剣戟はる駒座お芝居「恋の高岡」②不動倭さんの忠七役・勝小虎さんの青木役

2013年4月最終鑑賞@篠原演芸場

「好きな役者さんがお芝居でどんな役をしてたら嬉しい?」
ふと観劇仲間に聞いたところ、答えは即答、
「悪役」。
うん、私もそうです。
このブログでも、悪役への並々ならぬ愛は常にだだ漏れかと思います。
だって悪役を演じる役者さん次第で、お芝居の色合いって無数無限!

明るい光を放つ主人公に対して、悪役が舞台に落とすのは影の色。
それは欲望剥き出しの真っ黒い影か(例・「河内十人斬り」の晃大洋さん演じるおかく)。
あるいは、残虐性を飲みこんだ静かな陰か(例・「八幡祭 江戸の朱月」の津川鶫汀さん演じる美代吉)。
はたまた、一見清い人物に見えながら、気づけば舞台に広がっている仄かな翳りか(例・「はぐれ鴉」の勝小虎さん演じる食客)。
はる駒座が魅せてくれた、たくさん、たくさんの悪役は、どれも私をゾクゾクと惹きつけてくれた。

これではる駒座鑑賞録は最後なので、ついつい気合いが入って前置き長くなりました。
本題は、「恋の高岡」における不動倭さんと勝小虎さんが、至高の名悪役だったということ!
まず倭さん演じる吉田屋番頭・忠七は、”お人好しの困り顔”に包み込んだ腹黒さがポイント。

写真・不動倭さん(当日3部・舞踊ショーより)

この女形の可愛さと、お芝居のギャップに驚嘆した…。

忠七の初登場は、みつからの酷い文に動転した幸十郎に突然呼び止められるところ。
「ええ、私に何か御用ですか?」
幸十郎の剣幕にちょっと引き気味の様子で、それでもおずおずと門をくぐる。
幸十郎にみつからの文を押しつけられ、すっかり困り顔。
倭さんの演技の優しさゆえに、この場面を観ていたときは私も忠七の打ち明け話を信じそうになった。

<お嬢さんは借金のために気に染まない相手と一緒になる>
<恋しい幸十郎殿を忘れんがため、こんな酷い文を書いた>

忠七が眉をハの字にして、
「絶対にこの話は人にはしないでくださいよ」
と言いながら話すと、真に迫っているのだ。
家宝刀・金色丸を幸十郎から受け取るときも、
「幸十郎殿のお気持ち、受け取りました…!」
と人の良い初老男の風体で頭を下げる。
その姿が観客の目に残ったまま、幕間へ突入。

だから、次に幕が開いたときの衝撃と言ったら。
「お嬢さんは、あの高岡のことなんかとっくに愛想が尽きてんのさ」
「あの刀、本当に百両で売れたんだよ。金は俺の懐行き」
忠七は悪酔いに任せ、芸者・千代菊(宝華弥寿さん)相手にくだを巻いている。
言葉は乱暴、表情は粗暴。

こちらが忠七の本性なんだ。
と気づかされると、急に恐ろしくなってしまった。
忠七という男は、これまでもずっと、お人好しの容色に包むことで悪事を誤魔化してきたんだろうか。
婚礼の場面で乗り込んできた幸十郎に、
「番頭の忠七殿が全ての事情を知っているはずだ!」
と詰め寄られても、弱ったなぁといういつもの顔で、
「幸十郎殿は…何を言っているのか…とんとわかりかねますなあ」
と言ってみせたように。
大商家の番頭にまで登りつめた忠七という男の人生が、いかに底暗いものだったか。
そんな事を想像せずにはいられないほど、倭さんの描く人物像は厚みのあるものだった。

続いていま一人。
小虎さん演じる青木殿は、”のんびりした鈍さゆえの悪”という、一種新しい悪役でした。

写真・勝小虎さん(当日3部・舞踊ショーより)


青木殿は、このお芝居の敵役のポジションを全て引き受けている。
冒頭でみつを無理やり連れようとし、みつの心を射止めた幸十郎の家に火を付けさせ、最後にはみつの婚礼相手になってしまうのだから。

凄いのは、それにも関わらず、強い悪の性が全く感じられないということ。
それが顕著なのは、津川祀武憙さんらが演じる取り巻き達に、幸十郎宅への付け火の成果を聞きだす場面だ。
「どうだ、どうだった!やったか?」
どこかワクワクした声で尋ねる。
気に入らない奴にちょっとした悪戯を仕掛けたかのように。
うまくいったと聞けば、満足気ににっこり。
「そうか、よくやってくれた。では、皆で飲みに繰り出すとするか!良い女がたくさんいる所でな」
この呑気さ。
自分が付けさせた火が、幸十郎を今頃地獄の底に突き落としていることなど、全く思い当たらない。

青木殿の人格を醸し出すのは、小虎さんの発声の仕方だと感じた。
のんびりした、おっとりすらした話し方。
「みつ、お前、私の誘いを断るというのか」
いかにも大事に育てられた、旗本の坊ちゃんそのもの。
青木殿が恐ろしいのは、この鈍感さゆえだ。
自分のやっている事の残酷さに気づかないのだから。

婚礼の場面では、白袴で飄々と座っている青木殿。
幸十郎が乗り込んできて、自分の付け火のために崩れたその顔を見ても、青木殿はおののく様子もなくて。
まったく困った奴がいたものだ…という風に、ため息ついて。
「何をおかしなことを言っているのだ、この男は」
幸十郎の苦悶も狂気も全く察知することなく。
事が片付くのを、呆れたように眺めている。

ある意味、悪意剥き出しの悪役より怖いんじゃあないか。
何も気づかない、響かない、鈍色の悪。
また一つ、新しい色を見つけた。

はる駒座に通った2か月、小虎さん・倭さんの悪役を観る機会は嬉しいことに多かった。
この御兄弟の演技は、つくづく名品尽くしだったと思う。

もちろんそれは、はる駒座の一つ一つの綺羅星に対して言えること。
初鑑賞の「秋葉の宗太」に、興奮しきりだった木馬館の帰り道。
それからあっという間にふた月が経ち、眼前を駆け抜けていった光は、もうお江戸を飛び去ってしまった。

でもやっぱりあの舞台の光が恋しくなって、気づけば私は旅の空…なんてこともあるのでは。
だからひとまず、2か月間のはる駒歌舞伎にありがとう。
奇跡のようなお時間でした。
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