春陽座お芝居『八つき子』―澤村心座長の部屋―

2017.2.12夜@三吉演芸場

澤村心座長が。
「10年もの間、皆でわしを騙しくさって…!」
あの上品ではんなりして、お殿様役やボンボン役が似合う心さんが。
ずり落ちそうな眼鏡の下の目を潤ませて、酒瓶抱えて、どっかり足を組んで、悔しさに唇噛みしめている…。

『八つき子』は心さん演じる板前・亀吉の人間くささに、観客が自らの生活を重ねずにいられないリアルな家族の物語だった。今まで持っていた、心さんのイメージとのギャップに驚く一方で。
普段表に出している柔らかさを取り去っただけで、元々この方はこういう持ち味だったんじゃないか? 元からあった演技の扉の一つをパタンと開いただけなんじゃないか? 
あぐらをかいた姿を見ながら、この役者さんの内奥に仕舞われているたくさんのものを思った。

澤村心座長

心さんは舞踊の手が細かいなーと思う。サッと腕を振る仕草も、微細に左右に揺れる振りが入ったりする。

『八つき子』は現代劇。藤山寛美さんの芝居を元に、澤村新吾さんが立てた芝居だという。
亀吉は子どものときから料亭・吉善で修行した板前さん。遊びもせず修行一筋、お人好しな性格だ。
ある日、大将(澤村新吾さん)が店のみんなを呼び集めた。
「亀、お前いくつになる?」
「39になりました」
「お前、特に好きな人はおらんのか?」
「へえ、そりゃ知り合う女の人やお客さんでも、べっぴんさんやな、かわええなぁと思う人はいてても、仕事、仕事で…。わしは生涯、女房は持たれへんかなぁと思うとります」
「よし、おらんのやったら、静子と一緒になれ」
静子とは大将の娘(澤村みさとさん)のことだ。突然言われて、きょとんとする亀吉の表情が実に可愛い。
「静子が『亀ちゃん優しい人や、亀ちゃんと一緒になりたい』と、こう言うんや。亀、静子と一緒になって、この吉善の跡継ぎになってくれ」
思ってもない幸福に亀吉はまなじりを下げて承諾する。修行仲間の鶴吉(澤村かずま座長)や妙ちゃん(澤村かなさん)も万々歳で、とてもおめでたい光景だ。

でも、この時点で一つ不穏な要素が浮かび上がっている。場面右端にひっそり座った、静子がずっと不安そうな顔つきをしていることだ。何か、この結婚には秘密があるんじゃないか…。
みさとさんの芝居によって、場面がぐっと多層的になっていた。くったくのない明るい声が大らかに育てられたお嬢さんっぽい。

澤村みさとさん
CIMG9528.jpg

結婚から10年。健太(澤村煌馬さん)という息子も生まれ、亀吉はすっかり息子を猫可愛がりするお父さんになっている。遊びに来た鶴吉相手にウキウキお喋りするシーンが良い。
「日曜日なぁ、健坊のサッカーの試合なんや。今度の相手は強うてな、なかなか勝たれへんのや…」
ここで思いついたように妻の静子を振り返り、
「なぁ静子、今度からな、健坊の弁当、ハンバーグ一個増やしたり。力がつくようにな」
「はいはい。まったくあんたってば、うちと健太とどっちが大事なん?」
「ええ、う~ん、そりゃあ…(ちょっと考えてニッコリ)健坊や!」
なんてザ・ホームドラマなんだ!(笑) 心さん、実際に良いお父さんそうだものな…😋 こういう場面のリアリティを見ると、俳優さんは親になることを役幅の財産にするという選択ができるのだなと思います。

そんな日々の中、結婚前からの“秘密”が突然明かされる(その中身はここでは伏せておきます)。亀吉は支えを失ったように、よろよろと柱にしがみつく。
「健太の父て、静子の旦那て、吉善の大将て…皆に言われて…10年、桶の中で泳がされとったんか…!」
これが飲まずにやってられるかと、飲めない酒をごくごくあおる。酔って座った目で、虚ろに地面を見つめるばかり。

二重の意味でギャップに目を見開いた。
一つは、これまでよき夫・優しいパパの顔だった“亀吉”の、怒りと悲しみが表出すること。
もう一つは、澤村心さんという役者さんのイメージが新しく膨らんだこと。酒(実際は水)で濡れた心さんの口がおもむろに開いて、
「…静子ぉ…」
と重たく告げたとき。声の冷え具合に思わずビクッとした。

CIMG9503.jpg
【川千鳥】 手が切れてしまいましたが💦 去っていく女に手を振る…という振り。心さんの踊りは抒情的だなぁと思わされることが多いです。

亀吉のような、日常の延長線上にある役を演じたかと思えば。やはり『御浜御殿綱豊卿』みたいな、高貴で理想に燃えるお殿様がハマり役に見えたりする。
多くを語らずニコニコしている心さんは、まるで行き止まりの見えない部屋みたいだ。2DKだと思ったら3DKで、と思ったらもう一つ部屋があって、まだまだ知らない扉が隠れていそう。

一人の演技者の、様々な芝居を、ひと月にまとめて観られるからこそわかること。大衆演劇という芸能のぜいたくさ、春陽座という劇団の上質さだ。

心さんについては昔こういう記事も書いてました⇒木漏れ日に憩う―春陽座・澤村心二代目座長―

【春陽座 今後の予定】
2月 三吉演芸場(神奈川県)
3月 大江戸温泉物語ながやま(石川県)
4月 四国健康村(香川県)
5月 宝劇場(福岡県)
6月 ホテル龍登園(佐賀県)

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