たつみ演劇BOXお芝居「新・暗闇の丑松」

2013.8.23 夜の部@篠原演芸場

観ているだけで肌がざわめくような、むごい話だ。
それは、私が今まで観た大衆演劇の中で、最も露骨な女性への“性”の搾取があるからなんだろう。

辰巳小龍さんが演じるヒロイン・お米は、女として人間として、何もかも奪い尽くされる。
だからこそ私の目には、脇役の女性たちの存在が、お米への囁くような慰めと映った。

写真・辰巳小龍さん(当日舞踊ショーより)


江戸の板前・丑松(小泉たつみ座長)は、墨田の為五郎親分を殺めてしまい、十手から逃れて旅に出る。
その間、丑松の妻・お米(辰巳小龍さん)は、丑松の兄貴分である伝法院の伝蔵(宝良典さん)とその妻・お銀(葉山京香さん)の下へ預けられる。
だが、伝蔵とお銀はお米を騙し、『だるま茶屋』という店へ遊女として売り飛ばしてしまう。
挙句の果て、お米の初回の客は伝蔵自身だった。

伝蔵に無理やり手籠にされたお米が、乱れた着物でふらふらと舞台に現れる。
「おのれ、伝蔵…」
小龍さんは今にも倒れそうな、魂が抜け落ちてしまいそうな風情。
それでも、恨みだけでこの世に縫い止められているかのよう。

二年後、何も知らない丑松が江戸に戻ってくる。
江戸に着く直前、無理やりの客引きで、『だるま茶屋』に入ってしまう。
たまたま当たった遊女が、お米だった。

相手の顔が見えないほど暗くした部屋に、小龍さんがしずしずと入って来る。
その表情は、人形のように凍りついている。
二年間の遊女生活の陰惨さを暗示するように。

それだけに、次の場面では涙が出そうになった。
丑松の喋りの訛りを聞いて、お米の表情がふと和らぐのだ。
「お客さん、江戸のお方ですか」
声も、心なしか少し高揚している。

江戸訛りを聞いただけで、喜色を浮かべる。
この人は、どんなに江戸に帰りたかったのだろう。
どんなに、丑松と暮らした過去に戻りたかったのだろう。

この直後、丑松は遊女がかつての恋女房だと気づく。
けれど、丑松はお米の話を聞かず、不貞だと責めてしまう。
一目、夫に会いたいという最後の希望まで、無残に打ち砕かれてしまった。
お米は絶望し、伝蔵の仕打ちを書いた手紙を遺して自害する。

物語の主軸は、真実を知った丑松の、伝蔵とお銀への復讐だ。
けれど、私により深い印象を残したのは、『だるま茶屋』の女たちだった。
まず、お米の遊女仲間を演じていた辰巳満月さん、辰巳花さん。
それに、遊女たちの世話係のおかく婆さんを演じていた、辰巳龍子さんだ。

写真・辰巳満月さん(左)・辰巳花さん(右)(当日舞踊ショーより)

辰巳龍子さんは舞踊に出られなかったので残念ながらお写真なし。

お米が伝蔵に無理やり手籠にされている最中、辰巳満月さん・辰巳花さん演じる二人の遊女仲間だけが、お米に同情を寄せる。
「あんなの、無理やりすぎます」
「お千代ちゃん(お米の芸者名)が、可哀そうすぎます」
そして伝蔵が去った後、ふらふらと佇むお米に、花さんが情けたっぷりに声をかける。
「ああ、お千代ちゃん、辛かっただろうねえ」
続いて満月さん。
「悔しかっただろうねえ…!」
遊女として、同じ悲しみを知る者だけが持ちうる深さの愛情が、セリフにこもっているようだった。

また、辰巳龍子さん演じるおかく婆さんも、お米を遊女として買った張本人ではあるが、それは花街の慣習に長年染まりきっているがゆえ。
決して根っからの悪人ではない。
その証拠に、お米が自害したときは、
「お千代ちゃんが自害だって、ええ、そんな、どうしよう」
とオロオロ。
その横では、先述の二人の遊女仲間が、取り乱して泣いている。

対照的に、丑松の反応は冷静さを失わない。
お金をどさりと落として、
「墓を建ててやってくれ…」
と言い残すのみ。
もちろんたつみ座長の表情には、恋女房を無残な形で失った悲嘆が込められてはいるんだけど。
復讐を決意して立ち去る丑松の代わりに、お米の亡骸を温かく抱き起こすのは、二人の遊女仲間の手なのだ。

丑松の復讐を助けてくれるのは、かつての仲間である河内山の兄貴(愛飢男さん)、片岡直次郎(嵐山瞳太郎さん)、それに十手持ち(小泉ダイヤ座長)だ。
「すまねえ、この恩は忘れやしません」と丑松。
仁義と義理で固められた男たちの絆は、伝蔵とお銀の命を奪うことで、お米が受けた搾取をやり返す。

女たちのお米への心の寄せ方は、もっと親密で、もっとささやかだ。
彼女たちの柔手では、搾取の前に何もできないけれど。
お米の遺した手紙を読みながら、遊女たちもおかく婆さんも、涙を浮かべている。
『だるま茶屋』での二年間、この女性たちが傍にいたことが、悲惨なお米の人生の、せめてもの救いだったのならばいいと思った。

鮮やかな立ち回り、たつみ座長の清しい声で「お米、迷わず成仏してくれよ」――悲劇を凛然と貫く、男・丑松の復讐劇は、見ごたえたっぷりだけれども。
物語の合間に差し挟まれる、女たちの細やかな心づくし。
女優さんたちが紡ぐささやかな場面作りに、この夜、私は一番の拍手を送っていた。

にほんブログ村 演劇ブログ 大衆演劇へ
にほんブログ村

関連記事
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)