拾い上げる目―劇団天華さんのお芝居に驚いた話―

2015.11.8昼の部「三人出世」@篠原演芸場
2015.11.8夜の部「芸者の誠は岩清水」@篠原演芸場


この方のアタマは、きっと深い、鋭い、強い。
…んじゃないかなぁ、多分。
お初の劇団天華さんで、澤村千夜座長の芝居を観て驚いた!
以前、他劇団のゲストで観たときは、華やかなお名前通り、キラキラ!ギラギラ!グリッター!な印象が強かったのだけど。
そのお芝居には、“敗者への眼差し”が食い込んでいたのだ。

澤村千夜座長(昼の部ミニショーより)


日曜日は篠原演芸場に用事があり、そのまま昼の部の天華さんを観ていこうと客席に向かうと。
何年も前から客席で親切にしてくれる方と、久々にバッタリ会うことができた。
「天華さん初めて?お芝居がなかなかいいのよ~」
芝居好きのこの方が言うのなら間違いあるまい!と期待して開幕を待つ。

お昼の芝居は『三人出世』。劇団KAZUMAと近江飛龍劇団で観たことのあるお芝居だった。
物語は、三人の幼馴染みが江戸に出る場面で始まる。
三年後、三人はそれぞれの道を歩んでいる。
友やん(澤村千夜座長)は目明かしになり、島やん(澤村丞弥さん)は金貸しになり。
そして定やん(澤村神龍副座長)は、世を騒がす泥棒に身を落とした。

お前なんで泥棒なんかになった!と、友やんは定やんを罵るけれど。
「なあ…俺が悪いんやないよな」
定やんの言葉に、胸がどきりとした。神龍さんは頼りなげに、俯き気味につぶやく。
「俺が仕事にありつけずにいたとき、誰が優しくしてくれた?江戸の町をさまよっとるとき、迎え入れてくれた家が一軒でもあったか?泥棒の親方は優しかった。あの人だけが、俺に優しくしてくれたんや…」
「俺が悪いんやない、世間の風が悪いんや!」
世の理不尽に対して、ひたひたと怒りのせり上がるような叫び。
神龍さんのセリフに引き込まれて、ぽろりと涙が出た。よくわかる痛みだった。誰も好きで身を落とすわけではない―無力ゆえに、大きな渦に翻弄されるだけの人生…。

しかし、千夜座長の友やんは幼馴染みにこう告げる。
「それは…間違ってるのとちゃうか?世の中には色んな人がおる。みんなそれぞれに苦労があって、お前一人にかまってられへんわ」
「目の見えない人も、手や足のない人もおるやろ。けど、みんなどうにかして働いとる。目の見えない人はあんまさんをやる。手のない人は荷を背負って飛脚をやる。足のない人はかんざし職人をやったり…」
「定やんは、目も手も足も全部揃うとるやないか。なのにどうして仕事につけんのや。世間のせいやない、お前が自分の弱さに負けただけや!」
泣きながら叫ぶ千夜座長に、客席中から喝采が起こった。

私はただビックリしていた。『三人出世』って、こんな風に広がるんだ…!
幼馴染みの友情を描いた人情噺だと思っていたのに。
目の前の舞台には、「社会」への広がりがあった。普遍性への眼差しがあった。
他の劇団では「ちょい間抜けな普通の男」レベルだった友やんが、だいぶ知恵遅れ気味に描出されていたのも、もしかしたら意図的なものなんだろうか?
(冒頭で友やんが「三年」という年数を数えられず、「三回お正月のお餅を食ったら三年だ」と定やんに教えられる印象的な場面があった)

「なんか、メッセージ性がかなり強くないですか?!」
終演後、興奮して隣の知人に話しかけると、
「うん、そうなのよ、お芝居を通して言いたいことがいっぱいあるんだと思う」
その言葉に、すっかり他のお芝居が気になりだして。
昼の部だけで帰るつもりが、急きょ夜の部までそのまま残ることに!
夜の芝居は『芸者の誠は岩清水』。千夜座長は女形で、芸者・しずの役だった。

