劇団KAZUMAお芝居「三代の杯」

2013.9.7 夜の部@浅草木馬館

やくざの親分は、その心を変えたくて変えたわけではない。
「時代が変わったんだ。斬った張ったでは飯が食えなくなった」
義理や人情を、切り捨てたくて切り捨てたわけではない。
「金が俺を変えたんじゃねえ。俺が変わったんだ」

吐き出すように語る、美影愛さんから滲む哀切さ。
藤美一馬座長が「今日のお芝居は、敵役の美影先生が改心する場面で、先生に引っ張られるように舞台でボロボロっと涙が出た」と話していた。
(翌日日曜の口上でまでおっしゃってたので、よっぽどだったのだろう)

写真・美影愛さん(当日舞踊ショーより)


劇団KAZUMAが浅草にいると思うと、日々のお仕事も頑張れるような気がして。
待ちに待った土曜日のお芝居は、大好物・明治物!

他の劇団で今までに観た明治物のお芝居は、維新による明暗のうち、どっちかというと“明”寄りだった。
舞台に溢れるのは、見たことのない西洋文明、モダンな短髪、新しい時代の波に浮足立っちゃう主人公達(例・たつみ演劇BOX「掏摸(すり)の家」2013.8.14鑑賞)。

対してKAZUMAの「三代の杯」は、明治がもたらした“暗”を濃く描き出す。
新しい時代の前に江戸のやくざ達は、ドスを捨て、仁義を曲げ、金に負けざるを得なかったのだ。

政吉(藤美一馬座長)が刑務所から務めを終えて出所してくると、街はすっかり明治の世に変わっていた。
「俺がムショに入っている間、おとっつぁんと妹を頼みます」と一家の親分(美影愛さん)に言ってあったはずなのに。
家に帰れば、そこに居たのはかつての弟分の松(冴刃竜也さん)と、その子分(藤美真の助さん)。
二人は、あろうことか病のおとっつぁん(龍美佑馬さん)の布団をひっぺがし、立ち退かせようとしていた。
「親分は、やくざを辞めて商事会社を建てた」
「会社の開発のためにこの土地が必要なんだ」

政吉は、一体どういうことかと怒り心頭で親分の下に駆け込む。
だが、人情家だったはずの親分はすっかり変わり果てていた。
「誰か、いまだに親分なんて俺の事を呼ぶ奴がいるようだな。時代が変わった。俺はもう親分じゃねえ、社長なんだ」
眼鏡を光らせて、冷淡に言い放つ。
美影さんの独特ののどかな間合いが、この場面では感情の空虚さを表していた。

時代の波に飲まれ、心折ったのは親分だけではない。
政吉を兄貴分と慕っていた重吉(柚姫将さん)は、今は「専務」として社長に付き従う。
「すまねぇなぁ兄貴、今は俺にも立場ってもんがあるんだ」
また、「政吉さんが出て来るまで何年でも待っています」と言ったお嬢さん(香月友華さん)は、今は重吉の妻におさまり、贅沢を謳歌している。
「おまえさん、奥にね、宝石商が来てるのよ。宝石、買ってもいいかしら」

みんな、金の前に心を切り捨てて。
一家のために刑務所に行った政吉に、平然と裏切りだけを押し付ける。
政吉の憤怒は頂点に達し、夜、一家へ斬り込みをかける。

浅薄な世にあっても主人公の仁義だけは不変に美しい、そういう筋書きなんだろうな。
……と、思って観ていた。
後半の逆転まで。

斬りにやってきた、政吉を前に。
親分は静かに拳銃を出して、地面に転がす。
自分の頭を指して。
「一発、引いてくれ」
死なせてくれと言う。
その瞬間、憎々しかったはずの親分の哀しみが、舞台にたなびく。

「お前が刑務所に入っている間に、時代が変わった。俺たちやくざは刀を取り上げられて、義理や人情では食えなくなった」
「それでも、政が刑務所で頑張ってる、一人で頑張ってる、政が帰って来るまでなんとかせにゃならんと…」
美影さんの切実な語り声が、劇場中に沁み渡り、親分が封じ込めてきた情怨が立ち昇る。

人情に厚かった親分が、実際に帰って来た政吉を冷たく蔑視して、
「お前が帰って来るという通達が何もなかったからなぁ」
と言い捨てるまでの間に。
一体どれほど、自らの心を犠牲にしなければならなかったか。
そう想像すると、ぽろぽろと客席で涙せずにいられなかった。

「やっぱり美影座長がいると、お芝居が締まります」と一馬座長の口上。
美影さんは個人舞踊では意外と熱いテイストで、私はすっかり興味津々です!

とはいえ、KAZUMAのオリジナルメンバーに言及しないのももったいないので。
親分のほかに面白かったキャラクターを挙げると、竜也さん演じる松。

写真・冴刃竜也さん(当日ミニショー「旅姿三人男」より)


松は、重々しいお芝居の中にあって息抜き要素、お笑い役。
新しい時代の前に心を切り捨てた親分や重吉と違い、古い時代の温もりに爪を立てて拘泥する政吉とも違い。
おそらくなんも考えず、目の前の強者に従っているだけなのである。

親分が女遊びのためにお小遣いをくれると言えば、ためらいなく喜色満面。
こないだまで兄弟分だった重吉に「いつまで親分なんて呼び方をしてるんだ…」と叱られて、呆気なくびびって縮こまる。
誇り?何それ食べられるの?とでも言うような。

実際の明治のやくざは、松みたいな人がけっこう多かったんじゃないかなあ。
新しい時代の勝ち抜き方なんて知らないし、仁義を守り通すような矜持もないけど、まずはご飯食べられないと困るもの。

それにしたって竜也さんの三枚目は、普段のクールな表情と一転するだけに可笑しさ割増だと思う。

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