2016芝居ベスト5 ―空を仰いで―

炬燵でごろんごろんする年末を過ごしています。一年のうちこの時期だけは、役者さんたちもリラックスできるのでしょうか?
暑い日も寒い日も、台風の日も雪の日も、全国の劇場・センターで繰り広げられた熱演。一年間休みなく走り続けた、すべての役者さん・裏方さん・劇場スタッフさんに、「お疲れ様!」の拍手を送りつつ…
今年も、格別に忘れがたい5本の芝居を振り返ってみたい。

★まな美座「質屋の娘」(2016.4.21@メヌマラドン温泉ホテル)

まな美座は、大衆演劇界の中でも独自の道を歩んでいる一座だと思う。人数はごく少数(大人は5人だけ)、派手な照明や舞台装置はなし。けれど演者の存在感と深みのあるセリフで、芝居は十分に濃い。島崎寿恵座長・里見剣次郎さんらの舞台ポリシーが伝わってくる。


島崎寿恵座長

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里見剣次郎さんは寿恵座長の次男。Twitterでも面白い方です。

『質屋の娘』は頭の弱い娘・お福ちゃん(剣次郎さん)と、質屋を切り盛りする母(寿恵座長)の話だ。
振袖を揺らし、一人けんけんぱをして遊ぶお福ちゃんを、暖簾の隙間からそっと母がのぞいている。お福ちゃんの体はとうに大人になっているのに、頭は幼子のまま。この母娘の空間だけ、時間が止まったようだった。
「お福ちゃん、かわいいお福ちゃんは、どこですかー…?」
母は、いないいないばあのポーズをして呼びかける。このときの寿恵座長の笑顔に、にじんでいた感情は何だろう。愛しい、苦しい、一人では決して生きていけない我が子。

「お母様、お福の馬鹿を治して」
と泣くお福ちゃんを、母はしっかと抱く。
「私はもう、死ぬまでお前を放さないよ。お前が嫌だと言ったって放しやしないよ」
質屋の屋根の下、二人、絵のように寄り添っていた。
⇒当時の鑑賞録


★劇団KAZUMA 玄海竜二会頭ゲスト「赤尾の林蔵」(2016.6.25昼の部@オーエス劇場)

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玄海竜二会頭

玄海さんはどうしてこんなにカッコいいんだろう(拝みながら)。写真の『座頭市子守唄』、股旅姿で現れた瞬間に悲鳴が出ました。「キャー!」なんて音が私の喉にも搭載されていたのか…!

6月の劇団KAZUMAゲスト、みっちり埋まった客席は、『赤尾の林蔵』に飲み込まれた。大親分と崇められた林蔵親分の、最期のひとときのお話。
「俺の娘は、千代はどうしてる?」
18年間の島流しから帰ってきた林蔵(玄海会頭)の心にあるのは、娘・千代(千咲凛笑さん)のこと。
終盤のセリフのない数分間。腹を刺されて絶命寸前の林蔵は、汗と血に汚れてよろけながら、土産の着物を娘に着せる。
その体は老いた。弱って、何もかも失って、人生の栄華はとっくに過ぎた。
――それでも林蔵は幸福だった。
汗まみれの玄海さんがにっこりと凛笑さんに笑いかけた瞬間、オーエス劇場の前3列が、いっせいに泣き伏した。林蔵の笑顔に、生への歓びが深く吹き上がる。

終演後、藤美一馬座長が「もう今日は私もお客さんと一緒ですよ!泣けるし、感動するし…。うちの会長(6月時点ではまだ会長)はすごい!この人についてきてよかった!」と語っていらした。

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玄海さんが歌って一馬座長が踊る『484のブルース』。

劇団KAZUMA版の『赤尾の林蔵』は残念ながら未見。そっちも来年は当たりますように!
当時の鑑賞録1(柚姫将副座長中心)・2(玄海さん中心)

【劇団KAZUMA 公演予定】
1月 鈴成り座(大阪)
2月 八尾グランドホテル(大阪)


★劇団天華「峠の残雪」(2016.7.23@大江戸温泉ながやま)

もがれた体で、それでもお前を――
澤村千夜座長の口上いわく、「役者人生3本の指に入るくらい好きな芝居」だそう。悪党によって口のきけなくなった兄・新造(澤村千夜座長)と、目の見えなくなった弟・新吉(澤村神龍副座長)の話だ。

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澤村千夜座長

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澤村神龍副座長

雪の降り積もる中、千夜さん演じる新造は、弟の草履や杖を自らの肌で温める。が、懐に入れたそれらは凍傷になりそうな冷たさで、引きつった悲鳴が上がる。
「兄さん、どうかしたのかい?」
盲目の弟には兄の様子がわからない。兄は話せない。
冷たさと痛みに飛び跳ねる新造の姿は、ユーモラスで哀しい。何も持たぬ者が、なお他者を思う。この情愛が芝居の通奏低音として響いてくる。

