劇団KAZUMAお芝居「文七元結」

2013.2.11 昼の部@くだまつ健康パーク

楽しい山口遠征もあっという間に3日目、最終日!
2日目の「生首仁義」でだいぶ感情がショートした感はあるけど。
まだまだ燃え尽きてはおりません。

「文七元結」は、昨年7月に劇団KAZUMAを初めて観た、思い出のお芝居。
一馬座長演じる主人公・長兵衛にほろっとやられたのが、私の鑑賞録の始まり。

写真・藤美一馬座長(2/11舞踊ショーより)


長兵衛(藤美一馬座長)は、腕は極めて良い左官屋。
が、大の博打好きが祟って借金まみれ。
女房(柚姫将さん・女性役!)には毎日さんざ罵られているが、博打癖を改める気もない。

長兵衛の娘・お久(霞ゆうかさん)は、そんな家の経済状況を危惧して。
なんと、自ら吉原の大店「佐野槌」へ身売りしてしまう。
慌てて佐野槌へ駆けつけてきた長兵衛に、佐野槌の旦那(華原涼さん)はひとつ提案をする。
長兵衛の借金五十両を、いったん貸してやろうと言う。

「二年だ。二年の間に、働いて五十両を返すんだよ」
「その間は、娘は店には出さず、自分の身の回りの世話だけさせる」
「その代わり、二年経って五十両返せなかったら、この娘も店に女郎として出すから」

娘に身を犠牲にさせ、さすがの長兵衛も情けなくて涙が出る。
だが、旦那から借りた五十両を抱いた帰り路。

聞こえてきた「南無阿弥陀仏―!」

長兵衛が出くわしたのは、川に身投げしようとしている青年(冴刃竜也さん)。
「ちょっと待てい!」と体当たりして止めたものの、
青年は泣き声で「もう行ってください!放っておいてください!」

青年は文七といい、大きな商家で奉公をしているらしい。
はて自殺未遂の理由は?
「店の大事な掛け取りのお金、五十両を盗られてしまったんです…!」

将さんが「大いに笑ってください!」と話していたこのお芝居。
そりゃもう、うだつの上がらない長兵衛の言動行動に、笑いっぱなしなんだけど。
私は、なんだか泣けてきてしまうのです。

一番涙線が緩むのは、長兵衛が文七を説得するシーン。
うなだれる文七の前にしゃがみこんで。
自分自身も困り顔で、それでも宥めるように語りかける。

「死んだって何になる?死んだら何にもならねえんだぞ」
「お前が死んだって、五十両出てくるか?出てこないだろ」
「じゃあ死のうとか馬鹿なことは考えるな、わかったか?な?」

けれど長兵衛が去ろうとすると。
性懲りもなく背後から聞こえてくる、
「南無阿弥陀仏~!」
「待て待てい!」
と、駆け戻ってタックルして止める。
何度も何度でも。

文七は、長兵衛にとっては見ず知らず。
放っといたって罪にはならないのに。
こんなに頑張って止める必要は何もないのに。

「俺が行った途端、後ろからドボーン!なんて聞きたくねえんだよ…」
「ああもう、なんでこの道通ったんだよ俺~」
「誰かここ、通りかかってくれよ~」

自分も困り果てて泣きそうになりながら、それでも文七を見捨てることはしない。

そしてクライマックス。
結局、何回止めても、文七は死のうとするので。
「五十両なけりゃ、お前死ぬのか」
「死にます」
「…そうか…」

ぽとん。
舞台に響く音。
長兵衛が泣きながら、懐の五十両の包みを、文七の前に落とした音。

「やる、それ」
「やるよ」

大事なお金。
娘が身を人質にしてつくってくれたお金。
名も知らない他人にあげるなんて、そんな馬鹿な。阿呆な。
でも、恐縮して断る文七に、長兵衛は半ば怒り気味に叫ぶのだ。

「俺は五十両がなくったって死にゃしねえよ」
「おっかあだって、金がなくってって死なねえよ」
「娘だって、女郎になっても…まあ何とか生きていくよ」
「けど、お前は、死ぬってからいけねえんじゃねえか!」

――正しい人間は、すぐには善が分らないでも、心の底でそれを愛さずにいられない――
(ハイゼ「星を覗く人」)

最近読んだドイツの短編小説に、こんな言葉を見つけたとき。
真っ先に思い出したのは、怒りと泣きが混ざったような、長兵衛の表情。

人情芝居。
ひとのなさけが、粒のように降って来て、客席に積もる。

しかし笑い的な意味では、この後家に帰った長兵衛と奥さんのやり取りが大好きです。
「お金はどうしたのよお金は!」
「くれてやったんだよ!」
「誰に、誰にくれてやったの!」
「知らねえ!」
「知らないのになんでくれてやるのよ!」
「死ぬって言ってたからだよ!」
「嘘ばっかり、お金はどうしたのよお金は!」
以下エンドレス。
目まぐるしく繰り返して加速、加速、加速!(笑)
一馬座長・将さんの活き活きっぷりと言ったらない。
結果的には、文七の失くした五十両も見つかり、物語は大笑いの大団円のハッピーエンド。

初めて観たお芝居だから?
「文七元結」が胸に残してくれる温度は、劇団KAZUMAの舞台そのものみたいに感じる。
けらけら笑いが溢れて、
ちゃきちゃきとテンポ良く、
じんわり染みて滲んで、
くるくる、ぬくぬく、ほろほろ、そしてふわふわ。
全部全部詰め込んで、彼らの舞台からはこの日も温もりが零れる。

遠征記事の最後に。
くだまつ健康パークの常連ファンの方々には、本当に親切にしていただきました。
楽しくお話していただいて、お菓子やみかんをいただいて。
大衆演劇ファンになって良かった、と心からの感謝と共に思います。

次回からはまたお江戸の鑑賞録にお付き合いくださいませ!
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コメント

ハイゼ 星を覗く人

ブログ楽しく拝見させていただきました。ハイゼの”星を覗く人”は、私も大変好きな小説です。お萩さんのブログを読みますと、ハイゼの小説と大衆演劇は、共通する部分が多いと思われました。

私が、アマゾンに掲載した”星を覗く人”のレビューは以下にございます。

http://www.amazon.co.jp/%E7%89%87%E6%84%8F%E5%9C%B0%E5%A8%98-%E3%83%A9%E3%83%A9%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BF-%E2%80%95%E6%94%B9%E8%A8%B3-%E5%B2%A9%E6%B3%A2%E6%96%87%E5%BA%AB-426-1/dp/4003242610/ref=sr_1_3?s=books&ie=UTF8&qid=1399512379&sr=1-3&keywords=%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%82%BC

Re: ハイゼ 星を覗く人

>荒野の狼様

いらっしゃいませ。
細かい引用まで読んで下さり、ありがとうございます。
良いお芝居を見ていると、心の中にしまっている金言がふと浮かんできますね。

アマゾンレビューも読ませていただきました。
”君は僕のものでないにしても、僕はやっぱり君のものだ“は、私も好きです。

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