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あったかい、引き出しを開けて ―劇団天華・蘭竜華さんのこと―

まるで採れたての菜っ葉がぱつんと水をはじくような、ほがらかな笑顔。



蘭竜華(らん・りゅうか)さん。2017年10月から劇団天華に加わった女優さんだ。

有名な座長さんの妹だと聞くし、10代の頃から関東の劇団で修業されたとも聞く。よって芸歴は長いらしい。けど、控えめで、あまり自分のことを話されることはない。
ただ職人のように芝居の要所をサクサクこなし、あとは絶えずニコニコと舞台の片隅で微笑んでいる。

初見時からそのパキッとした技術に惹かれていたけど、この4月・5月、この役者さんに心をつかまれることがあった。なのでずっと胸の中にあった言葉を並べて、ひっそりラブレターをしたためておきたい。


◆「あったかい」女優さん

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立ち役もどこか、のどか。

竜華さんといえば、声も姿もぬくもりに満ちているのが特長だ。
印象深いのは、昨年10月の澤村千夜座長誕生日公演の芝居『君の名は』の母親役。このとき、和歌山・ぶらくり劇場で初めて竜華さんを観た。
育ての娘・おみつを亡くした母、という役どころ。奥様らしい落ち着いた居ずまいで座り込んで、娘の思い出話をする場面がある。
「うちにはお金がなかったけど、おみつはとっても優しい、いい子に育ってくれた。もうあの子が可愛くて、可愛くって」
「可愛くって」の繰り返しのとき、目がなくなっちゃうくらいにキュッと細まった。このお母さんに育てられたなら娘も幸せだったんだろうなと自然に思えるような温度が、まとわっていた。「あたたかい」と音を揃えるよりも、ふんわり音を溶かして「あったかい」と言いたい感じのぬくもり。
わぁ…素敵な役者さんが劇団に加わったんだ、と嬉しくなった。

母役・立ち役・三枚目――どの役でも安定して演じられる。
『首追い道中』では旅人(千夜座長)を助ける女親分役だった。旅人に女房(静華さん)の形見のかんざしを、女親分が手渡してやる場面がじんわり沁みた。
『芸者の誠』では三枚目の茶店の爺さん役だった。芸者(悠介花形)のウソに騙され、求婚をまともに受け取ってしまう素っ頓狂な表情に、愛嬌が詰まっていた。
役の大小に関わらず、役のツボを押さえた演技。経験と技術、そして明るい人柄で、気づけばお客さんの間でもすっかり人気者のようだった。

でも時々、思う。新メンバーで誰の血縁でもなく同門でもなく、かつ――女優。それはどんな立場だろうか。
もしかして周りに気をつかって芝居されているときもあるのかな。劇団のカラーからはみ出さないようにバランスを取って、自分の芝居は控えめにされたりもしているのかな…。

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個人【人生いろいろ】

微笑んで一歩下がったところにいる竜華さんを観ながら、そんな考えがウズウズと浮かんだ。

立場に合わせて振る舞うこと。それは間違いなく一つの良識なんだろうと思う。
でも、いずれでいいから、竜華さんの引き出しの中をもっとのぞきたい。その資質がめいっぱい咲く大きな役をいつか観たいな。
そんな勝手なことを考えていたら、望みが叶えられる日はわりとすぐ来た。


◆『髪結伊佐次』のお蘭
先月4/15、大阪・堺東羅い舞座で行われた劇団天華10周年記念公演第2弾。新作芝居『髪結伊佐次〜麹町の悪魔〜』はアメリカ映画『スウィーニー・トッド』を下敷きにしたものと聞いて、観たくて観たくて(*’▽’) 用事的にかなり無茶な時間帯だったにも関わらず、堺東の商店街を走って劇場に飛び込んだ。

映画のヒロインであるラヴェット夫人は“お蘭”という名に置き換えられ、これを竜華さんが演じていた。自堕落で酒飲みであこぎな料理屋の女将。暗い目の下にはどろりとクマ。
島流しから帰ってきた伊佐次(千夜座長)に、お蘭は気だるく話しかける。
「あんたに見せたいものがあるんだ、ちょいとお待ちよ」
お蘭は伊佐次の髪結道具の入った風呂敷包みを抱えて戻ってくる。そして机に並んでいた、たくさんの酒瓶を無造作にゴロゴローっと手で倒して、風呂敷を広げる。

あっ!と思った。酒瓶をゴロゴロ倒したとき、お蘭という役が“立体になった”。
何か用事をするときに、邪魔な物を片付けることもしない女――彼女がどんな育ちなのか、常に酔ったような表情のお蘭の、奥行きがずるっと剥ける気がした。

「ねえねぇ、伊佐さん、こっち」
茶店の外から伊佐次を呼ぶときの、子供じみた手招きだったり。
「そう…かい、あんたあたしのこと、おっかちゃんって呼んでくれるのかい」
面倒を見ることになった子ども・新吉(澤村龍聖さん)に、おっかちゃんと呼ばれて驚く表情だったり(まともな家庭を持つなんて夢見たこともなかった人生が想像される)。
「あたしのほうがずっと、あんたを愛してるよぉ!」
ベタベタの涙声で体ごと縋りつく、剥き出しの愛情表現だったり。

不運なひとりの女の人が舞台の上で生きていた。
役者・蘭竜華が輝いていた。

さらに、この芝居は“ペア物”としても素敵だった!千夜座長演じる憎悪に満ちた伊佐次と、幸福に飢えたお蘭。そのどちらにも、これまでの人生を想像させる陰影があった。
これが大人の男女の芝居ってやつか…。大人…いい響き…。

座長が『髪結伊佐次』終盤の動画を上げられてます。未見の方に雰囲気だけでもシェア♪⇒千夜座長Twitter(別窓)

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千夜×竜華ペアの“大人感”が好きです。


◆そしてこれから
時とともに劇団のメンバーは変わり、立場も変わる。5月、琵琶湖座公演へ足を運ぶと、限られた人員の中で竜華さんがヒロイン役や座長の女房役を務めるようになっていた。

女房役…といえば、『髪結伊佐次』は男女ともかなり特異なキャラクターだったけど、普通の市井の夫婦役だったらどうなるんだろう?
とか考えてたら5/13、夫婦役の芝居『通り雨』に当たった。夫・島蔵に千夜座長、女房・おしげに竜華さん。この配役での初演だったそうだ。どっちもうまいな~~と思う一方で、お互いの芝居を手探りしてる感もちょこっと感じたりして…。それも始動したばかりのペアの新鮮さかもしれない。
きっとここからが見どころだ。

劇団天華に入られて8か月。少しずつ彼女の引き出しが客席に開かれていくのを、私はどきどきしながら待っている。
じんわり心に沁み入ったり。
愛嬌に満ちていたり。
時にはどろりと愛情に飢えた目を見せたりして。

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でも引き出しの一番底は、あったかい。
おっとりほがらか、ぱつんと笑う。

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らん、りゅうか。
花がほころぶような音がする。


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