2016舞踊ベスト5 ―人生の玉手箱―

今日はどんな舞踊に出会えるだろう? もしや、人生をドッカンと揺るがしてくれるような一曲があるかもしれない。大衆演劇ファン5年目の今年も、舞踊ショーが始まるときは、やっぱり期待しながらカメラを構えていた。
格別に心に残ったのは、曲の持つ物語と、役者さんの生き様が、互いに響きあう5本。

★たつみ演劇BOX・辰己小龍さん『夢やぶれて』(2016.1.10 夜の部@三吉演芸場)

夢は帰らない――
2015年10月のお誕生日公演で初披露だったという、小龍ワールドの傑作。初演を観た友人が感動をブログに書き記していたので、私も早く観たい!と思っていた。だから三吉演芸場に『夢やぶれて』のイントロが流れ出したときは、き、来たぁ!と興奮しきり。


“私は夢みた 希望高く生きて 愛はいつまでも 神に許されると”
曲の序盤は笑顔いっぱい。愛に満たされた幸せな女が、くるくるピンクの着物を翻らせる。
でも幸福は、突然打ち砕かれる。

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“夏あの人来て 喜びあふれた 私抱いたけど 秋にはもういない”
恐れ。喪失。絶望。愕然と自身を見下ろす女は、道が崩れていく音をなすすべもなく聞く。

“待ち続けてるわ あの人の帰りを”
小龍さんの小さな身体が舞台に倒れ、悲しみの底を這う。

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“夢見た人生 今地獄に落ちて”
やがてピンクの華やかな着物は真っ黒に変わり、赤い傷跡だけが残る。

小龍さんいわく、この曲は娼婦のイメージなのだと。最初は高級な娼婦だったものが、一人の人を愛してしまったために、年老いて傷ついて、娼婦でも生きられない最低のところに落ちてしまう…そんな物語なのだそうだ。
ということは、彼女の絶望は直接的には恋人を失ったことなのかな…? けれどその向こうに、“何かにやぶれること”そのものの心象が広がっている。震える指先や、夢の残骸を追って駆け出す足にまとわりつく、もう帰らない私、もう戻らない日々――

『夢やぶれて』は喪失に終わる物語だけど、演者のほうは希望いっぱいだ。2016年、小龍さんはさらに積極的にご自身を打ち出してくれるようになった気がする。11月の梅田呉服座公演ではついに小龍dayが実現したり、ブログを始められたり。
2人の弟座長の傍らで、女優さんは。絶え間なく生まれる何かを握りしめて、また新しい扉を開いていく。


★三河家諒さん『浜唄』(2016.3.20 昼の部@梅田呉服座)

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恋川純弥さんの1か月座長公演での一幕。三河家諒さんは舞踊ショーの最後の登場だった。彼女の後ろ姿が現れた瞬間、観客がわっ…!と沸いたのが忘れられない。この人の凄さに多くの人が期待していた。
“待ってました!”
大きな拍手は、そう言っているよう。お人形のような精微な姿が、くるりと振り返った。満員の客席を見渡して、諒さんはニカーッと笑った。
“お待たせしました、私が三河家諒や!”
気風の良い、いたずらっぽいまなざしで両腕を開く。客席を包み込むように。

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踊り始めた『浜唄』は、凛然としていた。
“朝だ船出だ 錨を上げろ 沖じゃ秋刀魚が待っている”
勇ましい漁師たちの姿を描き出しながら、飄々と楽しげに舞う。見れば、諒さんの足元は裸足だ。踏みしめられるのは浜の砂。磯の香りが漂ってくるようだ。

“陸で手を振る恋女房に 照れて笑って 綱を巻く”
男の中に女ひとり。稀有な才を磨き続けてきたこの方は、女。
大衆演劇の世界で、ショーのトリを務め、お客さんから“待たれる”存在になるまで。この女優さんはどれほど一人で走ってきたのだろう。

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パチっと打ち鳴らされる手。浜の女房らしく、小気味よく。
“二千年 二万年 浜じゃこうして 浜じゃこうして 生きてきた”
女はこうして生きてきた。
三河家諒は、生きてきた。


★劇団炎舞・橘炎鷹座長『花道ひとり旅』(2016.6.4 夜の部@浅草木馬館)

炎鷹さん、涙を流しながら踊っていらした。
浅草木馬館公演4日目、早くも座長出ずっぱりの『炎鷹まつり』。ぎっしりと埋まった客席に、ひとつの役者人生がぶつかってきた。

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“楽屋で産まれて舞台で育ち いつか覚えた立ち回り”
“(セリフ) 五つで初舞台。色んな舞台を回ってきました。
東京、横浜、大阪、広島、九州。そして今日皆さま方と、本当にありがとうございました。”


私が炎鷹さんを初めて観たのは3年前。芝居でのセリフ回しや、呼吸や、姿の整い方は、大衆演劇にわかファンだった私にも、肌感覚で巧さを飲み込ませるような芸だった。まなこには気迫が走っていて、聞いていた通りの天才だった。

