大衆演劇 ’18 ―変わり続ける旅芝居のこと―

「ずいぶん大きい買い物したねえ~どこか旅行行くの?」
気さくなタクシーの運転手さんは、私が先ほど量販店で買ったばかりの新品キャリーを見て言った。
「はい、明後日から和歌山です。大衆演劇の遠征で…」
「大衆演劇?チャンバラとかするやつ?へえ、あれは、おばあちゃんおじいちゃんの娯楽なんだと思ってたなあ」
これぞテンプレ!っていうくらい聞き慣れた言葉(^-^;
「いや~最近はそんなこともないですよ、お客さんの中には学生さんも会社員もいますし…」
返答しながら、物事の認識が変わるのにはつくづく時間がかかるのだなぁと思った。大衆演劇を愛する人々の手で、新たなイメージが世に送られ続けているにも関わらず、だ。

数年前の女性週刊誌には、劇団花吹雪や大川良太郎さんをクローズアップする記事が載っていた。関西のバラエティ番組では、ポップスで踊る若い座長が紹介されていた。ネット上には、大衆演劇ファンの “広い世代に知ってほしい”という思いのこもったブログ・SNSがあふれている。
「大衆演劇はお年寄りだけの娯楽じゃない」ということは絶え間なく発信されている――けれど、一度根付いたイメージってなかなか上書きされないんだなぁ。

…でも、一ファンである我が身を振り返ると。
大衆演劇の新境地。ポップスとダンス。電飾や奇抜な舞台装置。若い座長さんたちを中心に作られている、アニメや漫画を元ネタにした芝居。
そういう新しさについて、私自身、狭量になってやしないだろうか。
古いお芝居や、これぞ旅芝居というささやかな人情劇が好きで。新しいものを観るとき、いつからか心のどこかで、失われていく古い懐かしい香りばかりを探すようになっていた。

かつてはこんなに頭が固くなかったのに。 
大衆演劇を観始めた5年前の夏。耳馴染みのあるポップスがかかると気になったし、『演劇グラフ』で漫画を原作にしたショーや芝居の写真を見ると、観てみたいな~と思っていた。むしろ当時は、古典もののスッと肌に入ってきにくい独特の言い回しに戸惑っていたこともあった。

でも2、3か月観た頃から、物語が眼前数メートルから飛び掛かって来る魔力に憑かれて。
曽我兄弟や梅川忠兵衛って誰?あの演目は歌舞伎にもあるの?
仕事帰りに夜遅くまで開いている図書館にダッシュしてはく、本の幸福な重みを腕に帰路についた。
大衆演劇という沼にハマればハマるほど。演者が水面に差し出してくれる“新しさ”も魅力的だけれど、それより沼本来の深みに沈み込みたくなった。

そして5年の間に、色んな役者さんのつぶやきを耳にしたり、お客さんの話を聞いたりした。
「お客さんの芝居離れ」
「正統派に芝居をやっても受ける時代やないやろ」
「昔の役者はねー、うまかったねぇ、泣かせてくれたねえ」
聞きかじりの言葉を心に留めるうち、直接体験したわけでもない“古き良き昔”の喪失ばっかりを勝手に恐れて、視野がずいぶん狭くなってしまっていたかもしれない。

そのことを痛感したのは、先月10/21(土)に二つの誕生日公演を観てから(←今さら本題)。


辰己小龍さん(たつみ演劇BOX)

この日の昼の部は京橋羅い舞座で小龍さんの誕生日公演を観た。新作書き下ろしのお芝居、今年も新派や歌舞伎から題材を採られるのかなと思っていたら、違った。『大暴れ!若衆小町』は、昔の日本映画みたいな立ち回り満載の痛快娯楽劇だった。
瞠目したのは、劇中の歌! 【関東春雨傘】とか【愛燦燦】とか、歌謡曲を小龍さんが芝居の内容に沿って歌い上げる。たとえば【愛燦燦】の“人生って嬉しいものですね”という歌詞を変えて、
「姉弟(きょうだい)って~ぇええ…うれしい~ものですね~♪」
男姿の小龍さんが、姉役の三河家諒さん(当日ゲスト)とデュエットする。観客に微笑みかけ、手を差し伸べて。

