里見要次郎総座長 誕生日公演お芝居『中山峠 どさ帰り』―15年前の恋―

2017.8.6夜@後楽座
里見劇団進明座 ゲスト・澤村千夜座長、花柳願竜座長

お祝いムードに包まれた後楽座。里見要次郎総座長、お誕生日おめでとうございます!🎉
岡山は東京からは遠いけれど、この日は運よく出張で広島にいたため、足を伸ばすことができた(∩´∀`)∩



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・舞踊ショー前に「ビデオ・写真は固くお断りします」とアナウンスがあったため、舞台写真は遠慮しました。
・これからDVDなどで観る方も多いと思うのでお芝居後半の展開はぼかして書きますが、ちょっとでも内容を知るのが嫌な方はご注意くださいね。

『中山峠 どさ帰り』は大工の長次(要次郎さん)から、お美代(千夜さん)への15年に渡る恋の話――なのだけど。
ミソだなぁと感じたのは二人が元々恋人同士ではなく、言葉を交わしたことすらないということ。長次がお美代の姿を一目見て見初めただけなので、再会したとき、お美代は長次の顔も覚えていない。
「俺の一生はその女で始まり、その女で終わるような気がします…」
一方通行の想いは、男の人生を縛り付けるくびきのようだ。とても“独り”の恋。

なんだか、とっても大人の物語の造形という気がする。いいなぁ。
若者同士の甘い恋愛物もそれはそれで良さがあるけど…。陰影のある大人の芝居はいつまでも胸深くに残って、ふとした折に思い返すと新たに降り積もる。

冒頭では長次19歳、お美代15歳の設定。お美代は育ての両親に、借金のカタとして近江屋(女郎屋)に30両で売られそうになっている。やって来た長次は、両親に頭を下げて頼みこむ。
「俺は、勝手口でお美代さんが働いているところを見た瞬間、この人が俺の嫁になる人だと思ったんだ。どうか、俺の嫁におくんなせえ」
何度も懇願し、苦しい金子まで用立てても、けんもほろろに追い返される。ある夜、長次はお美代の父親・松蔵(里見直樹座長)ともみ合いになり、仕事道具のノミが松蔵の腹に突き刺さってしまった。
「人殺し~!」
断末魔の悲鳴を背後に、ほうほうの体で逃げようとする長次。
次に幕が開いたとき、舞台は15年後。股旅姿で現れる眼光鋭い男は、長い長い刑に服した後、やくざに身を落とした長次だった…。

てな具合に、女に惚れたために一大工の人生は狂ってしまった。大工からやくざへ、哀しい転身を演じる里見要次郎総座長はというと。
か…かっこいい…
青年だなぁ、と思った。このお誕生日で54歳になられたそうなのだけど、長次の風切る背・肩は晴れ空のように溌溂としている。
特にやくざになってからの一場面。歳月を経て再会したお美代の身の上話を、腰かけて聞いている姿。伏せた目、結んだ唇に想いをじっと閉じ込め、今にも躍動しそうな身体は股旅装束にピタリ包まれている。
「陽介さん(お美代の夫)を助け出すなら、目籠を破るしか道はねえ」
うへぇかっこいい~…。

その晴れ晴れとしたかっこよさが崩れる、場面二つが強く焼きつく。
一つは松蔵を殺してしまった後、長次が必死で逃げ出す場面。焦燥に目と口をぽっかりと開き、荒い息を吐きながら、もつれる足で花道を走っていった。歯車の狂った人生を転がるように。
二つ目はラストシーン。花道を歩み去る長次の目は、まっすぐ前を見据えているのだけど、虚ろだ。大きなくびきを失った人の姿。

そして要次郎さん長次に青年の明るさが宿っている分、千夜さん演じるお美代の影が均等に生きる!
影、といっても序盤は普通の町娘なので純粋に可愛い。女郎屋に売られる直前の場面、家の外に連れ出されたお美代は、松蔵に追い払われた長次が川にドボンと突き落とされるのを目撃する。目を丸くして慌てて、
「おっかさん、あの人、大丈夫かしら」
自分が叩き売られるっていうときに他人を心配している、おっとりしたお嬢さん感がやわらかだ。

15年後、再登場したお美代は商家の女将になっていた。無実の罪で佐渡送りになる夫・陽介を、必死で助けたがっている。
「せめて佐渡に向かう船が出るまで、陽介さんを追って行こうと旅をしているのです」
可憐な娘から大人へ姿を変え、声色もしっとり。貞女の役どころながら、どこか艶が枝垂れる。
身も心も成熟したお美代に、長次が漏らす。
「俺は、お前さんに心から思われている陽介さんとやらが、心から恨めしゅうござんす!」

しかし、観ながら疑問に思う。女郎屋に売られたはずのお美代が、どうして商家に嫁いでいるのか…?
その答えは最後の最後に出てくる(ネタバレ防止🙊のために詳細は伏せます)。暗闇に立ち、長次を見下ろすお美代の姿。
「そうかい、あたしは変わっちまったかい?」
軽い口調の背後に、ドロッと湿った花が暗くひらく。

娘⇒大人の女への変化だけでも、千夜さんの女形の二つの顔を味わえて十分オイシイのですが。終盤、抑えられていた本心を一気に放出させる女の顔は、圧巻のエネルギーでした。

書きながら思ったけど、要次郎さん×千夜さん、二人の演者はどちらも生命力が強い。ここに役の性質も加わって、陽×陰を感じさせる組み合わせだった。
ほかにも花柳願竜さん演じる宿屋主人・源兵衛の何か秘密のありそうな感じや、進明座の若手さんたちのイキのいい動きなど、役者さんみんなが要次郎さんを中心にまとまっていた。

役者さんの肉体と声の中に、物語の芯が浮かび上がる。
恋人同士の甘いラブストーリーとは真逆。言葉も交わしたことのない女、心に描いた恋のために大工は罪を犯した。
だからこそ彼の時間は、勝手口でお美代を見初めた、そのときで止まっている。
恋という感情の核には限りなく“独り”の執着心が疼いているという苦味が、終盤の長次とお美代の噛み合わない会話から滲んでくる。

その中で長次の噛みしめるようなセリフが象徴的だ。
「15年前のお前の姿を、俺は忘れはしねぇ」
目線はお美代ではなく空を見ている。想いはもはや現在の相手を通り過ぎ、失われた過去へ向かう。

「あたしにとっては、この15年、この世のすべてが地獄だった」
「19のときに人を殺めちまってから、どれほどの地獄を味わってきたことか…」
長い地獄の中で、繰り返し明滅する、逃れられない過去の一点。

15年前に、恋をした。

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