剣戟はる駒座お芝居「亀甲組」

2013.4.21夜の部@篠原演芸場

このお芝居の冒頭場面は、決して忘れられないだろう。
名作映画の銀幕を見つめるような心持ちで、篠原の舞台を見つめていた。

幕が上がると、薄暗い照明の中、腕を組み、一列に並んだ後ろ姿。
その格好から鳶職だとわかる。
鳶たちの間にスポットライトが当たれば、一人、また一人と通り抜けていく者がある。

誰かを探している、気の優しそうな青年(不動倭さん)。
必死に逃げ走る娘(津川鶫汀さん)と、娘を追う母らしき人(宝華弥寿さん)。
辺りを警戒する、乞食のような身なりの男(勝小虎さん)。
腹に一物ある様子の、悪代官風の男(勝龍治さん)とその取り巻き。

この時点では、観客には彼らがそれぞれ何者なのかはわからない。
ただ一人、また一人と、ぱたぱたと走りながら、きょろきょろと辺りを見回しながら。
薄闇の中を物語の欠片が交差する。
はる駒座の紡ぐ、群像劇の陰影がくっきりと浮かび上がるのだ。

タイトルロールの亀甲組は鳶の一家の名。
博打打ちでも侍でも商人でもなく、職人の話なのはちょっと新鮮。

津川竜座長演じる亀甲組棟梁は、寛永寺の修復工事という大役を請け負う。
けれど対立する組の棟梁(勝龍治さん)はそれに嫉妬し、旧友の神南(勝小虎さん)に依頼する。
寛永寺への放火を。
「おとっつぁん!」
火事を消し止めようとして棟梁は煙に巻かれ、息子・千吉(不動倭さん)と娘・お吉(津川鶫汀さん)の腕の中で息を引き取る。

残された兄妹がいかに亀甲組を守るのか?
また寛永寺の修復工事という大仕事はどの組が獲られるのか?
この二つを軸に物語は展開する。

いやはや、鶫汀さんの女形芝居は、やっぱり鮮烈な輝きでした。

写真・津川鶫汀さん(4/21舞踊ショーより)


鶫汀さん演じる妹のお吉は、序盤ではおとなしい娘だ。
継母(宝華弥寿さん)に家の金のために芸者になれと迫られても、か細い声で抵抗するのみ。
「おかっつぁん、どうか堪忍してください」
「おとっつぁんと話をさせてくださいと、言ってるじゃありませんか」
膝を合わせて必死に訴える、その様の健気なこと。
「何してんるんだ、おかっつぁん!」
庇ってくれた兄の背で、手を震わせる姿の可愛いこと。

でもお吉は変わる。
父の死をきっかけに、自ら芸者になって稼ぎ、棟梁を継いだ兄を支えて。
さらりと重い衣を脱ぎ捨てるように、おとなしかった娘は変わる。

兄妹で敵の組に挨拶に行く場面で、兄を守るのはお吉だ。
「謝ってもらいましょか、亀甲組棟梁の大事な手を傷つけたんだから」
兄の手に煙草を突き立てられれば、怒気を込めて啖呵を切る。
「ねぇ、申し訳ありませんでしたと謝ってくださいな」
兄も思わず、
「お吉、お前、なんだかその…強くなったな…」
と呟いてしまうくらい。

龍治さん演じる棟梁が、
「お前たちの親父はな、実は俺たちに借金があったんだ」
と切り出した嘘にも、お吉は涼しい顔で帯を上げる。
じゃらじゃら零れ、舞台に弾ける小判。
「じゃあ取っていきなよ、ほら、取っていけばいいじゃないのさ」
「でもねぇ、亀甲組には、あんたたちに払うお金なんて一両だってありゃあしないよ」
片目細めて小粋に笑えば、
「鶫汀!」
客席から決まるハンチョウ。
う~ん、最初に継母に下駄で叩かれて泣いてた娘と同一人物とは、とても思えない豹変っぷり!
きっぷのいい女役というだけでなく、前半との変化が楽しめるのがこの役の面白味だと思うのです。

あと、観るたびに私の目に焼きつく小虎さんの悪役。
神南はとりわけ、飢餓感が強烈に出ていて忘れられないキャラクターでした。
元々貧窮に苦しみ、乞食同然の格好で放浪していた神南。
知己に持ちかけられた放火を引き受けた理由は、一つは報酬金。
もう一つは娘(千晃ららさん)を女房にやるという条件。
「若い娘が手に入るんなら悪くねぇな…」
暗く飢え尽くした目が、ぎらぎらと光る。

出番自体は決して多くはないにも関わらず、「亀甲組」の筋書きを思い起こすと、
神南の”飢餓”という要素は物語の奥行きに黒く塗布されている。

他にも、権力を笠に着た口利き役の山田殿(晃大洋さん)の我がままっぷりとか。
普請奉行(津川竜座長・二役)の、とぼけたようで意外と堅固な意志だとか。
一人一人に筆を割けそうなほど、骨肉のついたキャラクターが勢ぞろい。

清冽なヒーローが登場、悪役をすぱっと斬る!みたいな大衆演劇らしいお芝居も大好物だけれど。
本格映画にだってひけを取らない、こんな群像劇ももっと観てみたいですね。
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