たつみ演劇BOXお芝居「雪の渡り鳥」

2013.7.7 昼の部@浅草木馬館

男の腕に抱き止められていてすら、女は男を見ない。

「あたしも、あたしもうちの人のところへ行く」
「夫婦だもの、死ぬときはおんなじ場所で死にたい―…」

銀平(小泉たつみ座長)の腕の中にいるのに、決してお市(辰巳小龍さん)は銀平を見ない。
お市の心は、そこにいない夫の下へ走るばかり。
すれ違う二つの心の上に、降りかかる雪の白。

辰巳小龍さん(当日第1部・ミニショーより)


小泉たつみ座長(当日第1部・ミニショーより)


七夕飾りの笹が、あちらこちらでしゃんしゃん揺れる、浅草の昼下がり。
いつでもハレの街は、さらに浮足立っていて。
そんな日にたつみ演劇BOXさんを初鑑賞できるというだけで、私の胸は高鳴る一方。
さらに、張り出されていたお外題が、長谷川伸原作の特選狂言「雪の渡り鳥」だったもんだから、これは幸運極まりない。
(「雪の渡り鳥」は、昨年感想記事を書いた「長谷川伸傑作選」にも収録されていました)

期待を重ねて見つめていたお芝居は、辰巳小龍さん演じるお市の浮かない顔から始まった。
お市の実家の駄菓子屋の前、女達が噂している。
「大鍋の島太郎親分が仕切ってたこの土地も、最近は帆立の丑松に勢力を広げられてるわね」
「今度、大鍋一家と帆立一家で、大きな喧嘩になるみたいよ…」
お市は、噂話に加わらないものの、物憂い顔でじっと耳を傾けている。
お市の恋慕う卯之吉(小泉ダイヤさん)は、大鍋の島太郎の部下である。
喧嘩で卯之吉が命を落としたらと、気が気でないのだ。

この冒頭場面で、既に小龍さんに惹きつけられていた。
小龍さんが着ているのは、黒の着物に赤の模様。
憂う表情と相まって、悲しみをまとっているかのようだ。
駄菓子屋の奥にお市がいるだけで、舞台景色の奥から一点の悲しみが染み出してくる。

「おいっちゃん、卯之が心配なんだろう」
一方、たつみ座長演じる鯉名の銀平は、お市に惚れている。
兄弟分の卯之吉にだって、恋の道はゆずれない。
「俺にとっての女はおいっちゃん一人と決めているんだ」

しかし、既にお市と卯之吉が恋人同士になっていたことを知り、銀平は激怒。
「俺はとんだ大間抜けだ!」
卯之吉が喧嘩に向かったことを嘆くお市にも、可愛さ余って憎さ百倍、
「そうかい、泣け、好きなだけ泣けばいいさ」
なんて冷たく言ってしまう。

でも。
いざ卯之吉が帆立一家に斬られそうになると、銀平の刀は卯之吉を庇って閃く。
「お前のことは憎いさ。でも…お前が斬られたらと思うと、おいっちゃんの泣き顔が浮かんでくらあ」
「どうか、おいっちゃんを幸せにしてやってくれよ」
この、純情。
たつみ座長の持つ爽やかさが、銀平のキャラクターを裏打ちしている。

銀平は喧嘩が終わると、下田の土地を離れて旅烏に。
卯之吉は堅気になって、お市の実家の婿に。
運命は分かれて、再び幕が開けば、前幕より4年の経過。

寂れた駄菓子屋の前で、卯之吉が帆立一家の連中に足蹴にされている。
「何度うちの一家に入らねえかと誘っても、お前が断るからだ」
「殺しはしねえんだからありがてえだろう、この土地から出て行くだけでいいって言ってるんだ、さっさと出て行きな」
4年の間に大鍋一家は力を失い、下田は帆立一家に支配されていたのだ。

卯之吉を必死に庇うお市。
「なんて酷いことをするんだい!やめとくれ」
痛めつけられた夫婦に、容赦なく降り積もる雪。
「ああ、お前さん、痛かっただろうねえ…」
小龍さんの響く声は、諦念を含んで細く。
お市という女性が絡め取られている、悲運の糸を浮かび上がらせる。

そこへ、銀平が4年ぶりに帰ってくる。
お市の顔を見たとき、銀平は困ったように笑う。
「おいっちゃん…」
目を合わせないで、地に視線を落として浮かべる苦笑。
弱ったなぁ、自分はこの人がまだ好きなんだなぁ、4年経っても今なお。
そんな思いを訴えかける、たつみ座長の表情が、直後のクライマックスの伏線として効いてくるのだ。

「うちの人がいない、いないんだよ!」
真っ青になり、動転するお市。
なんと卯之吉は、単身で帆立一家に乗り込んで行ってしまったのだ。

卯之吉のところへ駆けつけようとするお市を、銀平は片腕で素早く抱き止める。
ずっと前から、幾年も恋慕った相手。
下田を離れてもなお、4年間想い続けた相手。
その相手が、今ここにいる。

けれどお市は身をよじり、卯之吉が去った方向へ、悲痛な声で叫ぶ。
――死ぬときはおんなじ場所で死にたい――

いくばくか、間があって。
舞台の明かりが落ち、白いライトが銀平とお市の二人だけを丸く切り取る。
銀平の心と、お市の心が、交差して舞台を通り過ぎていく。
そして銀平は噛みしめるように、二度頷く。
お市の肩をつかみ、ただ頷く。

どうしたって、この人は自分を見ないのだ。
どうしたって、叶わない想いだったのだ。
銀平の切なさが、純情が、堰を切ったように押し寄せる。
今まで抑え目に表現されていた分、余計に涙線に迫る。

銀平は卯之吉を助けに走る。
卯之吉は、既に帆立一家の親分・丑松を屠っていた。
鬼気迫る立ち回りの場面の後、二人とも無事生き残ったと思いきや。

「帆立の丑松の下手人は、卯之吉、お前か」
役人(嵐山瞳太郎さん)が縄を手に現れる。
卯之吉と役人の間に、銀平が割って入る。
眼差しには、まっすぐな覚悟。
「いいえ、帆立の丑松をやったのは、間違いなくこの鯉名の銀平です」

お市は泣き崩れながら、銀平に手を合わせる。
銀平は、またあの困ったような微苦笑を浮かべて。
「4年前、この下田を離れたときは、涙で聴いた下田節が」
「今は、嬉しい門出の祝い節に聴こえらあ…」
笑顔のまま、番所へ引いて行かれる銀平の姿を焼きつけて、終幕。

演劇グラフによれば、たつみ演劇BOXさんのモットーは「綺麗に品よく」。
まさにモットーを体現した、表される心の綺麗な、どこまでも綺麗なお芝居だった。

日々、美しいものをたくさん見つけられますように。
私の今年の七夕の願いごと。
本日早速叶ったところを見ると、伝統的な短冊と笹の神通力は侮れないかも。
まぶしく輝くBOXの中で、お江戸の暑い季節を過ごすことになりそうです。
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