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『質屋の娘』で90分ほぼずっと嗚咽した話 ―劇団天華・蘭竜華さん誕生日公演―

2019.12.22 @後楽座

※ガチのラストシーンには触れないよう気をつけていますが、新作芝居の詳細をどんどこネタバレしています。苦手な方はそっと閉じてやってくださいね。

この物語の、一体何が、体の奥深くを叩いてくるんだろう――。
これまで二つの劇団さんで拝見したことのある『質屋の娘』。ストーリー自体が、自分の「泣きのツボ」を全連打してくるお話です。だから蘭竜華さんの誕生日公演がこの外題だとツイッターで知ったときから、クライマックスでは必ず涙しちゃうな…と予想していたんです。

当日、クライマックスどころか、冒頭からずっと涙腺決壊。タオル足りない。

【あらすじ】
質屋である山福屋の一人娘・お福は、幼いときの高熱が元でちょっと頭の足りない子となり、30歳を過ぎても幼子のよう。ある日お福は、「お婿さんが欲しい!」と言い出す。お福が好きなのは手代の平七だったが、平七はすでに奉公人のお民と恋仲だった。お福の父はそうとは知らず、平七になんとかお福と夫婦になって欲しいと頭を下げる。


お福(蘭竜華さん)
女性らしい姿だと、目鼻立ちの優しさが引き立つ。

ぜんざい屋に行っていたお福ちゃんが家に帰ってきて、初登場した瞬間から目が釘付け。頭が埋まるほど大量のかんざしを差して、紅いほっぺでニッコニコ。まあるいリンゴを転がしたような可愛さ。
飛び出してきた明るさに、主役=このお話の「真ん中」が埋まった!ということが分かります。

お福ちゃんは邪気がなく、声が大きく、誰に対しても笑いかけます。奉公人のお峰やお民に「お福、キレイー?」と聞いて回ると、みんなが「お嬢様、とってもキレイですよ」と笑顔を返してくれます。
みんな、お福のことが好きなんだ。
『質屋の娘』は転換のないお芝居。山福屋という空間でのみ物語が進んでいきます。外に出ればいじめられることもあるかもしれない。けれどこのお店では、誰もお福を悪く言う人はいません。
奉公人たちの温情の理由は、山福屋の主人であるお福の父にある…ということが次第に描かれていきます。

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お福の父・山福屋主人 庄兵衛(澤村千夜座長)
ギラッとした格好の中に大人の落ち着き。この日は老け役の芝居を堪能。

庄兵衛が仕事の話をした後の、「わしの可愛いお福はどこに行ったかな」の一言がちょっと浮き浮きしているんです。顔もデレッと緩みます。父親が頭の足りない娘を猫可愛がりしている様が切ないほど伝わってきて、すでにここで泣き伏す(まだ幕開き3分)。

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お芝居姿での座長口上。

幕開きすぐ、龍聖さん演じる友吉の台詞で、庄兵衛が「人に情け」を信条としていることが説明されます。その人徳ゆえに、奉公人たちが庄兵衛を慕っていることも分かります。
たとえば、質草が安価な着物であっても、「あの五郎さんは、わしと同じように男手一つで娘を育てとるんじゃ」と大枚な金を貸すことを奉公人に認めます。
紫虎座長演じる勝次が店の金を盗んでも、病の母のためだと知ると「持っていきなされ」と小判を包んでやります。
その優しさは世間に報われることなく――終盤、滂沱の涙を流す愛娘を、庄兵衛は後ろから辛く見つめることになります。その姿に、受難という言葉を想起せずにいられませんでした。

けれど、お福に惚れられる平七、その恋人お民にもドラマがあります。

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平七(澤村悠介花形)
今年No.2の立場になられ、本来の華がめきめき目立ってきた悠介さん。

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お民(沢村玲華さん)
芝居も舞踊も“心”がいっぱいの女優さん。

悠介花形のキッパリした線が出た、義理堅い平七。主人への恩返しのために、お福の夫になることを一度は引き受けますが、やはり恋しいお民のもとへ行こうとします。
「お福のこと、好きなの、嫌いなのー?」と問うお福に対し、平七は心を鬼にして「お嬢様のことは嫌いでございます」と答えます(このやり取りはもう涙でブルブル)。
すっかりお福ちゃんに心寄せて観ていたので、平七には嫌いじゃないって一言言ってあげて欲しかった…とも思いましたが、平七のガンとして折れない様にぶつかったからこそ、お福の絶望が深く伝わるのかもしれません。

そして玲華さんの演じたお民が、すっごく良かったです。
「お福が好きなのは平七!」と初めて明かされたとき、お民が舞台の隅でハッと動揺している様とか。お福と平七の縁談が一度は成立したとき、お民が笑顔を作ろうにも作れずに震えて「おめでとうございます」と告げる様とか。
「芝居が細かいで賞」的な何かを玲華さんに捧げたい…。

ほかにも、ゲスト・早乙女紫虎座長演じる勝次が妹のお民に「お前はそれでいいだか?!」と問うシーンには、肉親の思いやりがありました。
澤村龍聖さん演じる友吉と、喜多川志保さん演じるお峰。彼ら奉公人は、お福から「お小遣いあげるー」と小判を渡されると、「お嬢様、ありがとうございます」とニッコリ受け取って、ちゃんと手文庫に返します。さりげない場面にふと温かさが流れます。

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勝次(ゲスト早乙女紫虎座長)
台詞の一つ一つを大切に仰ってくれるので、とても聞きやすい。

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友吉(澤村龍聖さん)
冒頭のかなりの長台詞、頑張られていた。

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お峰(喜多川志保さん)
いつも背筋がシャンとして美しい。

そして天華版『質屋の娘』が忘れがたい一作になった決定打は、蘭竜華さんという女優さんの朗らかさが、お福という役の中に開いていたことでした。竜華さんの笑顔は不思議です。こちらまで思わず笑ってしまうような、ぱあぁっと咲く“満開の顔”。

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平七と夫婦になれると言われたお福ちゃんの、満開の笑み。お小水をその場でしようとして(笑)、むーっとうつむいた顔。分からないことに直面して、ぷくっと頬を膨らませた顔。
その底抜けの明るさは、他者の優しさを信じきっています。

お民が去り平七が去り、最後にお福はお父さんと二人きり。取り残された青暗い部屋。
それでも笑顔は残る。笑うことだけが残される。「他者=誰かの手が温かかった」という記憶がある限りは――。

送り出しで伺ったら、『質屋の娘』は千夜座長からの提案だったそう。竜華さん自身はまったく知らないお芝居だった、とのことでした。
さまざまな劇団を経験してきた技術の女優さん。
竜華さんが、お福ちゃんという役と出会えて良かった。

このブログをアップしている本日(12/25)、竜華さんのリアルバースデー🎂✨おめでとうございます。
新たな年も役との出会いを心待ちにしながら…。

【劇団天華 今後の公演先】
1月 御所羅い舞座(奈良)
2月 明生座(大阪)
3月 箕面スパーガーデン(大阪)
4月 朝日劇場(大阪)

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