拝啓 劇団天華・沢村ゆう華さま ―舞台を去った後も―

もっと観て、もっとお伝えすればよかったね。

このブログを読んで下さっている大衆演劇ファンの方も。
きっと観劇ライフの中で“役者さんの卒業・引退”を経験したことがあると思います。
彼(彼女)の舞台姿にもう会えない寂しさを胸にしまいこんで、しばらくは心のどこかに穴を空けたままの劇場通い。

2016年末。炬燵でごろごろしながら色んな方の大衆演劇ブログを読んでいたら、劇団天華12月千秋楽についてのブログが検索に引っかかった。
≪今月で沢村ゆう華さんが卒業。本当にお疲れ様でした≫
目を疑った。千夜座長から舞台上で発表があったとのことだった。つい一週間前まで、岡山・後楽座でゆう華さんを観ていたのに! そんなこと、一言も触れてなかったのに…。

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(2016/7/20)

ゆう華さんは劇団天華の女優さん4人の中でも大きな存在。座長の相手役の多くを務めていた。娘役も、女房役も。
裏方が忙しいようで、送り出しに出ていない日も多かった。だから直接お話したことはあんまりないけれど。そのうち芝居の感想をお伝えしたいな…と思っていた矢先だった。
1月、大阪・池田呉服座にほんとにゆう華さんはいらっしゃらなかった。

伝えられなかった気持ちを、私はどうしても捨てあぐねていて。出しそびれたファンレターを綴るつもりで、言葉を考えています。よければ今ブログを読んでくださっている方も、それぞれの心に残っている誰かを思い描きながら、お手紙に付き合ってくださいませ。

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拝啓 沢村ゆう華さま

いつ観ても“ちゃんとした”女優さんだったなぁ、と貴女のことを思い出しています(おこがましい響きかもしれませんが、一番ぴったりする日本語がこれでした)。
たった1年しか劇団天華を観ていない私にも、たくさんの場面が浮かびます。

たとえば10月の座長誕生日公演の芝居『虎の改心』。棟梁の家に慌てて逃げこんで来る場面です。ゆう華さんは敷居をまたいだ後、裸足の足をぱたぱた払って、足の裏についた“泥”を落とす演技をしていました。
ああ、気が動転して飛び出してきたから履物も履いていなかったんだなと、心境がぐっとリアルに感じられました。

『天華嵐』では、澤村悠介さんとの可愛いカップル役が観られました。悠介さんが、悪役の丞弥さんや神龍さんに往来でひどい目に遭わされる場面があります。ライトが当たっていない後方を見ると、ゆう華さんがオロオロと心配そうに口元を押さえたり、とても見ていられないと顔を背けたりしていました。
「後ろで、ずっと細かい表情を作られているのがとっても良くってー!」
この日は送り出しにいらしたのが嬉しくって、テンション高めにお伝えしたら、
「細かいとこまで観ていただいて…」
と恥ずかしそうに笑われました。

ゆう華さんは芝居を立てる方でもありましたね。中でも『丸髷芸者』は、本当に心惹かれた一本です。芸者の優しい心、そして意地悪に見えるけれど心底は善良な婚家の人々。
他にも『月のかんざし』『応挙の幽霊』。これらは残念ながら未見ですが、今後も劇団天華で演じられていくと信じています。(特に『応挙の幽霊』、残して下さいませんか、座長!)

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(千夜座長との相舞踊。師弟関係プラスおかしみのある関係性が好きでした笑 2016/2/13)

「メンバー紹介です。まず女優陣、沢村ゆう華!」
終演後の舞台挨拶で、座長が名前を呼ぶと、たいてい地毛をまとめた姿で舞台袖から飛び出して来られました。じっと大きな目で客席を見つめ、遠慮がちに微笑みかけて、一礼して、サッと引っ込む。
いつも裏の作業でお忙しそうでした。男優さんや後輩の女優さんが、ショーや送り出しに出ている間も。

一ファンのあさーい考えですが…。
大衆演劇の女優さんには皆、見えない苦労があるのだと思います。男優さんの着付けに大量の着物の片づけ、他に家事的な仕事も。
客席では、色んな思いが行き交っています。思うようにならないことがあれば、苛立ちは、時に立場の弱い女優さんにぶつけられやすいかもしれません。もしかしたら、長い役者生活の中には、誰かが心に土足で踏み入ってくるような日もあったのでしょうか…?

