深淵からの昇り龍―たつみ演劇BOX・辰巳小龍さん―

「小龍!」

普段はハンチョウなんてかけられない。
でもこの女優さんにだけは、どうしても名前を呼び掛けたくなった。
だから、他の方の声に紛れるように、そっと私も言ってみたのだ。

写真・辰巳小龍さん(8/10夜の部・個人舞踊「愛の賛歌」より)


七月は浅草木馬館、八月は篠原演芸場。
小龍さんに魅せられ尽くした夏だった。

ほとんど、一目ぼれ。
木馬館でたつみ演劇BOX初鑑賞の七月七日、ミニショーで小龍さんの個人舞踊があった。
紫の着物で出てきた小龍さんを観た瞬間から、反射的にデジカメを構えていた。
この人、表情の“深さ”が違う!
気づけば、その日の写真は小龍さんが圧倒的に多かった。

「次は、辰巳小龍のステージです!」
そのアナウンスで、いつも椅子から身を離して前のめりになってしまう。
小龍さんの個人舞踊が始まった途端、すっかり物語に引き込まれて、出られなくなる。
曲は諸々、「心もよう」「おりょう」「母ざんげ」…
紡がれる龍の世界は、気づけば舞台全体を取り巻いている。

くるくると表情豊かな役者さんはたくさんいる。
けれど、小龍さんが浮かべる表情は、微笑一つに、幾重にも心のひだが塗り込められている。
その目をふと覗きこんだ拍子に、影宿る深淵に沈み込みそうになる。

そして、お芝居。
たつみ演劇BOXの精密なお芝居の中でも、小龍さんが演じる人物像はとりわけ深い。
この夏に観たお芝居を思い出すと、濃い輪郭を持ったキャラクターたちが、一人また一人と立ち現れる。

「あたしも、あたしもうちの人のところへ行く」
あれは、「雪の渡り鳥」のおいっちゃん(2013.7.7@浅草木馬館)。
「夫婦だもの、死ぬときはおんなじ場所で死にたい―…」
夫・卯之吉を追って、泣きながら駆け出そうとする。
薄幸な運命に翻弄されながらも、セリフの声は凜と強く、意志は決して折れない。

「津の国屋の晴れ姿を、一目見てから、牢獄に行きたい……」
あれは、「明治一代女」のお梅(2013.7.27@浅草木馬館)。
「あたしそのために、人まで殺したのに!」
まじめで、健気で、ひたすら一途に、役者・津の国屋を愛したお梅。
殺人の罪に慄きながらも、客席に挑みかかるような目は、恋を諦めてはいない。

「おのれ、伝蔵…」
あれは、「新・暗闇の丑松」のお米(2013.8.23@篠原演芸場)。
芸者の白い着物がずるりとはだけている。
恩人に裏切られて遊女にされ、奪い尽くされ、最後の気力で地に立ちつくしている。

他にも、女博打打ち、島の娘、三枚目の丁稚役まで。
それぞれ一時間と少ししかないお芝居を通して、私に強烈な印象を残していった。

だから七月も八月も、観劇仲間の前で口を開けば、出て来る言葉は。
「小龍さん素晴らしい。ああもう、ホント小龍さん素晴らしい!」

そして、私の素人考えはふと壁に行き当たる。
大衆演劇の世界で、女優さんってどんなポジションなんだろう。

送り出しで、小龍さんはいつも、ちょっと控え目な位置に立っていた。
出口をくぐると、まずたつみ座長の爽やか全開スマイル、次にダイヤ座長の人懐っこい笑顔が出迎えてくれる。
ミーハーながらしっかり座長ご兄弟と握手して、さて小龍さんはどこかと探すと、少し外れた位置で、たおやかに笑っている。
「いらっしゃい~」と目尻を下げてくれるお顔に、滲む優しさ。
もし小龍さんが男優さんだったなら、出口すぐの所に立っていることもありえたのかな。

そんなことを思いながら、PCのたつみ演劇BOXフォルダを見返していると、頭に響いてくるのは「愛の賛歌」だ。

――あなたの燃える手で 私を抱きしめて――

小龍さんの個人舞踊の中でも、最も涙してしまった一曲。

――ただ命の限り あなたを愛したい――

舞台の上の小龍さんは、客席を包みこむように両腕を広げて踊っていた。
“あなた”って誰だろうなぁ。
特定の誰か?
家族であり仲間である劇団員の皆さま?
それとも今小龍さんの舞踊を観ているお客さん?

たつみ演劇BOXのオフィシャルサイトの小龍さんのプロフィールには、こうあった。
“役者になって二十年近くになりますがいまだに舞台が楽しくてしかたありません。この幸せが皆さまに伝われば嬉しいです。”

――命の限りに あなたを愛するの――

胸中の哀楽を解き放つがごとく、いっぱいに広げられた腕。
小柄な小龍さんなのに、いまや劇場を包みこむようだ。

“あなた”というのは、もしかしたら、“楽しくて仕方がない”という舞台そのもの?

――あなたと二人 生きていくのよ
私の願いは ただそれだけよ あなたと二人――


お父様のかつての名・勝小龍と同じ名で。
かの女優さんは、今日も舞台に立っている。
個人舞踊では、古典の物語や人形ぶりで、物語の世界に誘いこんでくれる。
一方、集団舞踊の「エロティカ・セブン」や「BAMBINO~バンビーノ~」で、明るい笑顔で誰よりノリノリで踊っている小龍さんも大好き。

その眼差しの中に、折り畳まれた情の数々に。
その小柄な影の底から立ち昇る、龍の姿に。
私は、言い表せない何かで胸を一杯にせずにいられない。

――ただ命の限り あなたを愛したい
命の限りに あなたを愛するの――


写真・辰巳小龍さん(8/23夜の部・ミニショーより)


私は、精一杯の声を送らずにいられない。

「小龍!」

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