I LOVE “女の子”! ―100歳になっても―

“女の子って何でできてる? お砂糖とスパイスと色んな素敵なものでできてるよ”
こんなマザーグースとはいかなくても。
大胆な決断力とたしかな強さを、柔らかな肌にくるんだ“女の子”は、なんて魅力的な生き物なのでしょう。

と最近思ったのは、4/18(火)、橘鈴丸座長(橘小竜丸劇団)が大阪にゲスト出演したとき。梅田呉服座で行われた≪紀伊国屋章太郎古希祝い 澤村一門特別公演≫。仕事で大阪行きは断念したけど、タイムラインで目立っていたのは鈴丸座長への反響だった。
「初めて拝見したけど、世界観に引き込まれた!」
興奮した声があふれていた。


橘鈴丸座長(橘小竜丸劇団)

普段東京にいても、鈴丸座長――“鈴ちゃん”の人気はだんだん高まっているのを感じる。ショーの独特の世界観もさることながら、毎日の舞台に対して本当に健気な心が伝わってくる。
「とにかく一生懸命な座長さんなんです。どうか一人でも橘鈴丸を知ってくれる人が増えますように」
ネットで見かけたファンの方のエール。いずれの役者さんのファンも好きな人を語る熱さは同じだけれど…。鈴ちゃんを語る口調には、胸にきゅっとしみる愛しさみたいなものがある気がする。そこには、女の子がただ一人で大きな構造に立ち向かっている、ということへの共感がひそめいていたりするのだろうか。
「男社会の大衆演劇で女が生き抜く為には男の何十倍もの努力をしなければならない」
と鈴ちゃん自身、ツイッターで発信している。それらの言葉が、舞台の彼女と客席の女性たちを一種の同志にするのかもしれない。今月21日の大島劇場での誕生日公演は私も予約済みだ(楽しみ♪)。

誕生日…。
そうだ、女の子も歳を重ねていく。
30代、40代、50代、そして人によっては還暦を過ぎてなお舞台に立つ――

大衆演劇の世界で年齢を重ねた女優さんってどんな存在だろう。多くは太夫元の奥さん=座長のお母さん。あるいは親戚。中には、なぜこの劇団に…?みたいな不思議な縁で在籍している人もいる。
彼女たちの柔らかな横顔を思い出す。小月きよみさん(橘劇団)秋よう子さん(劇団新)桜木八重子さん(橘小竜丸劇団)喜多川志保さん(劇団天華)北條真緒さん(春陽座)春咲小紅さん(鹿島順一劇団・客演)…他にもたくさん。いずれの方も、脇役や舞踊ショーの短い一曲でもシャンと舞台を整えている。

彼女たちが娘役を務めた頃は、どんな時代だったのだろう。昔はもっともっと女優さんの地位は低かったという。ごく稀にでも、舞台の中央に立ち、歓声に可愛い頬を染める日があっただろうか。

同じだけ歳を重ねた男優さんが、太夫元や指導、大御所として敬われているのを見る。彼らが芝居を立てたり、芸能生活何十周年というお祝いをされているところを私たちは見る。
一方、ベテラン女優さんが芝居を立てていたり、座長のお母さんが太夫元だったりする劇団さんはほんの一部だ。彼女たちの多くは特に役職を持たず、今日も微笑んで舞台に出ている。
白粉を塗り続けてきた女の手に、得られるものはどのくらい…?

ある女優さんの芝居でのアドリブのセリフは印象的だった。
「この世界で嫁に行き遅れる女の人を、うちはたくさん見てきたんだよ、だからね、決してそうはなりたくないの!」
自虐ギャグに三吉演芸場はドッと笑った。
娘役を降りた女優さんには、大きな椅子が用意されている。夫を支える妻、という。
もうちょっと後には、子どもを抱く母の椅子が控えている。
そして少しずつ裏方に回り、夫や子どものサポートに回り、時々芝居に出て、一曲きりの個人舞踊を丁寧に踊る人になるのだろうか。
それはたしかに一つの美しい人生だ――けれど。

頭の中に女の人が踊っているところを浮かべる。少しずつ皺を刻んでいく手が空を切る。
「うちはお嫁に行きたいの!」
椅子はそこにしかありませんか。
「ここであんたに男を譲ってしまったら、うちをお嫁にもらってくれる人なんておらんもん」
息はそこでしかできませんか。

舞台が鏡のように映すのは、この世の女の子みんなにかかっている呪いでもある。
若くなくなっていく女の子は、すり減っていく自分の価値を、妻に母に置き換えなければ何者にもなれませんか…? 

…ちょっとシリアスになりすぎましたので、ここで一息。
舞踊ショーの一曲。舞台に出てきた女優さん。年齢を刻んだ身体が、しっとりと曲に合わせて流れる。

たとえば【お吉物語】。“ハリスさんも死んだ。鶴さんも死んだ。今度はわたしの番なんだ” 酒浸りになった哀れなお吉を、包みこむような眼差しが踊り手にある。

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喜多川志保さん(劇団天華)【お吉物語】

たとえば【冬隣】。“地球の夜更けはせつないよ そこからわたしが見えますか” とうに亡くなった命に、女はいつまでも呼びかける。

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小月きよみさん(橘劇団)【冬隣】

たとえば【お母さん】。“どなたですかと他人のように わたしを見上げてきく母の…” 恍惚の人になってしまった母親をいたわり、羽織をかける。

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北條真緒さん(春陽座)【お母さん】

身体に薄衣のように幾重も折り畳まれた芸が、ぱた、ぱたと開かれていく。
役職なんて何もなくても。
彼女の舞台の深さを客席が知っている。
その中に少女のようにいとけない、他者を思いやる心が息づいていることも。

『一生、女の子』。以前読んだ、作家の田辺聖子さんの著作のタイトルにそういうのがあった。著者が83歳のとき出版された本で、人や物を愛おしむ気持ちがたっぷり詰まっていた。

だから私はもう、舞台に向かって唱えることにした。
若くても、歳を重ねても。
誰かと結ばれても、結ばれなくても。
子どもを産んでも、産まなくても。
儚いものに手を伸べて、自分自身よりも慈しみ続ける人のことを、“女の子”という。

願わくば舞台の貴女が、ずっと客席の私たちと一緒に歳を取ってくれますように。

無題
澤村沙羅さん・澤村青空さん(風美劇団)

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千明ありささん(劇団新)

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高野花子さん(下町かぶき組)

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小春かおりさん(劇団花吹雪)

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南條千花さん(劇団魁)

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桜木八重子さん(橘小竜丸劇団)

セリフを言う声はいつまでも晴れ晴れと。踊る体の芯は強く、笑いじわのできた目元はなお甘い。
“お砂糖とスパイスと色んな素敵なものでできてるよ”
そう、100歳になっても、ね。

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