劇団KAZUMAお芝居『赤尾の林蔵』・2―笑って最期―

2016.6.25昼の部@オーエス劇場

愛しい。哀しい。
オーエス劇場の舞台に、汗まみれの笑顔が浮かんでいる。
腹に刀を刺され、立つのもやっと、絶命寸前だ。
彼は赤尾の林蔵(玄海竜二会長)。ここら一帯の大親分だった。
18年の島送りの果てに、老いて弱くなった林蔵は。
今、最愛の娘・千代(千咲凛笑さん)を見つめながら、命尽きようとしている。

玄海竜二会長。
この役者さんの時代に間に合ってよかった、と思った無言のラスト10分間。

玄海竜二会長(2016/6/25)
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「昔、大会で観た会長の林蔵が忘れられなくて、今回お願いしたんです」
と口上で語った藤美一馬座長。
芝居は、林蔵が18年ぶりに赤尾に帰って来るところで始まる。熱い血潮を手足に封じこめたような股旅姿で、きりりとした玄海さん登場。
か、かっこいいいいい…!!

「今、この赤尾の土地を治めていなさる親分さんは、一体どなたでござんすか」
と茶屋の主人(龍美佑馬さん)に尋ねれば。
「ここら一帯、瓦屋の権蔵親分が占めてらっしゃいます。昔は、赤尾の林蔵親分という立派な親分さんがいたんですが、親分さんが島に流されてしまってから一家はバラバラになって、今はもう誰も残っていません」
と聞かされる。
それでもたった一人、林蔵を待っていた子分・宗太(柚姫将副座長)の小屋へ、林蔵は向かう。
(将さん演じる宗太の、温かいキャラクターについても前の記事で書きました)

林蔵と宗太のやり取りで、深く響いた箇所が2つ。
一つ目は、宗太が預かっていた林蔵の刀を差しだすシーン。
「お前、ずっと持っていたのか…叩き売れば、多少の金になったろうに。自分はこんな暮らしをしておきながら」
と目を丸くする林蔵。宗太は極貧の生活をしていたはずなのに。
「とんでもござんせん!親分の大切な守り刀、どうしてあっしがこいつを金なんかに替えることができるんですかい!」
晴れ晴れと答える宗太の忠義に、それまで張りつめていた林蔵の顔がふっと緩んで。
「ありがとう…」
愛しげにこぼれる笑顔。
まっすぐな子分の心を受けて、温水をかけられた砂がゆるゆる溶けていくようだ。
18年の厳しい島暮らしで、林蔵が温情にどれだけ飢えていたかわかる。
顔全体で笑み崩れる玄海さんの笑顔は、観客の心の線までくしゃりと崩してしまう。

そして二つ目は、その刀を受け取って腰に差そうとした林蔵が、重みによろけてドッと後ろに倒れ込むシーン。
よろよろと尻もちをつく姿を観たとき、あ!と初めて気が付いた造形があった。
――この林蔵は、老いているんだ。弱っているんだ。
『赤尾の林蔵』の林蔵といえば、任侠のカッコよさを体現したような人物だと思っていたけれど。
「親分!」
と慌てた宗太に助け起こされ、苦笑いする林蔵は、明らかに“老人”に近かった。
かつて大親分として恐れられたその身は、島暮らしで弱り果てて。弱った体を引きずって、それでも愛しい者たちの所へ帰って来たのだ。

今の林蔵の最大の望みは、島に流されてから産まれたと聞いた、娘に会うこと。
「子どもの名前は決めていたんだ。女の子が産まれたら、千代と」

だが林蔵が娘を迎えに清水港へ向かっている間に、宗太は瓦屋の親分(藤美真の助さん)に殺されてしまう。
「宗太!」
事切れた宗太を見つけ、駆け寄る林蔵。その周囲にもすでに瓦屋の連中が忍んでいた。
瓦屋の刀が、ぐさりと林蔵の腹に突き刺さった。
激痛に悶えながらも、林蔵は瓦屋を斬る。

シンと静まり返った舞台で、生きているのは林蔵一人。
腹に突き刺さった刀に手をかける。
ぐ、ぐ、と痛みに歯ぎしりする横顔。無数の汗粒が滴っていく。
荒い息を吐き出して、ガクガク震える手が刀を引き抜いた。

おぼつかない手で抱え上げるのは、娘に買ってきた土産。鮮やかなピンクの着物。
何度も取り落としそうになりながら、それを部屋の隅の壁に掛けようとする。なにか、尊いもののように。
今にも崩れ落ちそうな玄海さんの背中に、広がる憧憬。

「おとっつぁん!」
その場に飛び込んできた高い声の主は、千代(千咲凛笑さん)。警護役の小政(華原涼さん)、千代を預かっていた清水の次郎長親分(藤美一馬座長)が後ろから姿を現す。
「死んじゃ嫌!ようやく会えたのに!」
瀕死の父に縋りつく千代。
すると林蔵は、再びよろけながら歩き出し、着物を壁から外す。
千代は床にへたり込み、客席に背を向けた状態だ。娘の顔を正面から覗きこむ、林蔵の顔が客席に向かい合う。

脂汗を大量に額に浮かべて。
見えない血を床に滴らせて。
着物を、小さな千代の体にふわりと被せて。
――林蔵は幸福いっぱいに笑った。

“昔は、赤尾の林蔵親分という立派な親分さんがいたんです”
かつて、この男は大親分だった。子分も大勢いた。
栄華の時代を過ぎて。
今、林蔵はすっかり弱くなった。
たった一人の子分も失い、住まいもなく、ようやく娑婆に戻ってきた直後に、無残に斬られて死んでいこうとしている。

「おとっつあん!嫌!死んじゃ嫌!」
初めて会う娘を、老いた手に抱く。何もかも失った手に。
その笑みがほろほろと囁いている、生の歓び。

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男はたしかに、生きてきてよかった。

この後、林蔵は力尽き、最期まで一言も発さないまま死んでいく。
私はこの日2列目に座っていたのだけど、瀕死の玄海さんが凛ちゃんを見つめて笑み崩れた瞬間、オーエス劇場の前3列が一斉に決壊した。
前方の観客が、一人残らず泣いている光景というのを初めて見た…。

次郎長役の一馬座長は、玄海さんの演技を見つめながら目が潤んでいた。
幕が閉まった後、口上挨拶の第一声はこうだった。
「もう、今日は私もお客さんと一緒ですよ!かっこいいし、泣けるし…やっぱり会長はすごい!あの人についてきてよかった!」

どこかいとけない林蔵の笑顔が、いつまでも胸の奥でうなずいている。

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