劇団KAZUMAお芝居「紺屋高尾」―藍に咲く桜―

2016.3.21 夜の部@池田呉服座

一馬座長の頭の上に、桜が咲いていた。
「花魁、三月十五日をお待ち申し上げます」
泣き伏す頭の上、背景幕に描かれた桜の花が、その姿を包むみたいだった。

一馬座長演じる久蔵は藍染めの職人だ。
「花魁道中で一目見た高尾太夫を、どうしても忘れられなくて」
恋に惹かれて、夢に焦がれて。三年働きに働いて、十五両をためて、やっと高尾の客になることができた。
そうしたら、奇跡が。
「来年三月十五日、年季が開けたら、あちきをぬしの女房にしておくんなまし」
ありえない夢が、花が、この手に。

藤美一馬座長(芝居後の口上)


4ヶ月ぶりのKAZUMA!ツイッターで知り合ったお友達のお外題情報を元に、『紺屋高尾』の日をいそいそ予約。

このお芝居を観るのは2年ぶりなのだけど、とかく観た後の幸福感が高い。一馬座長の久蔵の一生懸命な恋心と、気持ちがひとつになってしまう。
高尾に会うため、三年死にもの狂いで働いて、ついに、
「親方、あの、私の十五両を出してください」
と紺屋の親方(龍美佑馬さん)にちょっと恥ずかしそうに言う場面や。
店への案内役の竹庵先生(冴刃竜也副座長)が、なかなか高尾のことを聞き出してくれないもんだから、
「あい、あい!」
って、まるで駄々っ子みたいにせかす場面。
座長の泣きそうな表情、柔らかな声、人物造形が実にキュート!

そんな久蔵の恋を見守るのが、佑馬さん演じる親方と、将さん演じる職人仲間。この二人の温かいこと!

龍美佑馬さん
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柚姫将副座長
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親方は久蔵の執念に呆れながら、恋に夢中になりすぎてないか?と常に心配げ。
「お前、三年も前の高尾のこと、忘れてなかったのか…」
一方、職人仲間は色々とアドバイスを寄越す。
「お前ひとりで吉原へ行ったって通しちゃくれないだろ…。そうだ!医者の竹庵先生なら、女郎買いの名人だって話だ」
二人そろって真剣に久蔵を案じ、本当に大丈夫か…?と顔を見合わせる。

みんなの後押しを受けて、ようやく辿り着いた高尾の座敷。しずしず出てきた大介さんの花魁姿は、お人形さんみたいな怜悧な美しさだった。

千咲大介座長
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2年前に観た将さんの高尾が情の厚さをにじませていたのに対し、大介さんの高尾はクールビューティー。まさに高嶺の花という感じの造形が、物語を際立たせる。
最初は金持ちのフリをしていた久蔵は、やがて正直に自分は職人ですと打ち明ける。そして泣き声混じりに吐露する。
「三年経ったらまた来ます。金をためて来ます」
「だが、今は全盛と謳われた高尾太夫だ、いつまでもここにいてくれるとも限らねえ。三年の間に、身受けされてどこかのお囲い者になるかもしれねえ」
「それでも、この広い江戸の空の下、花魁がどこかで暮らしている―そう思うだけで俺は幸せです」

幸せ…
欲しいものが手に入ったから幸せ、というのでなく。
この手から、いくら遠くにあっても。
高尾が同じ世に生きていてくれる。一番尊い、愛しい人が同じ空の下に在ってくれる。
ぐすっと鼻をすすりながらの、一馬座長のセリフに詰まっていたのは。
希望を見上げてなんとか日々を生きていく、市井の人のかすかな夢だった。

『紺屋高尾』は十八世紀初期の実話に基づいているそうだ。そこから古典落語・浪曲が生まれ、広く愛されてきた。
昔の人々も夢見たろうなぁ。藍染め職人の叶えた恋の話を、我がごとのように嬉しがって、口々に語り合ったろうな。
こんなしがない人生にも、希望が笑むことがあるのだ―
人々が久蔵と一体となった喜びが、『紺屋高尾』という物語を現代まで伝えてきたように思えてならない。

「江戸のどこかで、たまたま俺と出会ったとき、どうか知らん顔して通り過ぎたりしないでください」
「“久さん、元気?”と一言、その一言だけでいいんです、どうか声をかけてください」
半ば祈るような、必死な口調の久蔵。その顔を見つめ、シャンと美しい横顔で高尾が言う。
「ぬしの正直に惚れんした。どうかあちきをぬしの女房にしておくんなまし」
「…へっ?」
ああ絶対、昔の人も嬉しかったろう!一馬座長がすっとんきょうな声を出したとき、池田呉服座に温かいものが満ちた。
よかったね、本当によかった、そんなやさしい喜びの言葉が、客席から舞台にたしかに送られていたと思う。

いざ高尾が紺屋に嫁いで来たとき、久蔵と同じくらい“感無量”みたいな表情をしている親方と仲間が微笑ましい(笑)。舞台端から見守る、佑馬さんと将さんの感慨深げなまなざしが、場面をずっと味わい深くする。
それぞれの役者さんが、それぞれの役で、立ち位置で、一つのお芝居に向き合う。当たり前のことみたいに全員がそれをする、劇団KAZUMAの芝居。だから彼らの芝居は、温度をもって胸の奥まで入ってくるんだろう。

高尾が嫁いでくる直前の場面で、将さんが一人で掃除をしているのだけど、その掃除っぷりがやたらとキレが良い(笑)
元気いっぱいに床を掃きながら、
「毎日一生懸命働いてれば、なんか良いことあるってもんだ!」
って将さんが言うと、ホントに生きてりゃ良いこともあるって気がしてきます!

藍染めの手に、桜が舞い込む。
「久さん、元気?」
やっぱり、人生は生きるに値する。

三月十五日を過ぎて。
お芝居の中の紺屋にも、池田呉服座の背景幕にも、大阪にも、東京にも、桜が今を盛りと咲く。幸福そうに花開く。
季節はとうに――春!

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