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いま、木馬館に広がる世界 ―まな美座・島崎寿恵座長の紡ぐもの―

ただでさえ大好きな夏。
今年の7月は浅草の舞台が楽しすぎて、冷え冷えのパフェをてんこ盛りで目の前に出されたときのようにハッピーな季節を過ごしています(*´▽`*) 夏サイコー!

7月の木馬館公演は劇団美松。ここに特別ゲスト・まな美(び)座が加わった形。
※まな美座さんの木馬館出演は29日夜の部までだそうです!!

美松の兄弟座長の気合いと熱、旗丈司後見や松川さなえ太夫元などベテラン勢の味わい深さ、まな美座の若手・里見剣次郎さんのしなやかな技巧など、お楽しみポイントは多いけど…。
まな美座の島崎寿恵(しまざき・ひさえ)座長は、やっぱり格別だ。2016年の熊谷・メヌマラドン温泉公演から、2年ぶりの再会。

「まな美座座長、島崎寿恵のステージです!」
このアナウンスのあとに広がっていく個人舞踊の世界は、ひとり芝居だ。

◆風雪ながれ旅(7/1)




初日夜の舞踊。盲目の三味線弾きがよろよろ舞台に現れる。コッ、コッと杖が舞台のへりを叩く。舞踊というより、本当に目の見えない男が何かの拍子に地を踏み外して、ストンと舞台に降り立った――そんな感じがする。
やがて見えないはずの目が開く。

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激しい風と雪に、今にも倒れそうだ。

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風景の厳しさと重なるように、唇をわなわな歪めて悲痛極まりない表情を浮かべる。どこか遠いところに置いてきた心があるのだろうか。

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三味線弾き、一人きり、吹雪の中、ずるずる踏みしめる一歩。様々な要素が“彼”の生きのびてきた道のりの苦しさを想像させる。

でも曲が終わりに向かうにつれ、踊りは力強くなる。吹雪の中に一縷の望みを見出すように、笠を掲げる。

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\島崎―!/(渾身のハンチョウ)
まさに“飲み込まれる”という表現が当てはまる。木馬館を包み込むくらい、世界が濃くて大きくて、どろどろしているのだ!

4年前、まな美座初見のとき、こんな女優さんがいたんだ――と撃ち抜かれる思いがした。
2年前、友人たちとその舞台に浸って語り合いたくて、片道3時間かけて熊谷へ通った。『私だけの戦争 柘植(つげ)の櫛』『質屋の娘』などの芝居は、思い返すだけで涙腺がぎゅっと刺激される。
だから今月、寿恵座長と愛息の剣次郎さんが木馬館という大舞台に立ち、見巧者なお客さんたちに称賛されているのを聞くと、とても嬉しい。

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寿恵さんの末っ子・里見剣次郎さん。お母さんによく似た面差しと、クールに見えて熱のこもった芸に惹きつけられる役者さん。Twitter(@satomi_kenjirou)も面白いです!

そしてもう一つ、寿恵さんの7月の舞台から忘れられない一本。

◆お吉物語(7/7)
色んな役者さんが踊るお吉。美しいお吉も艶っぽいお吉もいる。紅を引いた唇で、儚い姿がふらりと舞台に倒れ込む様は、哀れを誘う。
でも寿恵さんのお吉は、そんなやわな表現じゃなかった。

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ズッ、ズッ。酒浸りゆえに不随になった右半身を引きずって、その姿が舞台に現れたとき、劇場の空気が一変した。きらきらしたショーを観ていた私たちの体が、ずどんと一女性のリアルの前に突き落とされた。

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自分を売った伊佐新次郎への恨み言を吐き出したり、癇癪を起こして泣きながら、動かない右手を叩いたりする。
ボロボロの体は、それでもなんとか、外界に対して怒りという形で働きかけようとしているけれど。

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鏡をのぞくシーンから、表情が変わってくる。鏡の向こうから、絶望した女が見つめ返してくる。どんどん一人の中へ閉じていくお吉の世界。

酒に侵された体はいよいよ動かなくなってきて、舞台の左端のほうへ行ったと思ったら、がくんと膝をついた。

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暗い地面から見上げる目玉が光っている。木馬館は静まり返っていて、“お吉”のヒュッ、ヒュッという速い息遣いがはっきり聞こえた。

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その息が完全に止まるまで、目を見開いたまま――。

お吉が生きていた。約10分間、私たち客席とともに彼女は間違いなく生きていた。
終演後に憑依のようでした、と寿恵さんにお伝えしたら。
「そう言っていただくのは本当に嬉しいです。それを目指して演じています」と、舞台を降りるとめっきり柔らかくなる瞳を細めて、微笑んでいた。

演劇グラフで長期連載されていた、橋本正樹さんによるルポ『あっぱれ役者水滸伝』に『島崎寿恵』の前後編がある(2016年2・3月号掲載)。その最後の文に、この役者さんの姿形が余すところなく語られている。

“役者デビューが遅いベテランの女座長で、公演会場が限定されたハンディもあいまって、総じて大衆演劇ファンの馴染みはうすいが、島崎寿恵は、傑出した技倆をあわせもつ実力派なのである。仕草も声音も台詞まわしも申し分なく、容姿には品格がただよう。とりわけ人物描写が克明で、心の機微をたくみに描く、写実的で真情がこもった演技は、じんわりと心にしみこみ、「いい役者の、いい芝居を見た」という幸福感を、十分に満喫させてくれる。”
『演劇グラフ』2016年3月号『あっぱれ役者水滸伝 島崎寿恵・後編』


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真夏、浅草。
熱気に満ちた観客の前で。
その人は男になり女になり、数分間だけ別の人間を生きる。

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追記:
「戦争がひとりの人間から奪い続けたもの」を描いた、まな美座の異色の名作芝居『私だけの戦争 柘植(つげ)の櫛』。2年前、この芝居を観ようと観劇仲間で熊谷に集合し、『私だけの戦争』を一緒に目撃した。そのときのメンバーが各自で衝撃を書き残しているので、ご興味のある方はぜひ↓
・半田なか子さん記⇒「あなた」と「わたし」の物語:まな美座『私だけの戦争―つげの櫛―』@メヌマ(3/12)
・花浅葱さん記⇒お芝居『私だけの戦争〜柘植の櫛〜』[2016.3.12 メヌマラドン温泉センター]
・hanaさん記⇒まな美座「私だけの戦争 つげの櫛」〜生き続ける芝居〜
・私はSPICEで紹介記事を書いていました⇒大衆演劇の入り口から[其之拾弐]・熊谷で震えた!「まな美座」心の芝居

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