剣戟はる駒座お芝居「やくざの花道」

2013.5.17 昼の部@ユラックス

4月の別れからわずかな間を置き、四日市へと心はそぞろに旅支度。
週末に行って参りました、天然温泉ユラックス!

お芝居「やくざの花道」で実質主役をつとめていたのは、副座長・津川鶫汀さん。
5月11日にお誕生日を迎えられたばかりのせいか、自信と輝きがさらに増したような。
そして、私の目には主役と同等の重みをもって映ったのが宝華弥寿さんだ。

写真・津川鶫汀副座長(当日舞踊ショーより)


写真・宝華弥寿さん(当日舞踊ショーより)


物語は、貸元の高垣一家の内部抗争だ。
若衆の剛三(勝小虎さん)は企みによって親分・高垣五右衛門(勝龍冶さん)を殺害し、新たな親分の座に収まる。
組の衆はみな剛三一派の手に落ちた…ように見えたが。

剛三の思い通りにならない人物が2人だけいた。
一人は気の優しい飯炊き男・卯之吉(津川鶫汀さん)。
もう一人は盲目の先代のお嬢さんで、殺された五右衛門の女房(宝華弥寿さん)。

剛三一派に邪険にされる卯之吉とお嬢さんが、夕焼けを背景に寄り添う場面がある。
「卯之吉、お前だけはいつまでも、裏切らないでいてくれるんだね…」
四面楚歌の中、残された弱き者たちが腕を差し伸べて支えあうのだ。
その情景のなんと温かいことか。

「お嬢さん、今日は目のお医者様はなんておっしゃってましたか」
問う卯之吉に、お嬢さんがはにかみながら答える。
「あたしのこの目ね、長崎で手術すれば開くかもしれないんだって」
「手術に百両…かかるんだけどね」
百両。
額の大きさに戸惑いながらも、卯之吉は言う。
「いや、その百両、そろえてみせましょう!」
「俺に金持ちの友達が要るんです、友達に頼んでみます」
もちろん、咄嗟の嘘だ。
「卯之、お前小さい頃からずっとうちの一家にいたのに、友達なんていたんだねぇ…」
お嬢さんは薄々嘘だと勘づきながらも、口に出すことはしない。
自分を思いやる飯炊き男の心を汲んで、ただ頷いてみせる。

二人の間にあるのは、親子愛でも恋愛でもない。
ただ、殺された親分への恩義。
それから互いの弱さへの慈しみ。
「やくざの花道」が清廉な印象を残すのは、卯之吉とお嬢さんを結ぶもやいの美しさのためだと思う。

それから小虎さん演じる剛三がほぼ出ずっぱりだったのも、個人的には嬉しかったポイント。
前回の鑑賞の「恋の高岡」では、"のんびりした悪役"という新鮮な色味を見せていただいたけど。
うって変わって剛三は強烈な"飢え"を感じさせる、典型的な悪の形。

写真・勝小虎さん(当日舞踊ショーより)


「人間は頭を使って生きなきゃいけねえよ」
剛三が黒い企みを子分たちに語るとき、浮かぶ笑みの冷淡なこと。
求むるはひたすら力、権力!

とはいえ、典型的な悪役像にも背景が醸し出されるのがはる駒座のすごいところ。
お嬢さんのセリフで、剛三がかつて病で行き倒れていたことが明かされる。

「剛三お前、思い出してごらんよ、何もかも失くした行き倒れだったじゃあないかい」
「うちの一家でそりゃあ懸命に面倒を見て、病も治って元通りの体になって」
「そのときお前、涙流して“どうか一家の子分の端に加えてください”とお願いしただろう」

この昔語りを聞いているときの、小虎さんの表情は見事だった。
片眉上げて、むっつりと押し黙る。
目線だけは侮蔑のまま、お嬢さんを見やる。
さぞつまらなそうに。
さぞ触れられたくないところを触れられたと言うように。

何もかも奪われ、世間に踏みつけられてきたからこそ。
剛三の人間への不信は深く、揺るがない権力への欲求は強いのではないか?
過去を垣間見せられることによって、そんな想像をしてしまう。

それが際立つのは剛三の最期の場面だ。
剛三こそ親分の仇と知った卯之吉に、槍を突き付けられ、背後からは押さえられ、絶体絶命。
私の予想では、てっきり命乞いのセリフが来ると思ったのだ。
堪忍してくれ、命ばかりは…そんな悪役のお定まり。

だからびっくりした。
「卯之吉てめえ、ふざけるんじゃねえ、三下はすっこんでろ!」
小虎さんの怒気に満ちたセリフが舞台に響いたときは。

自分が卯之吉に殺されかかってるのに。
明らかに命が危機にあるのは自分なのに。
露わにするのは恐れではなく、怒り。
「てめえごときに何ができる、三下が出るところじゃねえんだ!」
卯之吉を"三下"と何度も呼ばわって。
どこまでも力に飢え、どこまでも世間に吼えつく。

この剛三という一やくざを中心に観ると、全く違う「やくざの花道」が見えてきて、それも面白い。

なんにしろ。
観劇席で仲良くしていただいた地元のご婦人と一緒に、お漬物を頬張りながら。
見上げたユラックスの舞台は、どこまでも眩しかったのです。
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