劇団KAZUMAお芝居『身代わり半次郎』―柚姫将副座長の“やさしさ”―

2016.12.14夜の部@三吉演芸場

“やさしい”。
…って言葉はむつかしい。
人に親切に振舞うのがやさしさかと思えば、いやそっとしておくのが本当のやさしさだと言われる。
真実を言い当てるのがやさしさのときもあれば、騙し通すのがやさしさの場合もある。

色んな意味を踏まえた上で。
「半次郎さん、しばらくお名前、お借りいたします」
柚姫将副座長主演の『身代わり半次郎』は、私が観たことのある芝居の中で、最もやさしい物語の一つである。

千秋楽前日の夜の部が、行ける最後の日だった。11月からの三吉通いを、この芝居で締めくくれたことは本当にラッキー!

柚姫将副座長(2016/12/14)


話のキーワードは、外題にもある“身代わり”だ。将さんが演じる主人公の名前は源太。けれど、芝居中、この名前はほとんど呼ばれない。代わりに、繰り返しこう呼ばれる。
「半次郎!半次郎が帰ってきたか!」
目の見えない父親(龍美佑馬さん)は、源太を出奔していた息子の半次郎だと思い込み、欣喜雀躍する。「あ、いや」と源太が否定しても時遅し。
「かあさんの仏壇にもみんなで手を合わせよう、半次郎が帰ってきたんじゃ!」
大喜びの父親の耳には、もう源太の声は届かない。

一人きりになった部屋で、源太は押し殺した声でうめく。
「俺は半次郎さんじゃあない、それどころか…先だっての笹川と飯岡の喧嘩出入りで、半次郎さんをこの手にかけた、信州小諸の源太!」
死にゆく半次郎から遺髪と手紙を託され、源太は自分が殺した男の実家に来たのだった。それが思わぬ誤解を受けた。
罪の意識から出ていこうかと葛藤するものの、老いた父親があんなにも喜んでいるのを見捨てて行けない…。
「ひと月、数日、もしかして今日一日限りかもわからねえが―」
源太は身代わりの“半次郎”になることを決意する。家の奥から父親が呼ぶ。
「半次郎、はよう来んかい!」
「わかった、すぐ行くよ!(一呼吸置いて)“とっつぁん”、すぐ行くよ!」

偽りの父子関係。目の前の老いた人を放っておけない、という気持ちだけで成り立っているもろい関係。物語のこの動機部分が、まず切に胸を衝く。

そして、観ていてとても幸せに思うのは。芝居の要所要所に、将さんの演者としての色々な性質が引き出されていること。
たとえば、偶然助けた娘(千咲凛笑さん)に、「命の恩人を家に連れて行かなかったら、おらがとっつぁんに叱られてしまう」と言われる場面。源太は目を丸くして、
「叱られる?…お前さんみたいな若え娘さんが叱られりゃあ可哀そうだ、わかったよ、案内しておくれ」
どこか輪郭の丸い物言いに現れる、愛嬌と温かみ。

それから、家の中で一人葛藤する場面。本物の半次郎ではないからと、荷物を抱えて家を出ていこうとしては、父親の声に呼び止められる。どうしよう…と眉を寄せて惑う表情の、慈愛の深さ。

終盤、本物の半次郎の兄貴分・浅間の喜太郎(藤美一馬座長)と対峙して、死を覚悟する場面も印象的だ。大きな目をぴったり閉じて、パシッと手を握り合わせ、正面から客席を向いた姿の清々しさ…。

などなど各場面に加えて、「茶店が一軒しかない」田舎の村という舞台設定がまた良い。将さんはハッキリしたお顔立ちながら、どことなく牧歌的なふるさとの情景を漂わせている気がして、芝居の農村の景色が演者に馴染む。

なんだか、手放しで絶賛みたいになってしまった(汗) もちろん、どの役者さんにもこれぞという長所もあれば、その反面として苦手分野もあるだろう。
けれど私が思うのは、長所の部分をすくい上げ、引き伸ばして客席に提示しうる“役との出会い”が存在するということだ。

「とっつぁん、親孝行の手始めに、俺が肩揉んでやるよ」
スポットライトに照らし出される、肩を揉む源太と、“半次郎”の手に心地よさそうに目を閉じる父親の姿。他愛無い会話が続く。
「半次郎、お前には決まった人はおらんのか」
「俺はまだまだ半人前だ、いい人なんかいねえよ」
「そうか、じゃがはよう嫁さんをもろうて、わしに孫を抱かせてくれ。とっつぁんはいつまで生きとるかわからんからなぁ」
赤の他人同士の、けれど限りなく温かい親子の姿。
信州小諸の源太=身代わり半次郎。慈しみをたっぷり持った柚姫将さんという役者さんが、この役に出会えて良かった。

(2016/12/14)
CIMG6523.jpg

具体的なエンド(源太と父親がどうなるか、偽りはバレてしまうのか)は、未見の方もいらっしゃると思うので書かないでおくけれど…
終盤、ひとつ心に留まった物語の仕掛けがある。源太が震え声で言うセリフ。
「親を知らねえ俺の身の上、親がいたなら、ああもしてやりてぇ、こうもしてやりてぇと思ってきたが…」
これまで、息子を亡くした父が息子の身代わりと暮らす物語として進んできた芝居が。実は、親を知らない男が代わりの親と出会う物語でもあったということが、さりげなく明かされる。
芝居はやさしさに始まり、やさしさに終わる。

感想は真面目に書いたけれど、股旅姿の源太が茶店の暖簾をぱさっとくぐって初登場する場面とかはうわああカッコいい―!と胸中悲鳴だった(笑)
私が『身代わり半次郎』を観るのは累計5回目。きっとこれからも何度も観る。将さんが歳を重ねるごとにカッコよく、より深く、より切れ味良くなっていく芝居だろう。そして、何十回の上演を経ても、変わらずそこにあるのは。
「“とっつぁん”、すぐ行くよ!」
役と演者がともに編み出す、他者を思う心。

【劇団KAZUMA 今後の予定】
1月 鈴成り座(大阪)
2月 八尾グランドホテル(大阪)

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