≪24歳の時に家族に不幸があって、祖母も母ももちろん私も凄く落ち込んだ生活が続いていたのですが、ふとしたきっかけで、大衆演劇を観る機会がありました。≫
取り寄せた2014年7月号の『花舞台』。ゆう華さんのインタビューが載っていました。役者の家の生まれではなく、お勤めもされていたのに、どうして役者になったか。

≪しばらくの間、笑う事さえ忘れていた祖母や母が舞台を観て凄く笑っていたんです。舞台を観ている時だけは、悲しみから解放されていたのだと思います。≫
≪あ~こんなにも観る人を幸せな感覚にする事ができるんだって、なんて素晴らしい仕事なんだろう。実際入ったのはその2年後でしたね≫


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(2015/11/8)

上の写真は、1年2か月前、私の劇団天華初見の日のものです。ミニショーで出てきたゆう華さん、丸っこい輪郭・目鼻立ちにピンクの着物がとてもよく馴染んでいて、可愛い女優さんだ!と嬉しくなりました。
このピンク色のようなまろやかさは、ゆう華さんの芝居にも舞踊にも、まとわっていました。

≪私は、皆さんが誰でも知っているような名前の知れた女優になりたいわけじゃないんです。ただお客様には、今日の芝居良かったよ!!! 座長や劇団皆には、こいつが劇団にいて良かったなと思ってもらえれば本当に嬉しいですね≫
≪その為には努力あるのみだと思いますのでこれからも頑張ってまいります≫


いつも、お客さんを楽しませようと、良いものを見せようと、舞台に立っていらした。
笑みを絶やさず。
背筋を伸ばして。
毎日。
どんな風の吹く日も、毎日。

記憶に一番新しいゆう華さんの演技は、12月の後楽座での『鷺娘』。若旦那の家の女中さん役で、出番は1分くらいでした。
「(千佐衛門と若旦那がお喋りしているのに)お邪魔していいのかなー…」
ちょっとからかうように言い残して、座長演じる千佐衛門を呼びに行く。この一言の軽口が、神龍さん演じるお徳の嫉妬に火をつけます。ほんのささやかな役でしたが、物語の契機をキュッと作っていました。
これが、ゆう華さんを観る最後だとは、そのときは思いませんでした…。

ゆう華さんの役を、これからは静華さんや鈴華ちゃんが演じられるのでしょう。いなくなった人の姿を、毎日新たな風景が塗り替えていきます。

でも――一つ一つの役には、演者の影が残ります。
たとえば『虎の改心』では、足の“泥”を落とす演技が型として残るかもしれません。『鷺娘』の「お邪魔していいのかなー」のセリフは、やっぱり次の女優さんも、からかうような調子で…。
次の役者さんへ、その次の役者さんへ、役は継がれていきます。いなくなった役者さんの残滓は、役の中で、冷めることなく私たち観客の前に揺らめいています。

岡山公演のときには、またお手伝いという形でも、天華の舞台に出て下さることもあるのでしょうか。期待しています!
何もできませんので、拍手を送らせてください。いつも目立たないところで芝居を守ってくれていたことに。

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(2016/10/2)

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(2016/12/16)

そしてゆう華さんの、これからの希望と幸福に。
いつまでも、舞台にはピンク色の名残が吹いています。

東京のファンより
敬具
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コメント

ゆう華さんお疲れ様!

ゆう華さん、拝見した事ない女優さん。写真はとっても穏やかな雰囲気ですね~観たかった。12月には橘菊太郎劇団を観ていまして、大五郎さん!さすがでした~('_')。上手い女優さんだなぁ-と思っていると「大五郎!」ってハンチョウがかかる。え-これも?さっきの役も?5列目位に座って観てるのに分からない(笑)。
橘劇団は女優さんも多くて、女優陣もうまい!つい目がいってしまうのは、3枚目がはまる女優さん。お名前分からないけど、観ていて和む雰囲気をまとっていらっしゃる。キレイ♪可愛い♪じゃなくて、観客を惹きつけるのは何なんでしょう。
大衆演劇の女優さん達、脚光を浴びる男性役者の影になってしまいがちだけど、観てますよ-。貴方に会いに行ったんです!←言えないけど(^_^;)

