劇団KAZUMAお芝居「浅草三兄弟」

2013.5.3@夢劇場

「でもなぁ、吉松、お前」
「祝言のときは、寂しかったろう…」

あぁ、もう、だめだ。
藤美一馬座長のこのセリフを聞いた瞬間、私の涙腺は崩壊した。
涙でぼやける舞台は、弟(柚姫将さん)を助けて死んでいく兄(藤美一馬座長)の最期の場面。

写真・柚姫将さん(当日舞踊ショーより)


写真・藤美一馬座長(当日舞踊ショーより)


くだまつ健康パークでのKAZUMA鑑賞から3か月。
(そのときの鑑賞録はこちら⇒「花かんざし」「生首仁義」「文七元結」)
観劇仲間と約束していたゴールデンウィーク、夜行バスが向かう先は広島・福山!
広島は旅行で以前2回来たことがあるけど、どうしてかいつも美しいほどに晴れます。

初夏の陽射し差し込む夢劇場、地元のファンに囲まれた舞台の幕開けを待っていれば。
冴刃竜也さんの声で場内アナウンスが始まり、それすらも懐かしく思えて、観劇仲間と顔を見合わせて笑ってしまう。

遠征初日のお芝居「浅草三兄弟」は前々から良い評判を聞いており、観たかった作品だった。
題の三兄弟とは、やくざの義兄弟である橘金五郎(華原涼さん)・半次(藤美一馬座長)・吉松(柚姫将さん)のこと。

末弟の吉松は、油どん屋・和泉屋の旦那(龍美佑馬さん)に諭されたのをきっかけに、やくざを辞めて堅気になりたいと言い出す。
長兄の金五郎は、「捨てられていた赤子のお前を育ててやった恩を忘れたのか…」と、決して許さない。
だが次兄の半次は、「お前の望むようにしたらいい」と、吉松を足抜けさせる。
ついでに半次自身もやくざを辞め、堅気の商人になる。

時は流れて3年後。
吉松は懸命に働き、和泉屋の婿養子兼番頭にまでなっていた。
けれど吉松の前に、身を持ち崩した様子の金五郎が突如現れる。

「ちょっとしくじっちまってな、遠くへ逃げる必要がある。金が要りようなんだ」
「ひと箱千両、用意してくれりゃあいい」

「そんな大金、私の勝手にできやしません…!」
青くなる吉松の言葉も聞かず、金五郎は立ち去る。
困り果てたところへ、雨に降られてもう一人の客人がやって来る。
客人の顔を見た途端、吉松は苦悩も吹き飛んでぱあっと笑う。

「兄貴!半次の兄貴じゃないか!」

将さん演じる吉松は、とにかく可愛いの一言。
感情に素直で一途な性格が、金五郎と半次に接する態度の差に明確に表れるのだ。
金五郎に対しては畏敬を抱いているけれど、警戒心も垣間見える。
「金五郎の兄貴じゃござんせんか」
「兄貴への恩を忘れやしません。私でお役に立てるのでしたらどうぞ言ってやってください」

一方、半次に対しては警戒心ゼロで、ただただ慕っている。
「兄貴!聞いてくれよ、おいら、堅気になって懸命に頑張ったんだ。そして今やこの店の婿養子になったんだよ」
半次も堅気になって飴売りをしていると聞けば、無邪気に喜んで、
「飴売りだって立派な仕事じゃあないか」
3年ぶりに会う半次に、話したいことも聞きたいこともたくさんある!
そんな高揚感が、正座してニコニコと話す将さんの全身から溢れていて。

こんな弟が自分を慕ってたら、そりゃあ可愛いだろうなぁ。
この弟が堅気になりたい、真っ当に生きたいって言えば、どんな危険を冒してもそうさせてやりたかろうなぁ。
吉松の素直さ・可愛さが、半次の行動に説得力を与えているのだ。

半次は吉松の元気のない様子に目ざとく気づく。
吉松は「何もないよ」と隠し通そうとするも、
「昔はお前、今日はあれがあったこれがあったって、胸の内をぜーんぶ打ち明けてくれたじゃねえか。それが水くさくなったなぁ…」
なんて言われれば。
「あのね兄貴、実は…」とつい口火を切るのだった(このやり取りがまた、兄弟の情愛を感じさせて良い!)。

金五郎の千両の無心の件を聞き、半次は再び弟を助けんと決める。
――たとえ、今回は助太刀の代償が自分の命だとしても。
半次は金五郎と一騎打ちをし、相打ちとなる。

瀕死の半次の下へ、吉松と吉松の妻(霞ゆうかさん)・義父にあたる和泉屋の旦那が駆けつける。
初対面の吉松の家族に、半次は苦しい息の下で語りかける。
「吉松は、こいつはいいやつなんだが少しばかり頑固なところがある…どうか支えてやってください」
「妻として内助の功をして、夫婦仲良く、弟を助けてやっておくんなさい」
この兄は、最後の最後まで弟のことばかりを言い遺す。

最期の場面に駆けつけるのが、吉松一人でなくてよかった。
気がかりな弟をただ一人この世に残していくラストだとしたら、あんまり寂しい、あんまり悲しい。
吉松の今の家族を見せることによって、半次が弟の幸福を守りきったことが、観客の目にはっきりわかる。

そして次の珠玉のセリフだ。

――祝言のときは寂しかったろう――

聞いた瞬間、吉松の目がハッと見開いて。
震えながら、噛みしめるように頷く。

「花嫁の側にはたくさんの親戚一同がいるのに、お前の側には誰もいなくて、一人ぼっちで」
「俺が祝言のことを知ってりゃあなあ…どんなに遠くにいても、駆けつけてやったのに」

自分の命の灯が尽きる瞬間まで。
弟を思う心の結晶が、ぽろりぽろりと舞台に零れていく。
それも一馬座長のやさしい声音で。

観客席の後ろから投げかけられる光は、青を含んで仄暗い。
この舞台景色のもの悲しさは、いつまでも私の胸底に沈んでいるのだろう。

晩になってホテルの部屋でも、観劇仲間と半次の最期の場面については言葉が尽きず。
逆に言葉にできずに、ただ潤む目で押し黙ったり。
気づけば、翌日の朝の道中まで、半次の話をしていたりした。

けれど翌日のお芝居は爽やかに明るく、夢劇場編は2日目に続くのです。
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