劇団KAZUMAお芝居「生首仁義」①柚姫将さんの三代目役・一馬座長の二代目役

2013.2.10 昼の部 @くだまつ健康パーク

あの優しい命は、一体なぜヤクザ一家の三代目に生まれたのだろう?

柚姫将さん演じる三代目から、
この物語の深みを覗き込んだ淵から、
私の手がいつも汲み取ってしまうのは同じ問いだ。

なぜ、三代目はあんな酷い死を遂げなくてはならないのだろう。

汲んだ水が多すぎて指の間から零れるように。
私の中の思いは、まだまだ収拾がつかないのだけれど。
でも書いてみることにします。
昨年の7月に東京で初めて観て、今回山口で2回目を観て。
どうしても心から拭い去れないお芝居だから。

写真・柚姫将さん(2/10舞踊ショーより)


写真・藤美一馬座長(2/10舞踊ショーより)


※耳で聞いたままの役名、当て字。

白鷺一家の三代目・清次郎(柚姫将さん)は、極度に気の弱い小心者。
敵対する横車一家にはもちろん怯え、
自分の組の若衆に怒られることも恐れ、
しまいには大きな音にすらおののく。

お付きの仙蔵(華原涼さん)と長五郎(冴刃竜也さん)にも呆れられている。
「ほら、人がみんな笑ってますよ!」
とたしなめられても、
「おいらは笑われ慣れてるから別にいいよ!」

そんな三代目が恋したのが、横車一家の娘・おりゅう(霞ゆうかさん)。
だがおりゅうにとって、三代目を陥れるのは赤子の手をひねるようなことだった。
手紙で三代目を呼びだして、
「もうヤクザなんて嫌。あたしを連れて逃げて!」と縋るおりゅう。
「とりあえず向こうの茶屋でゆっくり話をしよう…」
と、三代目に手を引かれたそのとき。

おりゅうは甲高く悲鳴を上げ、周囲から横車一家衆が飛び出してくる。
単純な美人局だ。

親分・横車大八(藤美真の助さん)は、
恐怖でひたすら地に伏して頭を抱えている三代目に迫る。

「娘に手を出した代償だ」
「お前たちの縄張りを寄こすか、それともこいつの首か」。

這う這うの体で家に戻った三代目・仙蔵・長五郎。
縄張りか、三代目の命か、突きつけられた選択。

そこへ旅に出ていた二代目の金次郎(藤美一馬座長)が帰ってくる。
「ほんとに、兄ちゃんかい?会いたかった…!」
誰より慕っている兄の帰還に、三代目は喜びいっぱい。
もうこれで安心だと言わんばかりに。

けれど、二代目は人払いをして。
弟と二人きりになってから言うのだ。
「白鷺一家の縄張りは、死んだおっとうとおっかあから受け継いだ、大事なものだ」
「縄張りが横車の手に渡れば、何より中に暮らしている素人衆が、どんな難儀をするか」
「絶対に縄張りを手放すわけにはいかねえんだ」
ヤクザの仁義を説く、その言葉の意味するところは。

三代目は到底受け入れられない事実を、呆然と呟く。
「じゃあ、兄ちゃんも、おいらに死ねって言うのかい…?」

――むごい。
あらすじを書いてただけで、むごすぎて手が止まる。
何が一番むごいと思うか。

ヤクザの仁義のために死を要請される三代目が、
全く仁義に生きていないということだ。

三代目は一般的な情に生きているキャラクターだ。
当然、縄張りなんかより命が大事。
仙蔵に懸命にこう説くシーンがある。

「喧嘩は駄目だよ、喧嘩すれば怪我をする、怪我をすれば血が出る、血が出れば痛いじゃないか」

説かれた仙蔵は困り顔。
仙蔵も長五郎も二代目も、みんなヤクザの道に生きているのだから。

白鷺一家の中で、三代目だけ色が違う。心が違う。
一般の、いや人並み以上の優しさと情を持った三代目が、
ヤクザの家に生まれたことはあまりにも悲劇。

自死しろと兄に言われ、最初三代目は必死にあがいて抵抗する。
「おいらは死にたくないよ、死んだら独りぼっちじゃないか」
「兄ちゃんにももう会えないんだよ」

私がこの状況で恐ろしいと思うのは。
三代目にしてみれば、何のために死ぬのかわからないことだ。

「また取り返せばいい」縄張りごときのために。
仁義なんて、空っぽの言葉のために。
冷たい刀を手渡されてこれで腹を切れと言われても。
一体どこに向けて覚悟を決めればいいのか?
何のために、自分のたったひとつの命を投げ出すのか?

目的のない死は、ぽっかりと暗く空いて。
恐怖は無限に広がっていく。

それでも。
それでも優しい弟は、とにかく兄が好きなのだ。

「仙蔵や長五郎だけじゃなく、兄ちゃんにまで迷惑かけてたなんて…」
泣きながら、えづきながら。
「わかったよ、兄ちゃん…」
遂に慟哭混じりに絞り出す。

「おいらいっぺん、死んでみるよ…!」

兄のため。
ただ敬愛する兄の生き方を邪魔しないため!

そのためだけに、三代目は震えながら腹を突く。
そして滂沱の涙を流して、苦悶の汗を流して死んでいく。
目を剥いて、自らの命を自らの手で終わらせる。

初めて観たときも今回も。
三代目の自決の場面では、私は堰を切ったように泣きながら、舞台を見ていた。

将さんの大きな目が投げかける激情。
恐怖、
惑い、
憤怒、
虚しさ、
思慕。
表される心が嵐のように渦巻いて、
ぐるぐると暗い舞台の上を廻り、
客席に襲いかかってくるようだ。
最期は虚空をギリと睨んでから、うなだれる。

そして三代目が絶命した後の場面。
再び涙で舞台が歪む。
兄の二代目が、決して冷血漢ではないということがわかるからだ。

一馬座長の細い、震える声での演技。
「痛かったろう、辛かったろう…」
「次は決してヤクザの家に生まれてくるんじゃあねえ」
「カタギの家に生まれて、幸せになるんだぜ…」

兄は、ヤクザとしての仁義と弟への情愛に引き裂かれているキャラクターなのだ。
弟に死を命じなければならなかった二代目の辛さがここで伝わってきて、
体中に染みる。

この凄まじい自決の場面が終わった直後の幕間は、
体から糸を抜かれたようにどっと力が抜けた。
握っていた座布団の端がしわしわです。

さて、この「生首仁義」はあと2記事書きます。
本題は最後の3番目に回して。
次は絶対外せない、仙蔵と長五郎の話。
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