劇中で歌う――そうか、そんな表現もあるんだ。ミュージカルとかオペレッタとか。
『大暴れ!若衆小町』に散りばめられていたのは、大衆演劇ではお馴染みの歌ばかり。明るい調子の歌を聴いているうちに、楽しく芝居の世界に入れる仕掛けだ。

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ラストショー【聖域】では洋舞を披露。着物の代わりに、白いドレスの裾がくるくるとダイナミックに翻った。

辰己小龍という女優さんは、決して直接はおっしゃらないけれど。今の時代にどんなものが求められているのか。昔の役者が遺したものを、現代の旅芝居が再現するにはどうしたらいいのか。そういうことを全部、お腹の中で、わかってらっしゃるのだろう。

そして夜の部。台風22号の大雨の中、南海特急サザンに乗って和歌山へ移動した。

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澤村千夜座長(劇団天華)

紀の国ぶらくり劇場で行われた、千夜さんの誕生日公演。オリジナル芝居『君の名は。』……題を見ただけで、時代へのアンテナの鋭さがさすが😲
例の大ヒットアニメ映画もオマージュとして薄く引用しつつ、お話自体は全く別のものだった。漫画を原作にされたそうだ。
何でも屋を営む瀧太郎(千夜さん)は、死神の依頼で一か月だけ死んだ娘の魂を預かることになる。そして瀧太郎の体に娘・おみつの魂が入り、一つの体を二人の男女で分け合うことに…というSFっぽいお話。

千夜さんが一人芝居のごとく、男⇔女の転換をいきいきと演じる。たとえば、足を無造作に開いて苛立った男の声で「お前、出てくるなって言っただろ!」と言うと、次の瞬間には膝を合わせて肩をしゅっと落とし、「ごめんなさい…」と女の声で上目遣い。
肉体が性別間をジャンプして、本当に一つの体に二人が同居しているような現象の面白さに見入った。

でもお芝居の着地点は、懐かしい心の在り方だった。
再演に備えてネタバレは伏せるけれど、ラストシーン、“他者を恋しがる”という感情の原液が流れ込んでくる。涙する瀧太郎=千夜さんに気持ちが同化して、青空と雲の背景がぼやけた。
ストーリーは新しいし、肉体の使い方は斬新だけど、根底にはまっとうな人間の心が流れている。こんな方法もあるんだ…。

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こちらは舞踊ショー。最近Twitterでもよく披露されていた『刀剣乱舞』の鶴丸国永! 

ザクザクと足音を立てて、切り開いていく。
板の上の人たちは、懐かしい人情を根底に置きつつ、新しい表現を開拓していく。

「あのな、君には今の役者を観てほしい」
4年ほど前、ライターの大先輩に言われたことが頭をよぎる。往年の名優たちの話を聞きたがる私に、博多淡海さんや四代目三河家桃太郎さんなどの豊富な思い出の一端を語ってくれた後で、おっしゃった。
「今の時代に、頑張ってる役者たちを…」

時代に合わせてアップデートを続けるからこそ、旅芝居の世界は無限に楽しい。
もう、自分で世界を狭くしてしまうのはやめよう。
舞台の上は思っているよりずっと広い。

私はハロー!プロジェクトの女性アイドルがけっこう好きなのだけど、看板グループのモーニング娘。が、数年前からグループ名にこう付け加えるようになった。
モーニング娘。’17。
過去の黄金期を素地に残しつつ、今日の第一線を生きようとする名前。

旅芝居もきっとそう。大衆演劇’17であるために、彼らは変化しながら生きている。
もうすぐ2018年。来年は世間にはどんな風が吹いて、大衆演劇はその中からどんな色を取り入れるだろう。
あのタクシーの運転手さんにも、いつか大衆演劇を観てほしい。同じ時代の舞台を。

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橘小竜丸劇団【シャンパンダ】 鈴丸座長の8頭身にスーツが映える。

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大川良太郎座長(劇団九州男)【Hello Kitty】 クール・ジャパン風に。

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橘劇団 2.5次元舞台ファンにもヒットしそうな刀×長髪×美男子。


今を生きる、私たちの、大衆演劇’18!

