剣戟はる駒座お芝居「八幡祭 江戸の朱月」①津川鶫汀副座長の美代吉役

2013.4.7 夜の部@篠原演芸場

「鶫汀さんって普段は陽気な男の子って感じだけど、女形になると年齢不詳。若い女性の体に何十年もの年輪が詰まってるような…不思議なことにね、老獪な感じすらするの」
津川鶫汀副座長について、ある観劇仲間の言。

「副座長は女形の芝居がすごい!見た目だけじゃなく、女形の"声"が出るのがすごいの!」
これは、また別の観劇仲間の言。

写真・津川鶫汀副座長(4/7舞踊ショーより)


仲間の噂は違うことなく。
上がりまくっていた期待値をひょいと越えて。
津川鶫汀副座長演じる芸者美代吉が、篠原演芸場の舞台で黒髪揺らしてヘラリと笑う。

本日は、物語に入る前に。
非公開コメントで胸がいっぱいになるような激励をくださる方、
拍手ボタンをぽちっと押してくださる方、
この場を借りて心からの御礼を。
昨年末に駆け出したばかりのブログ、読んでくださってる方が本当にいるんだなぁ、と感激しています。
何より、何よりの力でございます。

さて題に「江戸」と付く、このお芝居の舞台は浅草。
先月私も足繁く通ったあの街に、狂気の朱月が浮かぶ、実際にあった事件を元にした話。

美代吉(津川鶫汀さん)は人気の深川芸妓だ。
「旦那、あたしばかりか姪っこまで芝居に連れて行っていただいたりして、ありがとうござんす」
艶めかしい眼差しに、とろけて落ちるような笑み。
「最近、ちっとも来てくれないじゃないか。あたしのこと、嫌いかい?」
蓮っ葉な性格がまた魅力。
「あたしも旦那といると、楽しゅうござんすよ」
贔屓の若旦那(不動倭さん)相手に、転がす声音の甘さ。
商売言葉とわかっていても、つい誘惑されてしまうのが分かる。

中には、美代吉の自分勝手に男を振り回すやり方に、憤る者もいる。
若旦那の店の手代(津川隼さん)は、若旦那のお座敷を中断して他の男と逢引きしていた美代吉に、怒りの拳を振り上げる。

しかし美代吉は怯むどころか。
頬を突き出して、得意の啖呵を切る。
「ぶちなよ。ほら、ぶちゃあいいじゃあないのさ」
このときの鶫汀さんの表情は見物だった!
大きな目をからかうように、ぐりっと見開いて、自分の頬を扇子でちょんちょん。
相手を完全に侮って、なおかつ気迫で競り勝ってしまう。

でも。
どんなに贔屓客がいても、その生活は素寒貧。
「この美代吉姐さんはねぇ、宵越しの金は持たないんだよ」
「皆おいで、あたしが飲ましてあげようじゃないのさ」
そう言って唇で弧を描く様は、粋そのものだけど。
粋の裏を返せば奔放。
自堕落に遊び暮らす毎日で、金子は華美な着物の懐から出て行くばかり。

おまけに、美代吉には一緒に暮らしている情人がいる。
船頭の三次(勝小虎さん)。
「なあ美代吉、助けてくれ、五両、都合してくれ」
博打で金をすっては、事あるごとに美代吉に金の無心をする。
若旦那に貰った豪奢なかんざしも、三次の借金のために質屋行き。
さらに若旦那がかんざしを買い戻すよう美代吉に与えたお金も、次の瞬間には三次の飲み代行き。
「へへ、金ってのはあるところにはあるもんだなぁ、美代吉」

私が毎回大注目している小虎さんの演技の「生」っぷりは、この三次役でも堪能できまして。
たとえば、晩酌中の美代吉と三次の家に、借金取り(晃大洋さん)が押し掛ける場面。
「お金がないと言うわりに、良いもの食べてるみたいですけど」と咎められて、「あらやだ」と美代吉が言葉を濁している間に。
三次は酒と肴をそうっと自分の方に引き寄せて、借金取りの目線から隠す。
…さりげないこの動作に滲む、卑劣さの生々しいこと(最大級の褒め言葉)。

美代吉のキャラクターを決定づけるのが、他の誰でもない、この三次を気に入って傍に置いている事実じゃないかと思います。
「あの人の子犬みたいな目で見られると、あたしも弱いねぇ…」
自分を助けてくれる、贔屓の名士たちよりも。
自分が助けてあげられる、自分より金がない男。
しかも、自分と同じくらい自堕落で身勝手。

似た者同士の二人は、生活の憂いも晩酌で酒と一緒に流し込む。
「どんな事があっても、なるようにしかならねえよ」
「そうだねぇ、ああもう、あたしも飲むよ、注いどくれ」
「そうこなくっちゃ!」
明日のことなど浮かびもしない。

だがしかし、そんな生活のために、積もり積もった美代吉の借金は百両!
「暮れ六つまでに百両用意できなければ、あんたの着物も小物も全て質に入れちまいますからね」
借金取りの一言に、さすがの美代吉も顔色を変える。
着物がなければ、明日の八幡祭に出られない。
江戸の芸者が皆着飾って練り歩く、大事なお披露目の場だというのに。
ここを逃せばもう贔屓客はつかない。

その危機に運悪く、美代吉を訪れてしまったのが。
真面目な越後の縮屋・新助(津川竜座長)だった。

ここから物語は一気に、悲劇へと突き進む。
明日の晩は八幡祭、朱い月が昇るまであと少し。
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