澤村千夜座長(夜の部舞踊ショー「お梶」より)
CIMG2998.jpg

お芝居での千夜座長の芸者姿は、どこか“毒”が滲む風情がとても良かった。酸いも甘いも肌に吸わせて、輪郭に暗い何かが溜まっている感じ。

お芝居の序盤で、しずは生き別れた兄・孝造(澤村丞弥さん)と再会する。孝造は喜びもつかの間、妹を地面に突き飛ばす。
「しずか、この恥さらしめ!芸者のような卑しい身分になりおって!」
しずの本当の名はしずかといい、元々は武家の娘だった。けれど父と兄が家を出たきり帰らず、それを探して母としずかも旅に出た。だが旅の途中、母は病に倒れた。母の薬のため、お金が必要だった。
「幼い頃から三味だの踊りだの芸事しか教わらなかったこの身、他にどう立てる術がありましょう…」
しずかはやむを得ず芸者になった。母が亡くなった後も、もう道を引き返すことはできず、芸者として生きてきた。

そんなしずかが恋仲になったのが、武家の跡取りである一馬の若子様(澤村神龍副座長)。だが、いまや若子様に仕えていた孝造はこう告げる。
「しずか、諦めろ。若子様には家に帰れば許嫁がいるんだ。恨むならこの兄を恨め」
ここからお話は、身分違いの恋からしずかが身を引く・引かないという流れに。

―ラスト近くに凄まじい場面があった。
若子様を許嫁・琴路(沢村ゆう華さん)が迎えに来る。しずかと琴路、二人の女が対面する。

沢村ゆう華さん(昼の部ミニショーより。とっても愛らしい女優さんだった!)
CIMG2915.jpg

しずかはとうとう身を引く覚悟を決め、琴路に挨拶をする。凛然とした千夜座長の横顔。
「私は“尾のない女狐”でございます。これまで若子様の傍におりました。若子様を貴女様にお返しいたします。どうかこれから、若子様のことをよろしくお願い致します」
言っている胸中を思うと泣ける…しずかカッコイイ!
けれども。
琴路は、スッとしずかの前に膝をつく。
「初めまして、私は琴路と申します。これから先は貞女となって、一馬様に尽くして参ります。一馬様のことは、命に代えてもわたくしが守って参ります」
可憐で一生懸命なゆう華さんは、先ほどの千夜座長のどっしり肝の据わった姿と対象的だ。

語り終えた琴路は。
きゅっと優しく、しずかの手を握る。
ヒッ―と、しずかは刃物にでも突き刺されたかのように手をかばう。

ピンクの振袖に身を包んで、たおやかな物腰を見せるゆう華さん。琴路は大事に大事に育てられた、武家のお嬢様。憎いはずの泥棒猫の手をなにげなく優しく握れるくらい、健やかな心。
その清らかな美しさを目の当たりにして。清純な手に触れて。
――しずかは、わなわな震えながら自分の姿を見下ろす。自分の頭のかんざしに触れる。宴席に上がる芸者の着物に身を包み。頭には幾つものかんざしを挿して。美しいけれども、身のこなしには色街のあだっぽい艶が染みついている。

父と兄が家を出なければ。母が病に伏せなければ。
しずかは武家の娘だった。しずかは琴路であるはずだった。
“この身、他にどう立てる術がありましょう…”
どうしようもなかった。他に選べなかった。
その果てに、自分が永遠に失った幸福が、にっこり手を伸べてくる―

「ああああ―!」
しずかの喉から、抑えに抑えてきた悲鳴が上がる。恐ろしいものを見たように地に伏せる千夜座長。

…すごい芝居観ちゃった…というときの、しばし頭がボーっとする現象の中。
二つの芝居の底に、たしかな眼差しがあるような気がした。
好きでなったわけではない泥棒。他に道を選べなかった芸者。
世の中からつるつると滑り落ちていく者を見つめ、拾い上げる目。

澤村千夜座長。
大人になってから役者になった方だと聞く。長い下積みを経て座長になったと聞く。
一体その頭には、どんな世界が詰まっているんだろう…?

CIMG2984.jpg

澤村千夜座長。
一体どんな芝居をされるんだろう?
新しい風景が自分の前に開ける、高揚感。
なんかオラ、すっげえワクワクしてきたぞ!(DB世代)

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