南條隆一座とスーパー兄弟お芝居「情炎地獄 お糸新吉物語」

2013.7.15 昼の部@三吉演芸場

久々に出掛けたマリンの街・横浜!
綺麗な港町の綺麗な劇場には(三吉演芸場はコンサートホールのようだ)、それは綺麗な劇団さんがいらしてました。
「南條隆一座とスーパー兄弟」には、陽光が水面に照り映えるようにキラキラと笑む、若い役者さんがたくさん!
中でも目が釘付けになってしまったのは、龍美麗座長だ。

写真・龍美麗座長(当日舞踊ショーより)



しかし、素直に、なんと美しい人だろう。
ついお写真も普段より一枚多めに上げてしまう…笑

お芝居「お糸新吉物語」では、美麗座長は主人公の新吉を演じられていた。
このお芝居は、新吉の悲惨を極める運命を描いたもの。

商家・近江屋の奉公人の新吉は、明暦の大火で顔の左半分に大火傷を負ってしまう。
恋慕うお糸お嬢さん(天生蛍さん)を助けるため、火の中に飛び込んだからだ。
だが、お糸は恩義を感じるどころか、醜くなった新吉を「化け物」と容赦なくなじる。
他の奉公人たちも、新吉の醜さを馬鹿にする。
「人間が三割、化け物が七割、人三化七、化け物顔!」
そんな冷酷な呼び名まで付けられても、生来真面目でおとなしい新吉は、じっと耐えて働き続けていた。

新吉の支えは、近江屋の主人(若葉隆之介さん)との約束だった。
「火事でお糸を助けてくれた礼に、将来は近江屋の跡を継がせ、お糸と必ず一緒にさせてやる」と。
だが、約束は裏切られる。
「おとっつぁん、あたし、好きな人ができたの」
お糸が結婚相手として連れてきたのは、名家の相模屋の若旦那(南條勇希さん)。
この瞬間、主人と新吉の約束は反故にされる。
「もう、お前の化け物顔を見ているのは我慢がならないんだよ。今すぐ、この近江屋から出てお行き!」
新吉がどんなに泣いて縋っても、主人もお糸も同情のかけらも見せずに、新吉に暇を出す。

どん底に落ちた新吉に、さらなる悲嘆が待っていた。
「新よ、お前、どうしてそんなことに…」
新吉の唯一の肉親である母親(大路にしきさん)が、遠い郡上から新吉を訪ねてきたのだ。
母は新吉の境遇を知り、近江屋の主人にもう一度雇ってくれるよう縋りつく。
だが主人は、年老いた母の涙の訴えも冷たく退け、突き飛ばす。
その際に打ちどころが悪く、母は呆けて正気を失ってしまう。

新吉の爛れた顔を見て、「鬼じゃ、鬼じゃ!」と怯える母の姿。
(個人的にはこの場面が一番涙線が緩んだ…)
「たったひとりのおっかあを、こんな姿にされて…」
新吉はむせび泣く。
しかし次第に、ふふ、はは、という泣き笑いに転じていく。
何の音もない舞台の上、肩を震わせながら、新吉の笑い声だけが響く。
積もり積もった恨みの果て、新吉の精神がついに壊れていくのを、美麗座長は見事に表現していた。

新吉は包丁を手に、祭りの街を彷徨う。
止めようとする人々を次々に刺し殺し、お糸を探す。
「お糸、どこにいるんだ?花嫁がいないと、婚礼にならないだろう…」
お糸を手招く新吉の表情は、柔和な微笑みだったりして、余計に怖い。
「愛しい恋しいお糸を抱いて、情念地獄への道行きだ!」
お糸の亡き骸を抱き、新吉は自らも自害して果てる。

終幕後の口上では、美麗座長が「今日は120%やれた」と、大熱演の汗を滴らせながら語っていた。
聞きながら私が連想していたのは、隙間なく敷き詰められた宝石箱。
この日の舞台景色は、なんと言ってもはめ込まれた細かな飛び石、伏線がきらりと光るものだった。

たとえば、幕開けと終幕には、同じ形の赤い宝石が置かれている。
幕開けは近江屋が燃えているシーンだ。
赤一色の照明と人々の喧噪で、一気に舞台に惹きつけられる。
私が目を見張ったのは、最後の一幕=狂乱の祭りの場面になったとき、全く同じ風景が広がっていたこと!
再びの赤一色の照明、新吉の狂乱におののく人々の、再びの喧噪。
お芝居の最初と最後の符牒が見事にはまり、同じ形で綺麗に閉じられる。

それから物語のミソである、近江屋の主人が新吉とお糸を一緒にするという約束を、反故にしてしまうエピソード。
ここには、ちゃんと心理的な置き石がされている。
最初、主人は新吉に当然恩を感じていたし、火傷についても同情的だった。
だからこそ新吉との結婚を嫌がるお糸に対し、
「いくら可愛いお前の頼みでも、おとっつぁん、それだけは聞けません!」
「お前は新吉と一緒になるんだ!」
と強固に主張していたのだ。

ところがお糸が連れてきたのが、相模屋の若旦那という、名家の青年だったのがいけなかった。
しかも、南條勇希さん演じる若旦那は、礼儀正しく男っぷりもいい。
主人がすっかり舞い上がってしまったのがわかる。
「相模屋さん、こちらこそ、今後ともよろしくお願いします」
若旦那に挨拶する主人の表情は、喜色満面。

この後から、新吉に向ける瞳は、侮蔑を隠さないものに変わるのだ。
「なんだい、店に置いてくれと未練たらたら…」
「お前のその醜い顔!私はね、世間の奴らにあの店は化け物を置いていると言われても、ずっと我慢してきたんだよ。もう、我慢ならないよ」
若葉隆之介さんの演じる態度の落差に、この日一番肝が冷えた。

さらにさらに。
最後の新吉の発狂に至るまでも、伏線を凝らしてあった。
クビにされた直後、新吉は一度包丁をかざしてお糸を襲おうとする。
でも、わずかに残った情ゆえに、刺すことはできなかった。
この時点では新吉は復讐を諦めたかに見えた。
――けれど、床に落ちたままの包丁が偶然視界に入ったとき、新吉はふと歩みを止める。
そして、無言で何かを考えている。
美麗座長は無表情なんだけれど、その背中の演技から、新吉の復讐の炎がまだくすぶっていることをありありと感じ取れる。
このワンクッションがあるから、最後の狂乱に至るまでの新吉の心の動きが、微細に舞台に現れるのだ。

そんな風に、ぴたりぴたりと敷き詰められた、細かな置き石がたくさん。
美しい役者さんたちの仕上げる、美しい宝石箱を覗かせてもらった。

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