>のん様

いらっしゃいませ🎶
沢村ゆう華さん…広く知られたお名前ではありませんでしたが、丁寧に演技される素敵な女優さんでした。その舞台ぶりを一人でも多くの方に知ってほしくて書いたファンレターです(笑) こうしてのんさんがコメント下さったので、読んで下さっている方にちゃんと伝わったみたいと一安心です(*´ω`)

大五郎さん、私も1月に入って木馬館に一度行ってきました。今週、三河家諒さんがゲストでいらっしゃる間に再度行けたらいいなと思っています。大五郎さん、女役だと本当に女の人みたいなしっとり感がありますよね。
橘の三枚目がはまる女優さん…どなたでしょうね~気になります(^^) 花かおりさんか、北條みきさんあたりかな?と…
おっしゃる通り女優さんが充実していますね。女優陣の群舞にも魅せられています。

「貴方に会いに行ったんです!」って素敵な言葉です。本当、「女優さんが素晴らしいから」「この女優さんが好きだから」って思って観ている劇団、たくさんありますよね!

半年ぶりに

この名前を使いました(笑)
辞めた後もとてもとても劇団のことがきになるので 時々携帯で検索していますが 今日初めてこのブログを拝見させていただきました
涙がボロボロ出ました(笑)
最後まで自分で納得のいく女優になれませんでしたし 御察しの通り自分の至らなさ故に辛いことも多々ありました でも大好きなお芝居で私がお客様に伝えれていたこともあったのだなぁ 見ていてくれたお客様もいたのだなぁと 報われた気持ちになりました
自分で勝手につけた所作やセリフを拾って解釈していただけることほど 私にとって嬉しいことはありませんでした
また 違う記事ですが 芸者の誠〜岩清水〜の琴路は私にとって 大切な役であると同時に難関な役でもありました 千夜座長の演じる静を さらに大きな器でつつみこむ それをお客様に伝えなければならない その通りに解釈していただけていたようで 安堵しています
もちろん 毎回できていたわけではないですし なによりもって私の演技力ではなく 私のセリフに対する千夜座長の演技力あっての解釈だと肝に命じております がそれでも座長の芝居の邪魔にはならなかったようで とてもとても嬉しく読ませていただきました

本当にありがとうございます
人数は減りましたが 物ともせずに千夜座長はさらなる高みを目指して 残ったメンバーと共に天華を登らせ続けています
また お時間があればどうぞ 天華の舞台に足を運んでいただきますよう よろしくお願いいたします
心からの 感謝と御礼を申し上げます
ありがとうございました

>沢村ゆう華様

お名前を見たとき、とても嬉しくて、私のほうこそ涙が出てしまいました(笑) お元気でいらっしゃるようで何よりです。
渡せなかったファンレターとして書いたブログたったので、ようやく届いたことが心から嬉しいです。

コメントで書いて下さった『芸者の誠~岩清水~』、静と琴路の場面は私にとって一種の“衝撃”でした。善悪をはっきりさせるため、主人公(静)に同情を集めるストーリー展開になっているのだろうなと思い込んでいました。ところが恋敵である琴路は温かく静を包み込む…。
座長とゆう華さんお二人の、あの場面があったからこそ劇団天華にハマったのだと思います。

ゆう華さんが劇団にいらっしゃるとき、そのお芝居をいつも楽しみにしていました。とりわけ思い出深いのは『お銀片割れ月夜』のラストシーンでしょうか。座長演じるお銀ちゃんの後ろで、ゆう華さんがお銀ちゃんの独白をじっと聞き、憐れむように見つめている表情が忘れがたいです。まるで悲しみに寄り添っているようで、結末に救いを感じられました。

座長お誕生日公演の『雪之丞変化』では痛々しいほど一途な浪路に感情移入させられたり、『呪いの千曲川』では立ち役が観られたり……思い出は尽きません。

大きな役でなくても、派手なヤマ上げをしなくても。役者さんのささやかな演技こそが、客席に物語を届けてくれるのだと思います。
ゆう華さんに見せていただいた、たくさんの素敵な場面はずっと心にとっておきます。
「沢村ゆう華」はいつまでも、大好きな女優さんの一人です。

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