劇団KAZUMAお芝居「雪の夜の父」―1・龍美佑馬さん・藤美一馬座長―

2015.6.24 夜の部@三吉演芸場

3年間、会いたかった芝居があった。

「お年寄りの介護とか認知症とかが、社会的に問題になってきた時代なので」
2012年8月。
篠原演芸場の口上で、藤美一馬座長は『雪の夜の父』についてそんな風に説明していた。
当時、大衆演劇歴2か月だった私のまっさらな頭に。
この芝居が強烈な印象を残したのは、人情の物語の裏側に、“現実”が貼りついていたからだった。

主役は、龍美佑馬さん演じる、かなり認知症気味のお父さん。
ご飯を食べた直後でも、
「おおい、そろそろ飯にしてくれ」
もう綺麗になっているところを何度も雑巾で拭いて、息子と嫁に説教する。
「お前たちに任せとったら、この家はあっという間に汚れてしまうわい」

――似た光景が我が家にもあったなあ。
そして客席を見回した。
何らかの形でこの“現実”を抱える家庭が、客席にいくつもあるだろう。
祖父母だったり親だったり兄弟姉妹だったり。
親しい人が老いの中にたくさんの記憶を落としていくのを、耐えてやり過ごしてきた人が、どれだけここに座っているだろう。
認知症になってから、顔つきの変わった祖母のことを思い出した。
だから芝居の優しい結末は、確かに私の現実にも救いだったのだ。

と、ここまでが3年前の話。
この芝居はずーっとかかっていなかった。
私がたまたま当たらないだけじゃなく、KAZUMAファンの方のブログでお外題をチェックしても、やってないみたい…。
だから三吉演芸場の貼り出しに『24日 雪の夜の父』と見たとき、どんなに感謝と喜びでいっぱいになったことか!
(佑馬さんに聞いたところ、まさに3年前の篠原公演以来だったそうな)

さてさて、感想も丁寧に書きたいところ。
まずは主役から。

龍美佑馬さん(当日個人舞踊「黒あげは」より)


佑馬さん演じるお父さんは、商家・井筒屋のご隠居。
昨年暮れに女房を亡くして以来、すっかりボケが進行してしまった。
家の中をウロウロしながら、嫁のお美沙(千咲凜笑さん)に訴える。
「わしはばーさんを探しとるんじゃ、ばーさんはどこじゃ」
「お父様、何をおっしゃってるんです、お母様は昨年暮れに亡くなったじゃありませんか」
「ばーさんが死んだ?はは、そんなわけないじゃろ」
ボケているという役のせいなのか、佑馬さんの口調はどこか子どものように柔らかい。

ある日、お父さんは大粗相をやらかす。
大事な来客である竹下さん(千咲大介座長)の膝に、お茶をぶちまけたのだ。
「何やってるんだこのクソジジイ!」
次男の宗次郎(柚姫将副座長)が、実の父親を罵るのを見て。
井筒屋にお金を貸してくれるはずだった竹下さんは、淡々と証文を破る。
「五両の話、なかったことにさせていただきたい。親孝行をしない人にお金を貸して、返ってきたことがないんでね」

この件がきっかけで、宗次郎の怒りが爆発する(実際悪いのは宗次郎だけど)。
「おとっつぁん、明日の朝までに三両作ってもらうよ。もしできなかったそのときには、この家から出て行ってもらう!」
お父さんは、しばしば目を瞬かせて金策を考える。
「そうじゃ、隠居してからばーさんと暇つぶしに作った、つじうらがあったわい。これを売って金を作ろう」
色々と抜け落ちたお父さんの頭は、素人の手作りのつじうらで、大金を稼げると思い込んでいる。

「そこのお方、どうかつじうら一つ、買ってやってくださいませんか」
つじうらを詰め込んだ大きな箱を首から下げて、寒風の町をさまよい歩く。
懐には亡き女房の位牌。
恍惚の父の上に、容赦なく雪が降ってくる。

お父さんの孤独が極まる場面は、たった一人でうどんを啜るシーン。
温かいうどんを無心に食べているうちに、雪のつもった佑馬さんの肩が震えだす。
残る正気が、ちゃんと理解しているのだ。
実の息子に追い出されかかっているみじめさ、情けなさ。

常々不思議なのは、老け役のとき、佑馬さんの大きな体がとても小さく見えること。
『雪の夜の父』のお父さんにはそれに加えて、ぼんやりした頭のせいなのか、無心さが瞬いていた。

そして、つじうらを売ろうとした一人の男に、お父さんの目が見開かれる。
「お前、宗太郎、宗太郎か」
家出して行方不明だった長男・宗太郎(藤美一馬座長)の里帰りだった。

藤美一馬座長(当日ミニショーより)


「おとっつぁん、堪忍しておくんなさい。昔、私が作ってしまった借財は、とても払える額じゃなかった。それを置いて家を出たんです。これまで何の親孝行もできず、申し訳ありません」
よどみない宗太郎のセリフを聞きながら思っていたのは。
座長、細いなぁ…。
いや、いつも細い方だけど、ここで言いたいのは、宗太郎という人物の輪郭がほっそりしていたのだ。
取り返しのつかない後悔や挫折を、内側にいつも意識している人間の儚さとでもいうのか。

宗太郎は借財を家族に押しつけて、家を飛び出した。
江戸へ出たはいいものの、バッタリと行き倒れ。
そこを紅屋という商家に拾われ、心を入れ替えて真面目に働いてきたという。

宗太郎は父に対してずっとこうべを垂れている。
親を見捨てて出ていったことに、何の言い訳も立たないのだから。
「私が親孝行できなかった代わりに、弟の宗次郎が親孝行してくれているんですね」
と言うまなざしも、どこか切ない。

一馬座長のたたずまいに、まつわる哀しさ。寂しさ。
あのとき、このお父さんを置いて出ていくべきではなかった…
そんな呟きが、体の内奥から漏れ聞こえる。

宗太郎の背に負われて、お父さんは嬉しそうに目を閉じる。
「おとっつぁん、軽くなりましたね…」
「歳をとるとな、人は誰でも軽くなるんじゃ」
どこか童心めいた佑馬さんと、元々の優しい持ち味に“後悔”という役のエッセンスが加わった一馬座長。
両者の姿が美しかった。

続きでは、将さん演じる宗次郎について語りたいだけ語りまくります。
……この日の将さんはとりわけ熱かった。

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