剣戟はる駒座お芝居「月天下江戸子狐」

2013.5.19 昼の部@ユラックス

「月天下江戸子狐」は罪を贖う物語。
拭っても拭えない過去の汚れを、それでもどうやって清めようか?
そのためにあがき、葛藤する青年の話。

いやぁ、不動倭さんの真っ直ぐな魅力がユラックスの舞台で爆発していましたね!

写真・不動倭さん(当日舞踊ショーより)


江戸の商家の手代・平左(不動倭さん)には、誰にも言えない秘密があった。
かつて、子狐党という泥棒一味にいたことだ。
「俺はもう、すっぱり泥棒はやめたんだ。お天道様に顔向けできない生き方は、もうやめるんだ」

だがある日、平左は掛取りのお金の五十両をスリに盗られてしまう。
日頃から平左をよく思っていなかった番頭(勝小虎さん)は、これ幸いと無理な命令を出す。
「自分の力で五十両、揃えてみろ。それができなければクビだ」

困り果てながらも、平左はスリを探して夜の江戸を彷徨い歩く。
三日が経つ頃には、疲弊しきって倒れこむ。
「あんなスリ一人、見つかりっこねえや…」
かつては自分が人の金を盗んでいたのに。

だが、幸運なことに平左はスリを発見し、追いかける。
スリは三次(津川隼さん)という男だった。
女房・赤ん坊を抱えて、生活苦のあまりスリに手を出したと言う。

「盗みでもしなきゃ、女房とまだ小せえ子供に食わせるものもねぇんだ…」
と、俯く三次。
その肩を叩いて、平左は月明りの天を指す。

「一度犯した罪ってのは、簡単に消えるものじゃねぇ。どんなに消そうとしても、どんなにあがいても、ずーっと残るんだ」
「それでも、罪を償っていかなきゃならねぇ。まっとうに生きてかなきゃならねえ」
「いつかお天道様に、世間様に顔向けできるように…」

ああ、三次に言う形をとって、平左は自分に言っているんだ。
かつて泥棒だった自分自身に、言い聞かせているんだ。

この説得の場面で、因果応報の構造がはっきり浮かび上がる。
かつて泥棒だった平左が、今度は自分の金を盗まれる。
そして以前の自分と同じ、泥棒稼業の三次と出会う。
因果が巡り、罪が巡る。
「なあ、消えない罪でも、一歩一歩償っていかなくちゃならねえんだ」
月を見つめ、天に縋るように語る平左。
その姿には、この負の因果の連鎖から、なんとか抜けだそうとする真摯な光があった。

しかし三次は、平左の説得を聞いてもなお懲りない。
スリの証人を消すべく、背後から平左に短刀を向ける。
「何しやがる、てめぇ、まだわからねぇのか!」
揉み合ううち、短刀は三次の掌を切り裂いた。
痛がる三次に、平左は言い捨てる。
「ちょうどいい、その手じゃあ、もう二度とスリはできねぇだろう!」

倭さんのぶれのない視線が、平左のキャラクターをきりりと締める。
一方隼さんは、険しい眼差しに三次の切羽詰まった感じが出ていて、真に迫っていた。

平左は三次への共感と憐れみから、盗られた五十両をやってしまう。
では自分の金はどうするかというと、きついが給金が良いと噂の人足の仕事に、数か月も従事するのだ。
ラストシーンの平左は、仕事でよれよれになり、汚れた顔に破けた着物。
それでも五十両を稼ぎきって、晴れ晴れと商家に戻って来る。

「平左、私が悪かった、どうか許しておくれ」
と頭を下げる番頭に、平左は心から言ってみせる。
「いいえ番頭さん、これからも、どうぞ平左を可愛がってやっておくんなさい!」

ああ、どんな罪も、きっといつか晴れる日が来る。
どんな悪い因果も、きっと断ち切ることができる。
「月天下江戸子狐」の向こうには、そんな明るい道行きが広がっていた。
こういう道に出会いたくて、信じたくて、だから大衆演劇を観続けているのだよなあ。
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