剣戟はる駒座お芝居「秋葉の宗太」

2013.3.3 夜の部@浅草木馬館

ずっ、ずっ、と一杯のそばを。
盲いた新兵衛親分が、貪るように啜っている。
隣の席には親分の娘婿。
乞食同然の姿に落ちぶれた義理の父に、彼は気づく様子もなく、涼しげに煙草を吸う。
そばを啜る音、煙草、虫の鳴く声。

新兵衛親分は勝龍治さん、娘婿は津川竜座長。
「秋葉の宗太」を思い返すと、この一場面が哀切をもって切り取られる。

写真・勝龍治さん(3/3舞踊ショーより)


月初め、新しくお江戸へやって来た劇団さんに出会うときはいつもわくわく。
今月は噂に名高い剣戟はる駒座とあって、観劇仲間3人も木馬館へ集結!

びっくりするくらい明るい挨拶とコミカルなミニショーの後。
(座員さんが皆若くて元気!とにかく元気!)
繰り広げられたお芝居「秋葉の宗太」は、胸を削られるような悲劇だった。

渡り鳥・秋葉の宗太(津川竜座長)が草鞋を脱いだのは、豊田家一家の新兵衛親分(勝龍治さん)のところ。
宗太は人徳者の新兵衛親分を敬い、
「あの人は立派なお方だ。決して新兵衛親分の悪口だけは言わねえでおくんなせえよ」
とたまたま知り合った者に諭すほど。
親分のほうも宗太を心から気に入り、娘・お町(千晃ららさん)との祝言を決める。
晴れて宗太は新兵衛の娘婿!

ところが、これを気に入らない者がいた。
一家の若衆・鉄五郎(勝小虎さん)だ。
鉄五郎は自分が豊田家一家を乗っ取るため、役人の伝十郎(不動倭さん)・伝八郎(津川隼さん)兄弟と組む。
罪をでっち上げさせ、新兵衛親分を島流しにしてしまうのだ…。

観劇後、観劇仲間の一人が感慨深げに言ったこと。
「勝龍冶さんのお芝居を観るためだけにでも、ここに来る価値がある」。

私も全力でイエス!と叫びたい。
龍冶さん演じる新兵衛親分には、震えた。泣いた。呑みこまれた。

新兵衛親分の運命はあまりにも悲惨だ。
まず、伝八郎に島流し先で散々折檻される。
老体を痛々しいほど殴られて。
ようやく赦免になって娑婆に戻って来た時に、伝八郎に目つぶしを投げられ盲目になってしまう。

見えなくなった目で、よろよろと、ボロをまとい、顔中汚して。
それでも執念で気力で、親分は豊田家に帰って来る。
けれど鉄五郎は邪険に親分を追い出し、あろうことか。

ぺきっ、と舞台に響く嫌な音。

「俺の、俺の杖…」
親分は必死に地を這って、目の代わりと言ってもいい杖が折られているのに気づく。
「目くらにとって大事な、行き杖までもへし折りやがったな…!」

いくら憤っても、目の見えない親分にはどうしようもない。
宗太、お町、と愛しい名前を呼びながら親分は放浪を続ける。

この辺りでもう私は、酷すぎると胸中呟いていたのだけれど。
本気で身が凍るのは次の場面。

宗太が立ち寄ったそば屋に、偶然親分も辿り着く。
「俺のそば、こちらさんに回してやってくれ」と宗太。
同席しても、すぐ隣に座っても、二人は互いに気づかない。
親分は、宗太の顔が見えないから。
そして宗太は、親分があまりに変わり果てたから。

親分がそばを食べようと、椀を抱え上げたとき。
箸が、その手から落ちた。

あれ、どこだ、箸は、どこだ。
ぶつぶつと呟きながら、見えない暗闇をまさぐって箸を探す。

ついこの間まで尊敬され、畏れられていた豊田家一家の主が。
へし折れた細い杖に縋るようにして、今はそば一つ満足に食べられず、手探りで箸を探している。
寒い。
冷たい。
龍治さんの演技から生み出される景色は、客席までひりひりと寒気が感じられるほど凄惨だった。

この後、隣の宗太はようやく親分に気づき、涙の再会の場面となる。
「宗太、お前に会えれば、お町にもすぐに会えるな」
と顔をくしゃくしゃにして喜ぶ親分。

……束の間。
鉄五郎たちに襲われ、新兵衛親分は呆気なく撃ち殺されてしまう。

宗太がなんとか鉄五郎たちを斬り伏せて幕となる。
幕が閉じる直前の宗太に、このお芝居の悲しみが凝縮されていた。
宗太は目を固く閉じ、祈るように手を組み合わせて。
声には出さずに口の動きだけで呟く。
<親分>。

……ああ!
観終えてどっと息をついてしまった。
勝龍冶さん。
すごい、ものすごい役者さんに出会えたものだなぁ。
いただいたはる駒座のポスターによれば、肩書きは<指導役>とのこと。

龍冶さんに圧倒されたので長々語ってしまったけれど。
改めて振り返れば、竜座長をはじめ、はる駒座の一人一人のお芝居は唸りが漏れるほど。
そもそも新兵衛親分の悲惨さが際立っていたのは、悪役だった小虎さん・倭さん・隼さんの迫真の演技あってこそだもの。

「この劇団はすごい!」「これは来た!」と、誰一人興奮冷めやらぬ、浅草駅への帰り路。
はる駒座のポスターを手に、夜の仲見世から見上げた夜空は明るい。
もうすぐそこの、春の陽射しのように。
剣戟はる駒座の皆さま初めまして、お待ち申しておりました!
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