劇団天華お芝居『鷺娘』―夢途絶えてなお―

2016.10.23 夜の部@梅田呉服座 (座長誕生日公演最終日)

それでも生きていかなくては。

「これは道成寺の花子、これは藤娘…まだ私のやったことのない役ばかり」
畳に並べられた、たくさんの絵。
いずれも役者・澤村千左衛門(澤村千夜座長)の姿絵。
「絵の中で、私が踊っているようです」
嬉しそうに一枚一枚を手に取る千左衛門を見て、絵を描いたご贔屓の若旦那(澤村丞弥さん)も満足げ。
若旦那が「ひとまず茶にしよう」と部屋を出る。
ついていく千左衛門は、名残惜しそうに後ろを向いて絵を眺める。一枚、一枚、自分の艶姿を見つめて、ようやく部屋を後にする。
天華さんの新作芝居『鷺娘』の、このさりげない場面がめっぽう好きで、あれは“心”の一瞬だったよなぁと思う。

澤村千夜座長(2016/10/23)


※新作なので後半の詳細は省いて書きますが、少しでもネタバレは嫌だなぁという方はご注意くださいね!

「天華って、なんかどっかチャラいイメージがあったんやけど…芝居始まったら、ちゃうやん!必死やん!って」
「そー!」
10月の梅田呉服座には、舞台以外の思い出もある。呉服座近くのドトールで、Twitterで知り合った天華ファンの方と、身を乗り出して盛り上がった。芝居を愛する、とても楽しい人だ。何より一緒に芝居語りができる人のいる嬉しさ!
呉服座公演が終わった後、お互いの「10月ベスト芝居」を言い合ったところ。二人とも全く同じ(!)2本を挙げた。
一本は10/2(日)の『峠の残雪』。このブログでも再三語ってきた、劇団の代表作であろう悲劇。
そんでもう一本が、千夜さんお誕生日のオリジナル芝居『鷺娘』だったのだ。

『鷺娘』冒頭のシーンが印象深い。雪降る中を、踊りの師匠・平十郎(澤村千夜座長)と、使用人の文七(澤村悠介さん)が歩いてくる。平十郎は片足を引きずっている。
「あれは…」
ふと気づく目線の先、舞台右手の橋の上。白い着物に身を包んだ娘が、身投げしようとしている。
「やめなさい!」
平十郎の声で振り返った娘は、旧知のお嬢さん・お徳(澤村神龍副座長)だった。逃げ出すお徳もまた、片足を引きずっている…。
“片足が不自由”という、おんなじ身体の欠損を抱えた人間が二人。この絵のインパクト!平十郎とお徳は、いったいどんな関係なのだろう?冒頭の場面で一気に引き込まれます。

澤村神龍副座長(2016/10/23)
CIMG4087.jpg

芝居の時間軸は過去へ。平十郎が踊りの師匠になる前、人気の女形役者・澤村千左衛門という名前だった頃の話。
丞弥さん演じるご贔屓の旦那は、千左衛門に色んな衣装を着せて、絵に描きたいと家に招く。
「若旦那の絵の達者さは、ご趣味の域ではありませんね」
「いや、お前の立ち姿は、何を着ても本当に美しい」
と二人とも楽しそう(記事の最初に挙げた、絵をながめる場面はここ)。

でも、仲睦まじい役者と贔屓の関係を、身を焼き切らんばかりの心で見ている者がひとり。それが若旦那の許嫁・お徳だった。生まれつき不自由な片足を引きずり、畳に残された千左衛門の絵を見つめて、苦しげに吐き出す。
「本当に、なんてきれいな立ち姿…。陣助さん(若旦那の名)だって、本当はこんな片輪と一緒にはなりたくないんだわ」
このままでは未来の夫の心を奪われてしまう――不安と嫉妬が、お徳を凶行に走らせます。
千左衛門に薬を飲ませて、その足をつぶさんと。
自分とそっくり同じ、“片輪”にと。

さてここまでは、“傷”の話。順風満帆だった役者人生が、悪意によってつぶされる話。
物語は、また現在へと戻り。今度は“傷”からの“回復”を語っていく。
叶わなかった夢は、絵の中に閉じ込めて。

後半は、ほぼ千夜さんの語りのシーンだ。
「役者の千左衛門はもう死んだんです。ここにいるのは、稽古屋の師匠・平十郎です」
踊りを習いたいと平十郎の下へやってきた、“ある客”に向けて。片足がきかなくなってからの、彼の生き方が語られる。
長セリフの全容は、再演時にぜひ生で聞いていただきたいのだけれど、いくつか響いた言葉を拾い上げると。
「片足が不自由になり、二度と舞台に立てないと知ったときの私は、暗闇の底に落ちたようなものでした。一筋の光も見えなかった…」
それでも。
「人は、生きることから、逃れることはできないんです」

人生が明るいときはいい。若き日、夢に向かって道が開けているときはいい。
でも、あるとき道は断たれる。
傷を負って、生きていくことが絶え間ない苦悶になっても、なお明日は来る。

「人は一人でも生きていくことはできます。でもそれはただ、生きているだけ。そんな人生に何の意味がありましょう」
「誰かと一緒に、笑い、泣き、怒り…」
呉服座の舞台に膝をつき、穏やかな語り口の千夜さんの声。

アクロバットとか日常的にされているので四十路とはちょっと思いがたいけれど、このお誕生日公演で43歳になられた。
とっても生意気な書き方になってしまうかもしれないけど。
二十代の頃なら、人生に対して、もっととんがったことを語られたかもしれないな。三十代の頃なら、傷ついた者に対して、こんなに温かなお芝居はされなかったかもしれないな…
「座長は今が、ええよなぁ」
ドトールで盛り上がっていたとき、彼女がニッコリと言った。

「人を癒すのも、また人なんです」
すみずみまで他者への親愛に満ちた、『鷺娘』の物語。

「今日のお芝居は、ぜひ今後もレパートリーに加えてくださいっ!」
送り出しで鼻息荒くお伝えしたのは、この一言(笑)
きっと演じられるたびに、余白が消えて、核の部分は足されて…回数を経て育っていくお芝居なんじゃないかな?と予感しているから。
たとえば彼が千左衛門から平十郎になる間にあった葛藤を、もっと深く見てみたい―なんて想像は尽きない。
再会を楽しみに。
それまでは白木のような、サッパリ出来立ての初演の記憶を、大切に持っていることにしましょう。

絵が畳に散らばっている。
「道成寺の花子、藤娘…」
役者が名残惜しげに振り返る。
かつての夢は絵の中に途絶えても。
“誰かと一緒に”
生きることはなお、喜びであると。

【劇団天華 今後の予定】
11月 四国健康村(香川)
12月 後楽座(岡山)
1月 池田呉服座(大阪)
2月 大江戸温泉物語あわら(福井)

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