春陽座お芝居『御浜御殿綱豊卿』―春陽座という楽器―

2017.2.7 夜の部@三吉演芸場

「おはまごてん・つなとよきょう」…なんて、いかつい題なんだ(笑) 事前に友人に教えてもらったところ、真山青果作の史劇で、歌舞伎でも上演される作品だそうだ。

私が今まで、大衆演劇で観たことのないタイプの芝居だった。上演1時間半の大部分が、心さん演じる綱豊卿とかずまさん演じる赤穂浪人・助右衛門の討論(!)に費やされる。

観ていて思ったのは――舞台全体が“楽器”!🎹🎻
春陽座メンバー一人一人の動作・立ち位置がバチッと噛み合うべきところで噛み合う。膨大なセリフの掛け合いも音楽的だ。なので今回は、舞台と演者が“どんな音楽を奏でていたか”という観点からの振り返り。

時代は浅野内匠頭切腹から1年後。冒頭は、甲斐宰相・綱豊(澤村心座長)に、妾・お喜世(澤村かなさん)が相談するシーン。お喜世の心配事は、兄の助右衛門(澤村かずま座長)が今日のお浜遊びを隙見したいと言ってきたことだ。
綱豊から「そなたの兄は浅野家に仕えていたな?」と問われて、お喜世は兄の真意に気が付く。すなわち助右衛門は、お浜遊びに参加する仇・吉良上野介の顔を見極めようとしているのではないか?

ここから、ほんの数秒で行われる流れが美しい。
① お喜世のセリフ「まさか兄上様はわたくしを謀った…?!」
② かなさん、言いながら弾かれたように立ち上がる
③ 綱豊のセリフ「いや、構わぬ」
④ お喜世をなだめるように、心さんの右手がすっと前に出る
1~4が、全部一つの音節の中に入っているような収まりの良さ! 

心さん・かなさんは、どちらもはんなり上品な類似タイプのお顔立ち。二人を覆うように、背後に大きな傘があるのがまた絵になる。お雛様とお内裏様の密談のような、作り物めいた美の光るシーンだった。


澤村心座長。穏やかに大義を見つめている綱豊だった。

CIMG9316.jpg
澤村かなさん。お喜世の美しさのみならず覚悟の鋭さが現れていた。

芝居の見せどころ、綱豊VS助右衛門の会話も面白い。というか二人の位置関係が面白い。この位置はどーしても絵で説明したいので、昔資料用に撮影していた三吉の舞台写真を利用します。

1.jpg

↑こういう位置でした。綱豊は舞台中央、そして助右衛門は花道のスタート地点――つまり舞台の外側にいる状態。

このときのかずまさん助右衛門の目がコワイ。あの大きな上がり気味の目をさらに尖らせて、ジロ…と舞台中央のほうを下から見る(この日は花道の近くに座っていたので、その目つきがよく見えた)。助右衛門は疑っている。綱豊は仇討ちに協力してくれるのか、それとも自分が次期将軍になりたいだけなのか。
疑いの表情と、彼が舞台の外=綱豊という人間の外にいるという位置が重なって、独りで怒りを抱えている姿が浮き彫りになる。

CIMG9283.jpg
澤村かずま座長。とてもピュアな感じがする役者さんだ。

一方で綱豊は、助右衛門たち赤穂浪士がどれほどの覚悟でいるのかを確かめようと、あえて大石内蔵助の悪評を言ってみたりする。

丁々発止のやり取りが続き(キャッチボールも非常にテンポ良い)、やがて助右衛門の仇討ちへの思いを信じた綱豊が、手を差し出す。
「そなたたち、日本の義士を信じたいのだ!」
舞台中央から、舞台外側へまっすぐ差し伸べられる右手。
けれど助右衛門は目を背ける。

綱豊→助右衛門の一方通行の呼びかけに“折り返し”が訪れるのは。綱豊が、実は公家から浅野家再興を願い出るよう頼まれていることを話したときだ。
助右衛門はハッと目を見開いて、綱豊を凝視する。
「お側へ参りまするー!」
助右衛門はガバッと立ち上がって舞台の内側に駆け入る。かずまさんの走り寄る姿が、さっきの“差し出された右手”に対する応答のように見えた。

助右衛門は綱豊の隣に座して、言葉にならない声で言う。
「浅野家再興、嘆願の儀……嘆願の儀…」
涙ぐみながら必死で首を横に振る。
※前提に「浅野家が再興される→家を滅ぼされたことに対する仇討ちが成り立たなくなる→赤穂浪士的には浅野家再興は阻止すべき事態」という理論があります。これは見ているうちに理解できる作りになっていました。

綱豊は助右衛門の泣き顔を見て微笑む。そして膝を曲げ、目線の高さを合わせて、肩を叩く。ずっと討論していた二人の心がようやく近いところに落ちた――という、締めの小節。

真山青果や歌舞伎や歴史にもっと造形の深い人が観たら、きっと内容的にも心に留まるところがたくさんあると思うのだけど…。
私の率直な体感では、三吉演芸場の広い舞台と演者の身体が“鳴り合っていた”1時間半だった。さらにその演奏の奥に、登場しない大石内蔵助が重奏低音として響いている。澤村新吾さん演じる新井白石のセリフ「雲は描いているうちにその姿を変えてしまう」(大石内蔵助の隠喩)とかに象徴されている。

このガッチリした芝居の翌日には「意地悪ばあさん」、翌々日には「東男と京女」という喜劇だった(すごいギャップ!)。
≪芝居の春陽座≫、観るのは2年ほど空いてしまったけれど、元々上質だった芝居がより精度を増した気がする。座員さんの人数は減ったけど、その分二人座長の輪郭がくっきり押し出されている。きっと無数の試行を重ねられた上に、今の芝居体制があるのだろう。

2月の三吉演芸場は、文字通り春の陽ざしが差し込んだかのように楽しい!

【春陽座 今後の予定】
2月 三吉演芸場(神奈川県)
3月 大江戸温泉物語ながやま(石川県)
4月 四国健康村(香川県)
5月 宝劇場(福岡県)
6月 ホテル龍登園(佐賀県)

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