たつみ演劇BOXお芝居「掏摸(すり)の家」

2013.8.14 夜の部@篠原演芸場

ポポポーッ、シュシューッ。
ああ、明治の音、西洋文明の音だ!

まだ舞台の幕が開く前。
今夜は月に一度の明治物のお芝居と聞き、期待いっぱいに待っていると。
篠原演芸場のスピーカーから聞こえて来たのは、走り去る汽車の音。
この演出だけで、普段の長ドスと三度笠の残像がすっかりかき消され、私の頭には明治浪漫の情景が鮮やかに広がった。

物語は、巾着切りの八木原庄吉(小泉たつみ座長)が、朝の新橋のステーションで「一仕事」終えて、住んでいる長屋に帰って来たところで始まる。

写真・小泉たつみ座長(当日舞踊ショーより)


冒頭の汽車の音は、たつみ座長の話によれば、
「すりが最初に新橋のステーションにいたことを表してるんですよ」とのこと。
こういう微細なお芝居の作り込みがたまりません。

今朝の庄吉は大収穫。
金持ちそうな老人の懐から、百二十円もの大金をかすめることができたのだ!
庄吉は早速、色々と装飾品を買いこんできて、女房のお紋(辰巳小龍さん)と、隣に住む竹さん(小泉ダイヤ座長)に見せつける。

「これはな、“ドンドン”の金時計。ドンドン、知ってるか?エゲレスって国があって、そこにある大都市がドンドンっていうんだ」
それに金縁眼鏡、ハット、コート。
指差しまではめて、庄吉はにまにまと浮かれ気分(この指差しは舞台用なのか、すごいキラキラ輝く)。

物欲が満たされれば、次は食欲だ。
「竹さん、食べたことのないもの食べに行こう。あれだ、“ハヤシライス”!」
「ライスってのはご飯のことだ。あのな、これからはご飯一つくださいって言うと笑われる時代になるぜ。ライスくらい知ってなきゃ、世の中についていけないよ」
竹さんの“ライス”の発音を直してみせたりして、得意げに西洋知識を披露する庄吉。
「ハヤシライスはお箸じゃあ食べられないんだよ。“スポーン”ですくって食べるんだ。あと、これ知ってるか。“サテーキ”。こんな厚―い肉で、“ライフ”とフォークで食べるんだ」
この辺はもう、たつみ座長のくるくる回る話術オンステージ。
ダイヤさんと小龍さんまで苦笑気味だった様子を見ると、相当アドリブで喋っていたんじゃないかなぁ?

先刻の奇抜な西洋ファッションで、庄吉は再び出掛ける。
どこへ行くのか?
「風呂屋だよ」
って、風呂桶持ってるし!
着古した着物の上にコートを羽織りハットを被って、いつもの風呂屋へ颯爽と出掛けて行く、たつみ座長の姿。
長身だけにハットが似合ってかっこいいんだけど、おかしみの方が勝る…。

この“浮かれちゃってる感じ”が、明治っぽい。
目覚ましい西洋文化に囲まれて、東京が一番浮足立っちゃってた時代のお話なんだもの。
ボロの着物に不似合いなキラキラした指差しはめて、庄吉は明治の東京の路地を抜けて行く。

――でも、いかに文化が新しい形に変わろうとも、不変のものだってある。
後半は人情噺。
散りばめられるアイテムも、古くから親しんだものに変わっていく。

昼下がり、風呂屋の出口で足をぶらぶらさせながら、庄吉を待っている竹さん。
その耳を疑うような話が聞こえてくる。

「今朝、新橋のステーションで、あの百二十円を盗られてしまった…」
「事業に失敗して、何もかも失った」
「家族四人、函館の知り合いを頼って行こうと、家も家財も売り払って、やっとの思いでなんとか作ったお金だったのに」

見れば、風呂屋の前に佇んでいるのは、老人(宝良典さん)と子どもが三人(小泉ライトさん・辰巳満月さん・わかこさん)。
老人は、疲れ果てた風情で子どもたちに語りかける。
「お父さんと一緒に行こう。死ぬのなら、みんな一緒がいい」
庄吉が盗んだ百二十円は、金持ちどころか、貧窮した一家のなけなしのお金だったのだ。

竹さんから一家の様子を聞いた庄吉は真っ青。
転げるように家に駆け戻る。
「あの、あの百二十円はなぁ、あれは盗んじゃいけない金だったんだ!」
半泣きで、庄吉は必死に百二十円を作る。
着物も家具も、お紋の頭からポコポコ抜いた簪も、目につくものを全部売り飛ばす。

「お紋、俺はもう、すりはやめる」
「今まで俺が盗んだ相手は、俺が勝手に金持ちだと思ってただけで、本当は違ったのかもしれない。俺が金を盗んだせいで、死んだ人もいたのかもしれない」

泣きの入った、たつみ座長の表情。
人情、おかしみ、哀しさ、裏表のない人への慈しみ。
そういうものがぎゅっとひとまとめに詰まった顔つきで、観ていると胸の深いところを衝かれるような気がする。

なんとかできたお金と、自分たちが食べるように注文していた、うな重の折詰を抱えて。
庄吉は、一家が待つ新橋のステーションへ韋駄天走り。
お金とうな重を届けるが早いか、今度はお紋と夜逃げの準備だ。
なんとか警察に見つけられる前に、長屋を去らなくてはならない…。

新しい時代のエッセンスがまぶされ、でも底には古い時代の人情が貫かれる。
たつみ演劇BOXの中でも、「掏摸(すり)の家」は大のお気に入りのお芝居になった。

個人的には、ハヤシライスとかうな重とか、目覚ましい食べ物がたくさん登場していたのも嬉しかった。
私はこんな記事を書いてしまうほど、お芝居に現れる食べ物に人並ならぬ関心があるので。

特に印象深いのは、風呂屋に入る前、庄吉がもぐもぐとあんぱんを食べ歩きしている場面だ。
風呂屋の前に立っていた、貧しげな身なりの子ども三人に、庄吉はあんぱんを買い与えてやる(実は庄吉がお金を盗んだ一家の子どもなんだけど)。
甘いあんぱんと子どもの取り合わせが、庄吉の心根の優しさを映し出す良い場面だった。

お芝居を観てから早速長谷川伸の原作を読んでいると、原作ではこのアイテムはお好み焼だった。
たつみ座長の口上いわく、お父様の小泉のぼるさんが長谷川伸の原作をよく読まれていて、作ったお芝居とのこと。
ということは、のぼるさんの頃からあんぱんを使われているのかな。
あんぱんってチョイス、いいなぁ。
遠い国からやって来たパンに、昔ながらのあんこを包み込んだ甘味は、このお芝居のシンボルのように感じられて。
第一、舞台でお好み焼を実際に食べるの難しそうだしね…(笑)

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