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コメント

No title

時代も、国境も超えて多くの人に受け入れられる物語って、古いんですよ。
「おしん」人気が数十年の時を経て各国で人気を博したのは記憶に新しいけど。
アニメのヒット作で「ワンピ-ス」。あれって、人情系。ほとんど時代劇に通じる。
人の心って、それほどには変わらない。
古いとか、新しいとかって「どこか懐かしい」には叶わない。
あ、川崎大島劇場行きました!
こうして芝居は受け継がれてきたんだなぁ-。って思いました。

>のん様

「ワンピース」が時代劇に通じるというの、コメントを読んでほんとだ!と思いました。仲間とか絆とか恩とか、実はコテコテの人情話ですもんね。いつの時代にもそういう物語が人には必要で、表現スタイルがちょっとずつ変わっているだけなのかもしれないなと思います。歌舞伎ワンピースが受けているのも頷けますね。

劇団時遊さん行かれたんですねー(^^♪ 遊也座長の芝居観て、技術がガチッと堅固だなぁと思いました。今月中に私もまた行ってきますっ!

同じ~~^^

ハロプロ好きなんだね((∩^Д^∩))
私も女性アイドルグループの中では一番好きだよ~

あやや、モー娘。とか、小学生の頃憧れだったけど、今聞いてもテンション上がるいい曲が多いと思う。
最近のグループだとジュースジュースとか可愛いし曲が好き。てかどのグループの曲も好き。つんくさん凄い♡笑
変なところに食いついてごめんね。(^o^ゞ
お萩ちゃんの記事、すこく楽しみにしてます!大衆演劇好きな気持ちがたくさん共感するうちに蘇る。
ありがとう♪

>あやのちゃん

ハロプロ可愛いよね(^^♪
さりげにかっこいい曲も多くて、美少女たちが鋭い目つきで歌ってるところも好き♡
ね、どのグループも見てるうちに良さが伝わってきて、結局みんなかわいいしかっこいいなって思う(笑)
中でも私は個性の強いアンジュルムが好きかなぁ~

楽しみと言ってくれて励まされます…ほんとにいつもありがとう!
記事に書いた誕生日公演2つを観てから、大衆演劇楽しいなって今まで以上に思うようになった!

ほー

アンジュルムって、スマイレージのことかー
2014年に名前変わってたの知らなかった!
私もアンジュルム好き♪
ちょっと前の曲だけど、夢見る15とか。
美女の鋭い目(笑)いいよね、あの感じ。

私、お萩ちゃんの記事ほんと大好きだよ~。観劇した気になる。マジで。
遠征の記事、遠征したことないけど、こちらまで読んでてわくわくです。

誕生日公演か~
役者さんも気合いも入ってるだろうし、ひと味違うだろうね。
広島まで出張して観劇、羨ましいーーー!

>あやのちゃん

返信遅くなってごめん(>_<)
「夢見る15歳」可愛いよね!少女の透明感もあって名曲だと思う♪
残念ながらハロプロで踊る役者さんはまだ観たことないなぁ。

遠征中は「遠征してる」って事実だけでテンション上がってて、体力も行動力も普段より増すんだよね、つい(笑)

あー確かに~
女形でアイドルの曲使わないよねぇ。美しい歌声の歌手が多い。
韓流アイドルは多いよね!笑
私もただ今韓流アイドルの曲にはまり中です。役者さん経由で、いい曲やなって知ったパターンですです
大衆あるあるだよね♪

へぇーー、旅先での観光も楽しそうだよね。いい思い出たくさん出来そう^^

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