再会はそれから2年後、2015年秋の関東公演。
驚いた。こんなに温かい舞台を見せてくれる役者さんだったのか…。
技巧はそのまま、けれど記憶よりずっと情に満ちた芝居ぶり。まあるい輪郭に笑みを乗せて、愛情いっぱいに客席を見つめる。
この間、舞台裏でどんな苦労があったのだろう。劇団メンバーもずいぶん入れ替わったようだ。もしかすると、辛いこと、うつむかなければいけないこともたくさんあって。痛みの中で、天才の芸はゆっくり変わって、優しくひらく花になったのかもしれない。

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“役者の子供と馬鹿にされ 涙こらえた事もある”

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“俺はそれでも旅役者 夢を背負って 花道ひとり旅”

2016年、劇団炎舞の東京公演は予想以上の客入りだったようで、篠原演芸場の千秋楽が一日延ばされるほどだった。2017年夏も浅草木馬館(7月)・篠原演芸場(8月)の公演が決まっている。


★劇団KAZUMA群舞『焼酎の唄』(2016.11.24 昼の部@三吉演芸場)

この歌に、こんな風景が作られるなんて。

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“飲んで飲んで飲んで焼酎”
“飲んで飲んで ほどよく飲んで”

定番曲の『焼酎の唄』。ノリが良くて歌詞がいかにも酔っ払い(笑)。大体の役者さんが立ちで、酒瓶持って踊られるかな? 単純に楽しい曲だと思っていた。
けど三吉演芸場のミニショートップ、幕が上がると、そこにあったのは小さな茶屋の風景。リズミカルに踊る千咲大介さん(中央)の後ろで、ほろ酔い気分の人々が酒を交わしている。

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吞み助っぽい男、その誘いをサラリとかわす小町、淡々と仕事する茶屋の男がいたり(左からひびき晃太さん・千咲凛笑さん・藤美真の助さん)

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酒瓶抱えて、退屈そうに煙管を吹かす男がいたり(龍美佑馬さん)。

のんきそうな人々の日常の中、軽快なメロディが転がっていく。
“飲んで飲んで 明るく飲んで”
“焼酎よ ありがとう”

定番曲がまったく新しく見えた。

Twitterで、大介さんのお誕生日公演の演目でしたよ!と教えてもらったので、送り出しで確認することに。大介さんに撮影した写真を見せながら、大介さんの発案なんですか?と伺ったら、「はい、そうです!」。風景っぽくてすごい驚いたんです!と興奮気味にお伝えすると、「そうですね、ちょっとお芝居っぽくしようかと」と頷かれていた。

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大介さんはこういうセンスがとても鋭い。劇団KAZUMAにこの役者さんが来てくれてから2年。「劇団千咲の座長です」。毎回、藤美一馬座長はメンバー紹介で大介さんをこう紹介する。いずれはご自分の劇団を再開させて、いなくなってしまう日が来たりするんだろうか…。
KAZUMAの舞台に新鮮な風を吹き込んでくれた、伸びやかな発想の持ち主だ。


★大川龍昇さん『新無法松の一生』(2016.1.16 夜の部@オーエス劇場)

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この舞踊を最後に持ってきたのは、5本の中でもベスト・オブ・ベストだから。2016年といわずこれから先も含めて、観劇ライフの財産をいただきました。大川龍昇さんの無法松。

“啖呵切るより手のほうが早い 無法松よと なじらばなじれ”

車夫の松五郎が、小さな頃から“ぼんぼん”と猫可愛がりしてきた少年。でも少年は成長するにつれ、松五郎の荒っぽい姿や無教養を恥ずかしがるようになる。外で自分をぼんぼんなんて呼ばないでくれと、学生服姿で嫌がる。

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“なしてぼんぼんに ぼんぼんちゅうたら いけんとな”
“なしてぼんぼんに 吉岡君とか吉岡殿って云わにゃいけんとな”


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“おいさんはのぉ ぼんぼんがごげゃん小まかぁとっから 育てちきたっとぞ”
節くれだった手で、子どもの頭を撫でる仕草をする。涙を浮かべて、なして、なしてと呼びかける。
嘘を知らない車夫は、子どもを全身でいとおしんだ。

太鼓の撥を腰に差し、手拭いを握りしめて、オーエス劇場の花道をよろよろ歩む。

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“そりゃぁ確かに ぼんぼんは大きゅうなった”
“ばってん幾つになっても おいさんからみたら ぼんぼんはやっぱり ぼんぼんばい”


個人舞踊の時間、ほぼ10分あったのではないだろうか。何かを背負っていらした。龍昇さん自身の長い役者人生の何か。あるいは、ほっそりとした身体にこだまする、世の片隅に捨てられていく者たちの呼び声。
今でもこの舞踊だけは、書きながら写真を眺め返していて、涙が出てくる。

大衆演劇の舞踊は、多くの場合、踊りとして完成しているわけじゃない。けれど一曲の中に、歌詞の心と、演者の息吹と、客席から吹き上がる熱気が全部ひとまとめに結晶している。
人生を映す舞踊ショーは、真剣に観るほどハッと宝の見い出せる、玉手箱のようです。

⇒≪2016芝居ベスト5≫も書きました

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