剣戟はる駒座お芝居「すっとび街道」

2013.5.26 昼の部@ユラックス

「すっとび街道」って、元気に弾むような、それでいてなんて能天気なお外題なんだろ!

「俺は、名無しの権兵衛ってもんです」
前日に観た「残月二本棒」に続き、竜座長が演じるのは限りなく粋で軽快な旅鴉。
腕は達者、口はそれ以上に達者。
偶然助けたやくざ一家のいざこざに巻き込まれ、喧嘩の助太刀に行く…という股旅物定番の展開でも。
「俺、命がけで助けに行くんだもん。なんかさぁ、俺がやる気になるような言葉で送り出してくれよ」
一家のお嬢さん(千晃ららさん)に、”ぐっとくるような見送りのポーズとセリフ”を要求しちゃうマイペースさが新鮮だ。

敵対する一家の親分(勝龍冶さん)は、そのお嬢さんを狙っている。
でも、なんと言っても名前が赤っ鼻の権兵衛だもの。
「いいだろう、俺が十八の娘に惚れたって!」
歳の離れたお嬢さんをなんとか我がものにしようと奮闘する様が楽しい、愛すべき悪役だった。

明るい日曜日の昼下がりにぴったりな、うららかな舞台景色。
その中でとりわけ私の胸に残ったのは、一家の二番目のお嬢さん(宝華紗宮子さん)だ。

写真・宝華紗宮子さん(当日舞踊ショーより)


二番目のお嬢さんは、目が見えない。
そのためか、一家の中でもあまり日の当たる扱いではなかったことが垣間見える。
一番目のお嬢さんが父に当たる親分(勝小虎さん)と一緒に外出するときも、二番目のお嬢さんは家にいるし。
喧嘩が勃発した際には、せっかく心配して親分の元に真っ先に駆けつけたのに。
落胆した様子で、「なんだお前か…お前がいてもどうにもならん」とか言われているし。

そんな陰の存在でも。
決して、弱々しい薄幸の少女じゃあないところが、このお嬢さんの魅力だ。

白眉は、ひっそり恋心を抱いている権兵衛に、自分のかんざしを拾ってもらう場面。
「そのかんざし、旅人さんにあげるわ」
「いや、俺はこんなものもらっても…使うあてもないし」
するとお嬢さん、ちょっと尖った声音で言い放つ。
「かんざしの心ってわかる?」
へ?と固まる権兵衛。
「やくざの道には明るくても、恋の道には暗いのね」
そして、見えない目でも颯爽と歩き去っていく。
この一場面で、二番目のお嬢さんのキャラクターは私の胸に刺さった。
小さな体に詰まった、凛とした誇り!

紗宮子さんの声の良さは、木馬館で観た「河内十人斬り」のおやな役で堪能した。
繊細な声質なのに、しっかりした芯があるのだ。
りぃん、という音が零れてきそうな声で紡がれると、セリフの一つ一つはきらりと珠玉。
「旅人さん!」
この呼び声の愛らしさといったら。

終盤、二番目のお嬢さんは、喧嘩を終えた権兵衛を心配して駆けて来る。
「あんた、心配して来てくれたの?いやぁ、嬉しいなぁ~」
権兵衛もそりゃあ喜色を浮かべる。
と、ここでお嬢さんは驚きの行動に出る。
「旅人さん、また旅に出るんでしょう?私も連れて行って!」
「私の目、長崎で手術すれば治るんですって。手術に百両かかるんだけど、お父さんに言ったら、ほらここに百両持たせてくれたのよ」
医療費をしっかり抱いて、惚れた男と一緒に行く準備は万端。
このアクティブさがたまらんですね。

小さな体躯が、ひょいと権兵衛の背に乗る。
「本当に治るんだろうね?」
とちょっと疑わしげな権兵衛の瞳に、頷きながらにっこり笑い返すお嬢さん。

宝華紗宮子さん、萌木を連想させる若干13歳の役者さん。
そのしなやかな演技と声の良さをもって、いつもお芝居にみずみずしさをもたらしてくれるなあと感じます。

この週末を最後に、はる駒座とはしばしのお別れ。
関西・四国方面に向かった御一行を、慕わしく思わない日はないけれど。
あの洗練された輝きへの再会はそう遠くないと信じて、しばらくはお江戸に届く風の噂を聞く日々です。
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