剣戟はる駒座お芝居「新座頭市子守歌」

2013.3.8 夜の部@浅草木馬館

目を鼻を凍りつかせて、口を大きく開いたまま。
お雪さん(千晃ららさん)は、玄関先にぱたりと倒れる。

命の尽きた体に、取りすがる近所の女性たち。
目の見えない座頭市(津川祀武憙さん)は、一瞬何が起きたかわからずに戸惑う。
けれど次の瞬間、
「お雪さん!」
と太いしゃがれた声が悲鳴に変わる。

そこに、か細い赤ん坊の泣き声が重なる。
たった今この世を離れた、お雪さんの遺した男の子が、母を恋しがって泣く。
哀れな死の香りが、舞台に一気に充満する。

“悲”をぴんと張ったような、一枚の絵の美しさだ。

写真・津川祀武憙さん(3/8舞踊ショーより)


はる駒座2回目の鑑賞は、幸運にもお芝居二本立て豪華サービスの日!
開演前の倭さんの説明によれば、「若手にもっとチャンスを」ということで、
若手を中心にしたお芝居と普段のお芝居の二本立て構成を時折行っているらしい。
こういうことができるのも、層の厚いはる駒座さんならではなんだろうなぁ。

1本目の「新座頭市子守歌」は、津川祀武憙さんが主演を務めると言う。
祀武憙さんは前回の初鑑賞で、愛くるしい感じの笑顔が印象的だった若手さん。
「実際は十八歳だけど、役の見た目は四十代…」
倭さんがそんな笑いをとっていたけど。

開幕して目を疑った。
本当に、四十代の座頭市がいた!
無精髭メイクとかしゃがれた声とかが、本来少年といっていい祀武憙さんに、自然に身についているのにも驚嘆したけど。

たとえばそう、座頭市がしばらく草鞋を脱いでいた大田家一家を出立する場面。
「親分さんお嬢さん、世話になりました」
と笑顔で挨拶しながら着物の襟を正す。
ぐいと襟を軽く引っ張って直すそのやり方が、若い男性のものじゃあなくて。
あ、おじさんってこういう直し方するよな、と思わせるような。
襟を引っ張る祀武憙さんの手に、少し老いた人斬りの歳月がよろりとまとわりつく。

うわぁ、うわぁ、と何でもないシーンなのに私は興奮しきり。
これがはる駒座の演技!

座頭市が旅立った後。
大田家一家の親分(勝龍治さん)は、舎弟・初太郎(勝小虎さん)の裏切りによって殺されてしまう。
残された娘のお雪さんは、夫の佐太郎(津川隼さん)とカタギになるも、貧苦に喘ぐ暮らし。

恩人の窮乏を聞きつけて、座頭市は旅から帰ってくる。
「市さん、市さん」
懐かしい渡り鳥の顔を目にした、お雪さんの喜びようが痛々しい。
貧しさと苦労が祟ってすっかりやつれていたお雪さんの命は、その場で散ってしまうのだ。

この場面の突き刺すような悲壮感は、なにゆえだろう。
祀武憙さんの座頭市が、悲しみと憤りに打ち震える様もさることながら。
千晃ららさんが、お雪さんの凍りつくように薄幸な運命を演じきっているためだ。

ららさんの演技を観ていると、市川雷蔵の時代劇映画に出てくる女優さんが思い浮かぶ。
儚い、でも芯の強い、細い指先で運命の重さを必死に掻きわけているような悲しみの女性。

さて物語のここから先は、座頭市による裏切り者の成敗。
切れ味鋭い、それでいていぶし銀の漂う立ち回りを、お腹一杯堪能しました。

今思い返すと最も印象深いのは、座頭市の歩き方。
杖の先で行く路を探り当てながら、ひょっ、ひょっ、と足を上から素早く差し下ろすように歩くのだ。
杖と足の動きに、切れるような滑らかさがあって。
目が見えないにも関わらず、恐ろしく俊敏な獣のような感じが伝わる。

祀武憙さんをはじめ、こんな演技ができる若手さんがこの座にはたくさんいるんだものなぁ。
私が行けなかった日も、口上や木馬館の張り出しによると、
津川隼さんの「隼祭り」とか、様々な若手さん中心の演出を行っているようだ。

ひょっ、ひょっ、といまだ脳裏に浮かぶ座頭市の歩みをなぞって、私は再度興奮の拳を握る。
これがはる駒座の演技!
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