春陽座お芝居「大利根の兄妹」


2012.10.21@篠原演芸場
「大利根の兄妹」


写真・澤村心二代目座長(10/21舞踊ショーより)



このお芝居の主役のお兄ちゃんのキャラクター。
個人的にはすごく好きなんだけど、けっこう、何と言うか、

突き抜けてるというか…狂気じみてるというか…!

しかも明らかな変人ではないです。
しっかり者の兄で、ヤクザの用心棒で、「坪井の先生」なんて呼ばれてて、一見常識的で冷静な人に見える。
優しげな面差しの二代目座長・澤村心さんが演じるから、余計にそう見える。
でもお兄ちゃんは、その冷静な表情の下で一本頭のネジ外れたことをとことん真面目に考えている。
一番恐ろしいタイプじゃないですか。

最初から最後まで、お兄ちゃんのキャラクターに飲みこまれるように観てました。
いやぁすごい、春陽座…
すごい、心さん…

兄(澤村心座長)と、足が不自由な妹のお小夜(澤村かなさん)は二親を亡くし、二人きりで暮らしている。
今でこそ貧しさゆえに兄がヤクザの用心棒をして糊口を凌いでいるけど、元々は武家の生まれ。
兄の夢は妹を武家に嫁がせること。
それは両親の悲願でもあった。
だから雇い主のヤクザの親分(澤村新吾初代座長)にお小夜を望まれたとき、お兄ちゃんは断固として断るのだ。
申し訳ないが妹は必ず武家に嫁がせます、と。

そこまではいい。そこまではいいんだけど。
妹は足の問題があるから、貰い手もないだろう(実際はもっと強烈な言い方でした…)。
親分に言われて激高したお兄ちゃん。
白い顔を引きつらせて、刀を一瞬で抜いて、すぱあっと白刃が舞う。

斬っちゃった。

ええええ雇い主斬っちゃったよ!
初めての人殺し!しかも恩のある人を!
そのときはさすがに焦ってたけど、お兄ちゃんの動揺はすぐ終わります。

殺人の場面が終わり、幕が再び開き、場面は兄妹の家。
元の涼しげな表情で、どこか遠くを見つめながら考え事してる兄。
そのあまりにも冷徹な立ち姿に、このキャラクターの底の恐ろしさを見た気がしました。

好き合っているヤクザの三下・乙吉(滝川まことさん)と一緒になりたいという妹を叱るお兄ちゃん。
お前は父上様母上様のために、武家に嫁がなきゃならないのだと。
でも、繰り返しその言葉を聞いてるうち、なんとなくお兄ちゃんが妹を手放したくないだけのような気がしてきた。
というかこの人は、妹が好き過ぎて妹のことしか考えてなさそう。
だってお兄ちゃん自身、いい歳して結婚してないし…

と思ってたらこのセリフ。
「どうして俺が今まで独り身でいるかわかるか!俺が迎えた嫁がお前に辛く当たったら困るだろう!」
「あるいはお前がいつか嫁いで、もし足の事を理由に離縁されたとき、帰ってくる家に俺がいなければならないだろう!」
いや、おかしいよね。
お兄ちゃんの思考おかしいよね。
お嫁さんに妹が辛く当られること前提、離縁されること前提。
妹についての思考は心配性通り越してとことんネガティブ。
まっすぐに尖りすぎた想いは一種の狂気。

そして終盤近く、このお芝居の白眉がやってきます。
結局お兄ちゃんは乙吉とお小夜の駆け落ちを許す。
しかしその後(色々様々諸々事情はあるんだけど省いて)、乙吉はお小夜とはぐれ、ヤクザに襲われることになってしまう。

そこに颯爽と駆けつけるお兄ちゃん!
義理の弟となった乙吉を助け……ると思ったら!

すぱあっ、と再び白刃。
足を押さえる乙吉。

えっどういうことなの。
痛がる音吉に、淡々とお兄ちゃんは言うのです。
「お前はいつか、足の不自由なお小夜が嫌になるだろう。そうなったらお小夜を捨てて別の女に走ってしまうかもしれない」
「だが、お前も足が不自由なら、夫婦とも同じ条件だ。お小夜を捨てることもあるまい」

狂気です。
真っ直ぐ、真っ白な狂気です。
心を表すかのように、お兄ちゃんは冴え冴えと真っ白い着物。
足斬られちゃって、乙吉の人生どうなるの。
しかも夫婦二人とも足が不自由で、これから旅はどうするの。生活どうするの。
お小夜が捨てられなければ何でもいいの。
舞台ではお兄ちゃんがヤクザをバッタバッタ斬り、乙吉が「これは坪井の先生の情けで斬ってくれたんだ!」とかものすごいポジティブ解釈をしている間、私は客席で凍りついておりました。

そして乙吉とお小夜が無事再会し、旅に出たのを見届けた後、お兄ちゃんは二人を追うヤクザを足止めする。
多勢に無勢、刀に囲まれたお兄ちゃんは斬られながら死んでいく。
あの白い着物は白装束。
立ち回りに降り注ぐのは白い紙吹雪。
死を迎えながら、お兄ちゃんの目が虚空でカッと一点を結ぶ。

「お小夜~~~~っ!!」

お兄ちゃんの人生はその、けっこうな突き抜けっぷりでしたけど。
自分の気持ちを妹にも乙吉にも押しつけてたけど。
涼しい顔で恐ろしいことを散々してたけど。
でも、その狂気の分だけ、妹を想う気持ちは本物だったよね。

白い吹雪の中、白い着物で、真っ白な狂気のお兄ちゃんは死んでいく。
幕が閉まるまで、両眼を見開いて、ただ一点を見つめながら。
ただ一人、妹だけに注いだ人生の幕切れ。
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