剣戟はる駒座お芝居「恋の高岡」①津川竜座長の幸十郎役・千晃ららさんのみつ役


2013年4月最終鑑賞@篠原演芸場

「私をうつけと思うか。何もかも失って、恋のために家宝まで手放そうとする私を」
津川竜座長の叫び声が、観客席に投げ打たれる。
「それでもこの幸十郎は、恋の炎に焼かれたのだ…!」

写真・津川竜座長(当日3部・舞踊ショーより)


写真・千晃ららさん(当日3部・舞踊ショーより)


はる駒座が彩ってくれた、春爛漫の卯月は過ぎて。
あっという間に夏の香りが近づいてきたけれど。

つくづく、千秋楽直前に「恋の高岡」が観られたことは幸運極まりなかった。
時節もぴったり、桜咲く春の恋物語だ。
ただし、恋の濃度は非常に高め。
熱く円熟した桜色が、狂気をはらんで溶け落ちる春!

恋の主役は備前の旗本・高岡幸十郎(津川竜座長)と、吉田屋のお嬢さん・みつ(千晃ららさん)。
話は幸十郎視点で描かれるので、みつの出番は冒頭と終盤のみだ。
けれど、少ない登場場面でららさんが演じるみつの可愛さといったら。
たとえば冒頭で、一面の桜を背景にした舞台に、みつが花道から駆けて来る。
「まぁ、きれいな桜…!」
とはしゃぎ回り、舞台でくるり、くるり。
ららさんの動きに合わせて揺れる振袖は、鮮やかな黄緑と桜色。
その姿こそ、咲き零れる桜のように可憐だった。

以前からみつを狙っていた旗本の青木殿(勝小虎さん)に連れて行かれそうになったところを、通りすがりの幸十郎が助ける。
幸十郎に惚れたみつは、世話係・お竹(叶夕晏さん)に名前やら年齢やらを問わせる。
けれどいざ幸十郎がみつのほうを向くと、
「お竹ったらもう、恥ずかしいじゃないの」
と顔を隠し、恥じ入って走り去ってしまう。
ああ、もうとろけるほど可愛い…。
ららさん演じるみつの可愛さがあってこそ、全体の恋物語に説得力があるのだ。

一方、幸十郎は従僕の一助(津川鶫汀さん)と二人で暮らしている。
家でみつからの文をそわそわ待つ幸十郎の姿は、なんとも微笑ましい。
「みつ殿からの文は、まだだろうか。一助、お前、ちょっと様子を見て来い…」
(使いの子供の声)「ごめんくださーい」
「おお、おお、文が来たか!」
文が着くやいなや、相好を崩して読みふける。

この辺りは幸十郎の幸福感が満ち満ちていて、観客席で私もにんまりしていた。
ああ、可愛い恋だなぁ。
相手の一挙手一投足、一言一句で浮足立ってしまう、心が一杯になってしまうんだなぁ。

――でもこんな恋の形は長くは続かない。
全てを崩すのは、幸十郎の屋敷から出た火だ。
幸十郎に嫉妬した青木殿が、付け火をさせたのだ。

火事で幸十郎は、その端正な顔に大火傷を負ってしまう。
みつは見舞いに一度来たきり、幸十郎の元を訪れなくなった。
文もぱたりと途絶えた。
「みつ殿はどうしたのだろう…」
みつの愛情が変わらないものと信じて無心に文を待つ主人に、一助は何か言いたそうな面持ち(今回の鶫汀さんは、忠実な僕役に相応しく抑えた演技が実に良かった!)。
そこにようやっと届いたみつからの文は、酷いものだった。

<あなたの顔など、二度と見たくない>

「こんな、これは、どういうことだ」
「きっと訳があるに違いない、みつ殿の本当の御心ではない」
幸十郎は動転し、それでもなお、みつの心変わりを否定する。

吉田屋の番頭・忠七(不動倭さん)を捕まえて問いただすと、
忠七は困った口調で、それでも幸十郎の欲しかった言葉をくれる。
「お嬢さんが想っているのは、幸十郎殿ただ一人です」
ではなぜ会いに来なくなったか?
「実は吉田屋は内実は火の車で…」
「借財を返すため、お嬢さんは気の向かぬ相手と祝言を挙げなければならないのです」

幸十郎はみつを救うため、あろうことか高岡家の家宝刀・金色丸を忠七に渡す。
「底値で、百両にはなりましょう」
一助が「それだけは…!金色丸だけはおやめ下さい…!」と、どんなに縋っても。

だが実際は、みつは火傷で醜くなった幸十郎にはとっくに愛情を失っていた。
忠七は幸十郎を騙し、暗がりの中でみつだと偽って芸者・千代菊(宝華弥寿さん)と引き会わせる。
この暗闇の中の逢引きの場面は、お芝居を通して2番目に恐ろしかった(1番は後述)。
「みつ殿、お会いしたかった」
睦言を呟いていた幸十郎は、突如みつ(実は千代菊)の手を握る。
「この恋が永遠であるという証をいただけませんか」
次の瞬間、耳をつんざく千代菊の悲鳴。

「みつ殿の、小指を!」

腕が総毛立った。
それまでじわじわと醸し出されていた幸十郎の狂気が、一瞬で眼前に現れる衝撃。
竜座長の狂気の演技といえば、「八幡祭 江戸の朱月」の新助さんだけど。
一息に壊れきった新助さんと異なり、幸十郎は正気の部分をかなり残したままで、急にたがが外れるから、これまた怖いのだ。

そして個人的に最も恐ろしいと思った場面に続く。
幸十郎は、みつと青木殿の婚礼に乗り込んでみつを救おうとする。
「そこにいるみつ殿の手には小指がないはずだ、それが私たちの恋の証!」
白無垢のみつは表情一つ変えず、おもむろに両手をかざす。
白い手には、指がしっかり5本。
幸十郎は腰を抜かし、慌てふためき、ようやく騙されていたことに気づく。

この場面の"絵"の冷たさ!
みつは惚れていた男を目の前にしても、何の感情も浮かばない顔を晒しているばかり。
その様、まるで美しい人形のよう。
かたや幸十郎は、家を焼失し、美貌も失い、家宝も手放し、みつのために何もかも失くし、婚礼の席にまで飛び込んだ。
その様、まるで道化。
そこにゆっくりと差し出される、美しい五本の指。
突きつけられる、残酷な心変わり。
ららさんと竜座長の演技の見事な対比が、寒々しい裏切りの絵を紡ぎ出す。

この後は糸の切れた幸十郎が刀を抜き、婚礼の席の面々を次々に斬っていく。
そして自らも命を絶ち、壮絶な終幕となる。

冒頭の場面が花見だったためか、私の頭の中ではこのお芝居に桜色のイメージがつきまとう。
煮詰めすぎて、毒々しいまでに濃くなった恋の色。

いや、毒の色を担っているのは恋人役の2人ばかりとは限らない。
仄かに影を落とす悪役がいてこその「恋の高岡」だ。
というわけで、次の記事では小虎さん・倭さんが演じられた悪役の煌めきについて綴ります。
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