劇団KAZUMAお芝居「品川心中」

2015.6.13 昼の部@三吉演芸場

改めて、美人だと思う。
まっすぐな鼻筋、引き締まった真紅の唇。
輪郭の線は男性らしく太いけれど、ふっくらとした頬の赤みがやさしい。
きゅっとつり上がり気味の目が。
「金ちゃんって、どの金ちゃん?」
驚いたときには、きょとんと丸くなる。

柚姫将副座長の女形は、わき零れる情が美に転化されるようだ。

柚姫将副座長(当日舞踊ショーより)


『品川心中』は、2年前の東京公演のときに、新作芝居として紹介されていた。
落語がお好きな一馬座長の、『文七元結』や『らくだ』に続く落語ネタ。
…そのときは仕事で見逃して。
…その後2年、遠征してもタイミングが合わず見逃しっぱなしで。
ようやく、ようやく横浜で観れた。
将さん演じる、勝気であこぎなベテラン女郎「お染」を!

序盤に、お染の人となりが伝わるエッセンスがぎゅっと詰まっていた。
まず、幕が開くと、場は貸座敷・白木屋の一室。
観客の目に映る最初のお染は、畳に手をついて、くたりと体勢を崩している。
このポーズが、実に熟した艶めかしさだった。
ついた掌も畳に吸いついているような、この店の最奥部にまで張った根の深さがわかるような。
横の若い女郎(千咲凜笑さん)が、畳にちょこんと姿勢良く座っているあどけなさと、好対照だ。

若い女郎が楽しげに話しかける。
「今度の移り替え、姐さんなら、私なんかよりもっとすごい着物を用意されるんでしょうね。なんたってお染姐さんは、この白木屋の板頭ですもんね!」
お染は不機嫌丸出しに眉をひきつらせつつも、
「ああ、もちろんじゃないか」
と答えてみせる。
実際は、お金を出してくれる贔屓のアテがないのだ。
寄る年波には勝てず、若い子に人気を取られっぱなし。

店の旦那(千咲大介座長)も怪訝な顔で、
「お染、お前、本当に大丈夫なのかい。贔屓のお客さんに手紙を書いてお金を送ってもらうとか」
「あたしだってね、そりゃ書いてますよ。でも…」
「とにかくね、紋日前にはなんとかしておくれよ」
旦那の冷たい口調に、むかむかと怒りを抑えきれないお染。
「なんだいなんだい、あたしが板頭になってから、どれだけ稼がせてやったと思ってるんだい!」
一人になった部屋で、袖をぶんぶんと振って、旦那が出ていったほうへ文句をぶつける。
(ここ、大変、大変可愛かった…!)
不満全開のお染には、それでも底面に将さんの人なつっこさが出ていて、姿を優しく見せる。

お染としては、移り替えの日に用意がなくて恥をかくくらいなら、いっそ死んでしまいたい。
「もしあたしが男と心中したなら、誰もあたしがお金に困って死んだなんて思わないわよね」
さて、誰と心中しようか。
馴染み客の名を記した帳面をめくる。
口を尖らせながら、ぶつぶつ独り言。
「この人は奥さんもらったばかりだし…やめとこ。邪魔しちゃ悪いわ」
「この人は…お母さん病気だって言ってたわよね。う~ん…やめとこ」
ああ、お染ってこういう人なんだな…と一番伝わってきたのがこの場面。
自分の人生が危うい状況なのに、お客それぞれにも生活があることを忘れてないんだ。

海千山千の色街の女の内に、息づく確かな優しさ…
ってのは言い過ぎか。
馴染みの中で貸本屋の金蔵(藤美一馬座長)に目をつけて、
「やっぱり金ちゃんしかいないか…」
「金ちゃんならあたしに惚れてるし、バカでスケベで大食らいだし、いなくなっても誰も困らないわよね♪」
と言い放つんだから。

しかも、いざ心中せんと、金蔵が先に海に落ちた(というかお染に突き落とされた)タイミングで。
“八王子の客が紋日前の金を用意してくれた”という知らせが入る。
「ごめんね金ちゃん、あたし、死ななくてよくなったから。いつかあたしもそっちに行くから、それまで待っててね!」
おいおい、なんって自分勝手さだ…。

行動だけなぞったら、お染はひたすら利己的で残酷な女。
だけど将さんの醸し出す気持ちの良さが、お染の利己主義を、憎めない我が身可愛さレベルに見せてくれたのだと思う。

『紺屋高尾』での高尾太夫の名演を思い出す。
「ぬしの正直に惚れんした!」
将さんの高尾太夫は、歯を見せてパッと笑う。
ただ綺麗な花魁でなく、親しみに満ちた柔和なキャラクターに心をつかまれた。
高尾は清らかなヒロインで、お染は毒婦。
共通点は色街の女ってだけで、二人の人柄は正反対だ。
でもどちらも、将さんの女形芝居に特有の、生き生きとした人好きする感じに裏打ちされている。

「どう、綺麗?綺麗?」
だからこそ、金蔵を見殺しにした後のお染が、客に用意してもらった赤い着物に身を包んでケロリと現れたとき。
その無神経におののきつつも。
しょうがないなぁ、自分が可愛くって仕方ない女性なんだなぁ、うんうん綺麗だよ…と言いたくなってしまうのだ。

情の衣をくるくるまとって。
喜怒哀楽に、大きな目がぱちぱち瞬く。
柚姫将副座長の女形は、つくづく美人です。

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