貴女の時間―千咲凜笑さん(劇団千咲・劇団KAZUMA在籍中)―

もう、そろそろだ。
時計に目をやれば終演の12、3分前。

『百万本のバラ』のイントロが先走って聴こえてくる。
続いて、待っていた人が舞台に滑り出た。
熱を秘めたような赤に、黒レースの手袋が洒脱に映える。
―貧しい絵かきが 女優に恋をした―

劇団KAZUMA唯一の女優さん、千咲凜笑さん。
彼女の時間は、いつもラストショーの一つ手前。

千咲凜笑さん(2015/6/21 個人舞踊『百万本のバラ』)


KAZUMA三吉演芸場公演は、2年ぶりの関東だった。
なので、地元の友人たちと一緒にKAZUMAの舞台を楽しめたこと、感性鋭い彼女たちの評を聞けたことは、何よりの喜び。
「一馬座長ってホントに可愛い人ねー」とか「将さんはカッコいいのにカッコつけてないのが良い」とか「アドリブが多くても物語としての筋を崩してない」とか…
夜の部を観終えて、22時を回った電車の中、延々感想を語った帰り道の楽しさ。
腕利きの写真家である友人が撮ってくれた、将さんの美麗写真には悲鳴を上げた(笑)

そして彼女たちに大人気だったのが凜笑さん。
「ふわふわした笑顔が可愛い」「一生懸命なのが可愛い」「声が可愛い~!」

私自身、凜笑さんの個人舞踊を毎回楽しみにしている。
まず、見た目からしっかりと作りこんであるのだ。
必ず曲の世界観に合う着物。着物を引き立たせる髪飾り。
あどけなさの残るお顔に、曲ごとの感情を引き出しながら丁寧に踊ってくれる。

キラキラ光るベールにティアラ、エキゾチックなお姫様スタイルの『SAND BEIGE~砂漠へ~』。
頭に大きな花飾り、笑顔全開なのにどこか儚い『赤いスイートピー』。
哀しみを指折り数えた後で、“たかが別れじゃないの 泣いてることはない”と客席に微笑んでくれる『夜明け』。

送り出しで感想をお伝えしたいと思うこともしばしばなのだけど、残念ながら凜笑さんは最近なかなか出られない…。
三吉演芸場の千秋楽でようやくお会いできたときは、申し訳なさそうにこう言ってくれた。
「ごめんなさい~、普段はご飯の支度があって…」

あぁ…そうか。
大衆演劇の劇団で、女優さん一人ということの大変さ。
毎日、一人という現実の重さ。

昨年の夏。
凜笑さんは、劇団千咲から千咲大介座長と一緒に、劇団KAZUMAにいらした。
当時は“千咲菜野芭さん”というお名前だった。
近い九州の劇団とはいえ、お芝居のやり方なんかも大きく違うのだろう。セリフも入れ直しなのだろう。
実際、彼女が慣れない役を懸命にこなす姿を何度も観た。
しかし劇団で唯一の女優さんなので、ヒロイン役はほぼ全て回ってくる。
毎日、回ってくる。

昨年8月に遠征したとき、愛らしい女優さんは舞台にいなかった。
前売り券販売時、お客さんが座員さんにスイーツを渡しながら言うのが聞こえた。
「菜野芭ちゃんが倒れたって聞いたから、差し入れ。早く元気になってって、伝えてね」

一客である私には見えないことが山ほどあるだろう。
新しい環境、新しい芝居、新しいショー、新しいお客さん…現実の一つ一つに懸命に身を慣らしながら。
公演後も女優さんの仕事は終わらない。

けれど、舞台は。
彼女が魅せてくれる舞踊は、常々艶やかだ。
―百万本のバラの花を
あなたに あなたに あなたにあげる―

『百万本のバラ』のサビ、三吉演芸場の小さな花道に踊り出る。
黒レースに包まれた指先が、客席の一人一人をやさしく指す。
“あなたに”“あなたに”
お客に。
私に。
彼女が贈ってくれる夢。
女優さんは酔いを含んだ笑みを浮かべて、夢の中から目を開ける。
客席はバラの香ふくらむ世界に、とぷんと沈みこめる。

いつも艶やかに。
いつも手の込んだ衣装・鬘・髪飾り。
新しい芝居を覚えて、ご飯の支度をしながら。
毎日の現実と、毎日の夢。
客席に向けるふわふわの笑顔には、微塵の曇りもない。
「可愛いやろ。けど、芯は強い子や」
常連さんがつぶやいていた。

今年に入ってしばらく経った頃、“菜野芭さん”は名前を変えられた。
凜笑――凜と笑む、と。

藤美一馬座長の口上やインタビューには、大介さんと凜笑さんが来てくれたことへの感謝が繰り返し述べられている。
一ファンとしても、凜笑さんのいない劇団KAZUMAなんて、もう考えられない。
あの笑顔が舞台で花開くと、“凜ちゃ~ん!”と言いたくなってしまう。

(2015/6/28 『赤いスイートピー』より)


ラストショーの一つ前、私は期待しながら待つ。
この時間だけは、客席丸ごと貴女一人のもの。
役者・千咲凜笑の時間。

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