たつみ演劇BOXお芝居「稲荷札」

2013.8.18 昼の部@篠原演芸場

しょういちい、いなり、だいみょうじん。
<正一位、稲荷、大明神♪>
幕間に流れていた、陽気なお囃子の声が、終演後もやたら耳に残っているのである。

不思議なお囃子を記憶の中に聴くうち、頭に浮かびあがるのは、きらり光る眼と研がれたような細面。
真っ赤な鳥居に守られたお狐様?
いや、あれは“御寮はん”だ。
細面のたつみ座長演じる、がめつくて、可笑しくて、ちょっと哀しいお婆ちゃんだ。

写真・小泉たつみ座長(当日舞踊ショーより)

ショーでの高貴な美人顔を見ると、ついさっきまで三枚目の女形を演じていたのが信じられなくなりますね(笑)

質屋の山城屋を切り盛りする御寮はん(小泉たつみ座長)は、界隈では有名な守銭奴だ。
すでに八十歳を越える白河屋の旦那(宝良典さん)が、まだ十八歳の娘のお七(辰巳満月さん)を嫁に望んでも、
「これは結納金ですよ」
と畳にドンと置かれた五百両を見れば、
「わかりました、この話受けましょう!」
と、親心ぽい捨て。
お七は、本当は手代の清七(小泉ダイヤ座長)と好き合っているのだが、娘の気持ちなんてこれっぽっちも聞きやしない。

でも、御寮はんだって良心がないわけじゃない。
夜、誰もいなくなった部屋で、一人ぽっつりと祈るのだ。

「旦那が死んでから、たった一人で、世の中に頼れるものは何もないと思って生きてきた。銭だけや、銭だけが裏切らん」
「でも、そろそろ私も、もう少し世のため人のために生きてみようと思うんや」
「この富くじが、当たったなら」

そっと懐から取り出した大事な富くじ、八六六番。
それを毎日信仰している御稲荷様の神棚に見せて、切実に頼む。
「正一位稲荷大明神様、どうか千両当ててください、八六六番です、どうか、大明神様~」
曲がった腰をさらに下げて、狐のお面にしがみつくように祈る御寮はんの姿は、滑稽なんだけど憐れみを帯びる。

八六六番、御寮はんの念のこもった富くじは見事、千両を当ててみせる。
……が。
お芝居の定番の行き違いで、御寮はんの富くじは清七が買っていた八六五番と入れ替わってしまう。
入れ替わったことに気づかず、これは稲荷大明神様の悪戯に違いないと、森の中の祠に泣きつく御寮はん。

「富くじの数字を変えるなんて、神様以外にできやしません。あんまりの仕打ちやないですか、毎日のお祈り、いっぺんも欠かしたことないのに」
「毎日供えてる油揚げ、もう一枚増やします」
「心を入れ替えて、もうちょっと世のため人のために生きていきます」
「せやから、このくじ、元の八六六番に戻してくんなはれ、大明神様」

御寮はんの必死な様を見ていると、笑えるんだか、泣けるんだか。
たつみ座長が三枚目をやるとき、くるくる変わる表情はおかしみを生み出すのに、その輪郭にはじわりと緩みがある。
だから、たつみ座長が座っているだけでおかしいのに。
笑っているうち、私の涙線を何かが訪れてしまうのだ。

「ここまでお願いしたんや、そろそろ数字戻してくれたやろ……ってなんでや、なんで戻っとらんのや~」

ホントがめついなぁ、意地汚いなぁ。
旦那さん亡くして、一人でさぞ頑張ってきたんだろうなぁ、“御寮はん”。
なんとかしてあげてほしいなぁ、御稲荷様。

と思っていた頃に、物語はちゃんと救いのある明るい結末へ向かったのだ。

さて、小泉版「稲荷札」で、私の心をわしづかみにしたキャラクターがもう一人。
「おっかさん」
と御寮はんを呼ぶ声が実に愛らしい、お七お嬢さんだ。
満月さんの高い高い声は、まさに少女の純真。

写真・辰巳満月さん(当日ミニショーより)


私は今までにも何度か、お芝居を彩る“甘やかされたお嬢さんキャラ”がいかに好きか語ってきました。
けど、このお七…愛らしさで言えば、これまでのベストかもしれない。
見た目と声が可愛いだけじゃない、思考が可愛いのだ。
「清七、もしお前の富くじ、当たらなかったらどうするの」
「そのときは…お嬢さんを連れて、駆け落ちするしか…」
「駆け落ち?お七と清七が手に手を取って、夜道を行くの?」
お七はぱちくり、と目を瞬いて。

「楽しそう…!」

これ、これです。
駆け落ちした後の生活の苦労とか、お金はどうするのかとか、現実的思考をころっと抜かして。
夜のピクニック感覚で駆け落ちを夢見る、このお嬢さんっぷり!

そして、終演後に観劇仲間と「あの可愛さはとんでもなかった…」と言い合ったセリフがある。
実際に駆け落ちすることになったお七と清七は、夜の森を歩いている。
荷物を負う清七に、
「ずいぶん重いですけど、一体何が入ってるんです?」
と問われて。

「三月のお雛様!」

満月さんの嬉しげな表情と相まって、私は簡単にノックアウト。
お雛様ですよ。
駆け落ちするのに、お金でも食べ物でも衣類でもなく、最優先で持って来るものがお雛様ですよ!
子どもの心を映し取ったような、能天気極まりない思考が可愛いのなんの。

このお七の性格を見ると、御寮はんは守銭奴ながら、なんだかんだ主人の忘れ形見の娘を甘やかしまくって育てたんだろうな。
なんて背景まで想像されるのだ。

しょういちい、いなり、だいみょうじん。
耳に残るお囃子の中、明るい切ないお芝居の波紋が溶け入っている。

にほんブログ村 演劇ブログ 大衆演劇へ
にほんブログ村

関連記事
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)