劇団天華お芝居『お銀片割れ月夜』―澤村千夜座長の“痛み”―

2016.12.15 昼夜@後楽座

「触るな!」
痛い。

これでもかと繰り返し、針のように尖った悲嘆が突き刺さる。

お話の舞台は女郎宿。泊まり客の旅人・千太郎(澤村神龍副座長)と、宿の女将(澤村千夜座長)が話をしている。千太郎は浮き浮きした様子だ。
「花嫁衣裳って、一生に一度しか袖を通さねえんだ…だからこそお銀ちゃんには、一番良い花嫁衣裳を着てもらいてえ」
千太郎は今から、故郷の館林に帰る。20年前、将来を誓い合った“お銀ちゃん”を迎えに行くのだ。
「お前も女将なら着物の目利きくらいできるだろ?この着物が良いものかどうか、ちょって見てくれよ」
白い花嫁衣裳を嬉しそうに広げて、鑑定を頼む千太郎。けれど女将が着物に触ろうとすると、触るな!と慌てて止める。
「お前が触ったらくせえだろ?匂い袋ぷんぷんさせて…」
「…触らないと、わからないんですけど…」
「あー、そうか…じゃあ、せめて手を拭いてくれよ…」
渡された手拭いを受け取る女将は、うつむいている。千太郎は気づかない。今、くさいと罵った女将が、お銀のすっかり変わった姿なのだということに――

“かつての私”はもういない――ファンの方のブログなどで『お銀片割れ月夜』のあらすじを知ったときから、ずっとこの芝居が気になっていた。
なので、後楽座で12/15(木)にこの芝居がかかると知った瞬間、夜行バスを取って岡山まで行ってきた。ええ、後悔はしていませんとも! こんな生活してたら…財布は…ビックリするくらい軽くても…(滝汗)

澤村千夜座長(2016/12/15)

お銀役の千夜さん。キツそうにも優しげにも見える女形の顔立ち。

澤村神龍副座長(2016/12/15)
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千太郎役の神龍さん。子どもの頃の結婚の約束を20年信じているという設定はかなりぶっ飛んでいると思うのだけど、神龍さんのまっすぐピュアな持ち味が説得力になっていた。

この芝居についてTwitterで書いていたら、天華ファンの方が「千夜さん演じるお銀ちゃん、私も大好きです!」とリプして下さって、芝居トークができた(^^) あとでやり取りを読み返したら、その方も私もお銀“ちゃん”って呼んでいた。ヒロイン、“ちゃん”付けしたくなる、可愛くて口やかましい女将さんなのだ。

冒頭シーン、亭主である藤助(澤村丞弥さん)を、「藤助!アンタまた外で駄ボラ吹いてきたんだろ!」と耳引っ張って怒鳴りつけるくらい、気が強くって。

客の千太郎に、「女将っていうのは髪を結い上げてるもんなのにそれもしないで、派手だか地味だかわかんねえ着物着て、匂い袋ぷんぷんさせて男を誘ってやがる」と揶揄されてムッツリ黙り込むように、かなりケバめの出で立ちで。

お銀への酌を嫌がる千太郎に「ならけっこう」と膳を片付けてしまい、千太郎がしぶしぶ酌してやると、「ありがと♡はい、ご返杯」とニッコリ返す愛嬌もある。←ここのお銀ちゃん、ほんと可愛い…!

芝居の場面のほとんどは、お銀と千太郎が飲み交わす場面だ。
「俺を待ってる女っていうのはな、髪は烏の濡れ羽色、眉は三谷の三日月眉、鼻筋通っておちょぼ口…」
千太郎はイキイキした目で語る。幼い頃“お嫁に行かないで待ってる”と約束した少女のこと。
「名前もそんじょそこらの名前とは響きが違うんだ。お銀ちゃん、っていうんだ」
彼が幼馴染だと気が付いたお銀は、喜びの声を上げる。
「あんた――千ちゃん?!」
なつかしくって、嬉しくって、お銀の横顔は少女みたいにパッと輝く。

けれど、返ってきたのは怒鳴り声。
「馬鹿野郎!口のきき方に気をつけろい!俺は仮にも客だぞ?それをなれなれしく千ちゃんてぇのはなんだ!」
激昂する千太郎は、記憶の中の純真な少女と、目の前の女郎宿の女将が同じ人だなんて思いつきもしない。怒りの前に、お銀はひたすら頭を下げる。
「申し訳ありません。申し訳ありませんでした、ごめんなさい…」
泣きそうな顔で土下座するのは、自分が千太郎の思うお銀のままでいられなかったことへの謝罪だろうか…。

そのあとの展開は、ざりざり、砂が傷口に塗り込まれるようだ。
「くさいからあんまり触るなって言ってんだろ」
「お銀ちゃんはお前みたいなあばずれとは話が違う」
繰り返し罵る、かつての幼馴染。そこへ追い打ちをかけるようにある事件が起きて、ストーリーは思わぬ悲劇へと突き進んでいく…。
まるで高速のエスカレーターみたいな構成だ。幕が開いたときは、穏やかな宿の風景から始まる。けれど芝居が進むにつれ、悲しみがどんどん膨らんでいく。
「なんで、今更あたしの前に現れたんだい!」
選べない人生を生きてきた“今の私”に、“かつての私”が過去から投げつけられて、お銀の心は極限にぶつかる。

千夜さんの演技のテイストと重なるな、と思う。彼の芝居は、抑えのきかない情が型を破って、あのキツイような優しいような目元からほとばしっていく感じだ。
ラスト近く、泣き濡れたお銀が千太郎の体に打ち伏して、しぼり出す慟哭。
「あたしもう、どうしたらいいかわからないよ…千ちゃん…!」
きりきり尖った熱がドッとこちらに放たれる。体の中の傷つきやすい部分に染みる。

思えば『花かんざし』も定番のお外題ながら、天華版のはだいぶ絶望感が深くてヒリヒリ残った…。この生々しさはおそらく、劇団天華が核に持っている要素の一つなのじゃないかな?

『お銀片割れ月夜』終演後の、千夜さん口上。
「かっこよく踊る舞踊ショーの人気が高まってきているようですが、私は役者の本分はやはりお芝居だと思います。お芝居は良いですよ、深く見れば見るほど楽しい」
ええと、この発言がTwitterなら「いいね」×500くらい付けたい(発想がツイ廃)。

いずれの劇団さんでも…金銭的・労力的に、舞踊ショーに必要なコストは一昔前よりずっと膨らんでいるだろう。芝居の脚本を書く人手も、道具も、打ち合わせの時間も十分にない。そういった環境でも多くの座長さんが、やはり芝居を…とそれぞれ想像もつかない苦労をされている。

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(2016/12/18 千夜祭りからの一枚)

一人の座長さんが芝居への誠実さを持ち続けてくれるということは、客席の幸福だ。

「旅人さんにこんなに想われて、そのお銀という人は、三国一の幸せ者だねえ…」
お銀が涙こらえて唄うようにつぶやく場面、その目はどこを見ているのだろう。
故郷の館林で、“叶わなかった私”が幼馴染を待っている。
きりきりヒリヒリ、夢が痛む。

【劇団天華 今後の予定】
1月 池田呉服座(大阪)
2月 大江戸温泉物語あわら(福井)
3月 奥道後壱湯の守(愛媛)
4月 宝劇場(福岡)
5月 城山温泉(香川)
6月 大江戸温泉物語ながやま(石川)

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