえだろう」
「俺の腕を斬った、憎い仙蔵の女房を捕まえたんだ。仙蔵の女房をお前が斬ってくれ。そうしたらそれを手土産に、お前は堂々と一家に戻って来れる」

伊三郎は、一家を追い出されてから困窮していた。
悩んだ末、心を鬼にして、仙蔵の女房とやらを斬って一家に戻ると決める。
「女房のお菊に、もう少し楽な暮らしをさせてやりてえんですよ」
妻を思う一心で、情を振り捨て、<仙蔵の女房>相手に刀を振り上げる。

そこにいるのが、猿轡をされて身をよじる、愛しいお菊だとは思いも寄らずに!

伊三郎が気づかずにお菊を手に掛けてしまったのを見て、二代目は愉しげに笑う。
「俺から褒美をやりてえんだ。手をこう、子どもみたいに差し出して受け取ってくれ」
褒美とは、二代目が背中に隠し持った短刀。
寝首をかかれないよう、伊三郎の手のひらを思い切り串刺しにする。
「これが俺からの褒美だよ、受け取りな!」
この場面では伊三郎は観客に背を向けているので、二代目の表情に舞台の意識が集中する。
将さんの横顔に、研ぎ澄まされた黒さが光っている。
序盤の気弱だった面影は消え失せ、暴力に飲みこまれた心が、くっきりと映し出される。

だが結局二代目は、鉄五郎に裏切られる。
雪の晩、鉄五郎の部下たちに四方から斬られて、何が起きているのかもわからないままに命を終えるのだ。
「まったく、優しい奴ほど、気の弱いやつほど、疑い出すと止まらないな。お人形みたいな男だったぜ」
鉄五郎の情けのない一言が、二代目の亡骸に降りかかる。

私が忘れられないのは、その直前の巧みな舞台模様だ。
二代目は、鉄五郎を含む四人の若衆と一緒に、女遊びの帰り路。
傘を差した二代目を真ん中にして、今日の遊びについて談義している。
「お前の女はどうだった?」だの「若くて美人とあれば最高じゃねえか」だの、馬鹿話なのに。
何か、この光景は妙なのだ。
何か、不安をかき立てるのだ。
途中で、あ…と不安の源に気づいた。

二代目、傘を自分の手で差している。

普通、親分には他の衆が差し掛けるだろうに。
その何気ない光景に、かすめるような不敬を感じ取った。
“傘の場面”がある故に、鉄五郎の裏切りは、物語の中にすんなり着地する。

将さんいわく、元々二代目は鉄五郎に騙されているだけのキャラクターであるらしい。
この日は美影さんの演じる鉄五郎に合わせて、二代目の気持ちを作っていったとのこと。
こういうお芝居を観て、こういうお話を聞くと、改めて思う。
何度でも思う。
将さんのお芝居が、やっぱり好きだなあ。たまらないなぁ。

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