劇団KAZUMAお芝居「雪の夜の父」―2・柚姫将副座長―

2015.6.24 夜の部@三吉演芸場
(「雪の夜の父」―1・龍美佑馬さん・藤美一馬座長―はこちら)

ぎちぎちぎちぎち。
心を固く縛りつける、音が聞こえてくるようだ。
逼迫した井筒屋の財政、女房のご機嫌取り、父親の面倒。
あれこれ責任をしょいこんで、宗次郎(柚姫将副座長)の眉間のシワはいよいよ深い。
なのに宗次郎の登場シーン、認知症の父は、宗次郎を兄と呼び間違える。
「おお、宗太郎か」
ぴくっと将さんの眉が上がり、苛立ちを叩きつけんばかりに叫ぶ。
「私は宗次郎!あんな、借金作って出て行った兄さんと一緒にしないでくれ!」

柚姫将副座長(当日舞踊ショーより)


↑こんなに風吹く涼しさの男前なのに…(どこまでもファン)。
芝居では、終始怒鳴りまくっていた。
将さん演じる宗次郎は、ボケたお父さん(佑馬さん)の次男だ。
長男・宗太郎(一馬座長)が借金を残して家出した後、井筒屋を継いで、女房・お美沙(凜笑さん)をもらった。

「お美沙さんがな、ばーさんは死んだと言うんじゃ。そんなことあるわけないじゃろ」
「おっかさんは去年の暮れに死んだよ!」
「ばーさんが死んだって?なら、葬式を出さんと」
「葬式も出したよ!いい加減にしてくれよ!」
要領を得ないお父さんの言葉に、宗次郎はイライラと険呑に眉を寄せる。

お父さんの粗相がきっかけで、井筒屋への出資を断られた直後の怒りは凄まじい。
「どうしてくれるんだよ…!店に金を貸してもらえなくなったじゃないか!」
将さんの切れ長の目が、ぎろりと刺す。
「おとっつぁんが簡単にお金が作れるって言うんならね、明日の朝までに三両作ってもらうよ。もしできなかったそのときには、この家から出て行ってもらう!」
「何を言うんじゃ、この家はわしの家じゃないか」
「すでに井筒屋の主は私なんだ!この家はね、私とお美沙の家なんだよ!」
宗次郎の目はつり上がり、鼻息も荒く。
苛立ちまかせに、手が畳やら壁やらをはたく。

ようやく部屋を出て行きかけたと思ったら、襖のところで立ち止まる。
嫌悪に満ちたまなざしで父を振り返って、チッ…と心底忌々しそうに舌打ち。
「三両稼げなきゃ、出てってもらうよ!いいね、約束だからね!」
吠え面かくなよ、と言い返されれば。
怒りに尖る指先突きつけて、裏返った声で、
「何が吠え面かくなよだ、そりゃこっちのセリフだ、このクソジジイ!」

将さん、すっげえ…。
と思わず口に出しそうだった。
あの大きな目を剥いて、ガチギレのブチギレである。
人間、舞台の上であんなにキレられるもんなのか…(笑)

でも、やがて宗次郎の苦しさが観客に伝わってくる。
芝居のクライマックス、お父さんが涙混じりに子どもたちへの愛情を語る場面。
「子どもの頃、宗太郎は言うことを聞いて、親の手伝いもよくしてくれる子じゃった。一方、宗次郎はやんちゃ坊主で、親の言うことなんか聞きもしなかった。それが大人になると、宗太郎のほうが悪い友達と付き合いだして、博打に出かけるようになった」
肩膝抱えて、宗次郎はむっつりと父の言葉を聞いている。
「宗太郎がいなくなってから、わしらは大変じゃった。宗太郎の残していった借財を返さにゃならん。――すると、宗次郎が井筒屋を継ぐと言い出してくれた」

佑馬さんが泣き伏しながら絞り出す。
「言うことを聞くからこの子は可愛いとか、言うことを聞かんから可愛くないとか、そんなことはありゃせん。どの子も可愛い!その可愛い子ども同士が兄弟喧嘩するのが、親には一番辛い…!」

佑馬さんの言葉を聞きながら、将さんの表情から、眉間のシワが少しずつなくなっていく。
宗次郎の心に張った怒りがほどけて、素朴な悲しみが現れていくのがわかった。

「私がバカだった…」
と、うなだれた将さんが胸の内を語り出す。
「兄さんがいなくなってから、私はおとっつぁんと、おっかさんと、お美沙と一緒に無我夢中で働いた…。兄さんの借金はなんとか返せた。そこまでは良かった」
抑揚の大きい声遣いが、観客を宗次郎の視点へ引き込んで行く。
「だけど、去年の暮れにおっかさんが死んでからだ。おとっつぁんは物忘れが酷くなって。夜中に大声を上げることだって、二度や三度じゃなかった…!ご飯を食べてすぐなのに、飯はまだかって。掃除をすれば、きれいになったところをまだ汚れとるって…」

我慢したんだろうなぁ。
お店はお金を借りなければ立ちゆかない状況だし。
女房のお美沙は新しい着物やら髪挿しやらをねだるし。
お父さんは夜中に騒ぐし、日に何度もご飯って言うし。
かつてのやんちゃ坊主は、ぎちぎちに縛られて、顔つきは険しくなって。
でもやらなきゃ、自分が店を継いだのだから。
全部捨てて出て行った兄の代わりに。
――けれど、お父さんは宗次郎の登場シーンでこう言った。
“おお、宗太郎か”

「なのに――おとっつぁんは私を兄さんと呼び間違える…!」

…このセリフが聞きたかったのだ。
3年前も心を穿ったこの一言を、この演者の声で、聞きたかったのだ。
父の目が、今必死に耐えている自分を素通りして、兄を見ている…。
小さな家の中で、毎日繰り返されてきたもがきが、いっぺんに放出する。

なんとなく将さんがご自分で考えたセリフっぽいなと勝手に想像していたら、ホントにそうだった。
「なんでお父さんをそこまで嫌うんだろう?って理由を考えて、あのセリフになったんですよ」
副座長はにこやかに教えてくれた。

芝居は、仲を修復した家族みんなで、お母さんの墓参りに行くところで終わる。
宗次郎がお父さんを背負う。
「おとっつぁんをおぶって行くのは、この宗次郎!」
劇中ずっと険しい顔だっただけに、この人物の晴れやかな笑顔はひときわ染みた。
宗次郎の背で、お父さんは目をぱちぱちさせて天を仰ぐ。
「なぁ母さんや、長生きはするもんじゃわい。こんなに良い息子たちと嫁に囲まれて。わしはまだまだ元気で長生きするからな…」

もちろん、現実はお芝居みたいにはいかない。
実際に認知症の家族を抱えているご家庭の苦労は、こんな大団円には、はるか遠いだろう。
(我が家にも一時嵐があったし)
でも、こうだったらいいな。
少しでもこんな風に救われたらいいな…。
一時代を生きている人々の、そんなささやかな祈りが。
“お芝居”というものの核に、こんこんと息づいているのじゃあないか。
だから、現実の苦しみを抱きとってくれる、優しい物語に身を浸したくなるのじゃないか…

この夜観た『雪の夜の父』は、長いこと私の心にしまっておけるだろう。
現実から見上げた、ひとさじの夢。
ああ、良い芝居だった!

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