『峠の残雪』は今年5回と、最も回数を観た芝居でもある。中でも7月のながやま公演では、千夜さんが慟哭する場面の激しさが忘れられない。舞台に叩きつけられる拳から、この役者さん独特の、痛覚にも似た激情が突き刺さるようだった。
この月、劇団天華はながやまの歴代大入り記録を更新した。
⇒当時の鑑賞録

【劇団天華 公演予定】
1月 池田呉服座(大阪)
2月 大江戸温泉物語あわら(福井)



★劇団新「俺は…太郎」(2016.8.28 昼の部@茂美の湯・もさく座)

今年、最もすがすがしい笑いをくれた芝居! 25歳・龍新座長の創ったオリジナル芝居だというのが驚き。特筆すべきは、前半に登場する“居酒屋の主人”(新座長)という強烈なキャラクター。

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龍新座長

「これ(刀)か? これはな、千歳飴だ」
肩にかついだ刀を揺らして、ニヒルにつぶやく。
小龍優さん演じる三太郎に、
「お前…何のためにここへ?」
とカッコよく尋ねるも。
「いや、酒飲みに来たんだけど…」
とまったくな回答を返される(笑)

彼の行動はよく見ると、大衆演劇によく出てくる“謎めいた男”キャラのパロディになっている。今まで見たことない様式性じゃないだろうか? 映画好きだという新さんが、新鮮な視点で切り込んでいるのがわかる。演者としても戯作者としても、来年もっと観たい役者さんだ。

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一方、新座長の弟・龍錦さんはピュアな持ち味。

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妹・小龍優さんの世界観も楽しい! 

10~12月の初の関西公演でも、関西の友人たちから劇団新を好きになったという声を聞いている。若き三兄妹から、新しい風が吹いていくのを感じる。
⇒当時の鑑賞録

【劇団新 公演予定】
1月 宇都宮ふくろうの湯(栃木)
2月 スパランドホテル内藤(山梨)



★橘小竜丸劇団「お島子守唄」(2016.10.29夜の部@立川けやき座)


信じていることがある。旅芝居には、各地の客席から吸収してきた、人々の喜怒哀楽がうずいていること。それが役者さんの熱とぶつかるとき、私たちの心の底に眠っているうめきが引きずり出されること。
“ごめんね”
『お島子守唄』は橘鈴丸座長のこの一言で、私の中に刻み込まれた。物語をはみ出した熱があった。

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橘鈴丸座長

夫の罪を被って島流しにされたお島(鈴丸座長)。10年の刑を終えて家に帰ってくると、幼かった娘・お美代(たちばな百花さん)は口がきけなくなっていた。さらに、後妻(たちばな佑季さん)にお美代は下女のように使われ、ひどい火傷を顔に負わせられていた。
お島は怒りに身体を震わせる。
「お美代の部屋は、あれはまるで物置小屋ではないですか…!これはどういうことですか、これは」

小さなお美代は何も恨まず、何も逆らわず、継母の暴力の前に倒れた。娘の身体を抱いて、お島は泣く。悲痛な喘ぎの中にしぼり出す音。
「ご…めん、ね…」
痛めつけられる弱者に、差し出しうる唯一のいたわり――私の耳にはそんな風に響いた。

鈴丸さんの滂沱の涙を流しての熱演もあったと思う。思えば、彼女の芝居には泣かされる率がかなり高い。ひたすら健気で、いつわりのない真摯さに心動かされてしまう。7月に観た『ヘチマの花』にもほろりときた。

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こんな独自の舞台衣装も、舞台への真剣さの表れだ。(そしてスタイルの良さ…お腹の引っ込み具合の美しいこと…)
【橘小竜丸劇団 公演予定】
1月 安田温泉 やすらぎ かわら座(新潟)
2月 つくばYOUワールド(茨城)


今年の観劇を振り返りながら5本を選んでみたら、自分の嗜好がすっごくわかりやすかった(^-^; 『俺は…太郎』はコメディタッチなので例外だけど、残り4本は全部、“弱いところへ落とされた者”の話だなぁと。
『質屋の娘』の頭の弱いお福ちゃん。『赤尾の林蔵』の老いた林蔵。『峠の残雪』の言葉を奪われた兄、視力を奪われた弟。『お島子守唄』の少女。
物語は時に私たちの現実を映している。底辺を生きる者の瞳は、大きな言葉に表れることなく、旅芝居にゆらゆら照らし出される。

でも、玄海さんの林蔵が死に際にニッコリ微笑むように。
大衆演劇はなぐさめだけじゃ終わらない。絶望の先、生きていくということの賛歌をたしかに歌ってくれる。
暗い沼の底から、なお空を仰いで。
生きていかなくては、あなたも私も。

今年も皆様一人一人にお世話になりました。同じ時代に大衆演劇ファンとして出会えることが、嬉しいです。
来年も一緒に舞台を見つめて、客席でお会いしましょう!

⇒≪2016舞踊ベスト5≫も書きました

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