劇団KAZUMAお芝居「天神の半五郎」

2015.6.4 夜の部@三吉演芸場

“上総の伍蔵”に、聞いてみたいことがある。
「何が、“実の子と分け隔てなく育てた”だ」
拾って育ててくれた親を恨み。
「俺がいないときに限って、お前の親は、お前たち兄弟にだけまんじゅう買ってやったり、飴舐めさせてやったり」
乳兄弟を妬み。
伍蔵役の佑馬さんの、恨みごとのセリフを聞きながら思う。
――貴方の人生は、そんなにも悪いものでしたか?

龍美佑馬さん(当日舞踊ショーより)


この芝居は、2014年11月の四国健康村以来。
そのときも、上総の伍蔵という人物の弱さ哀しさが、私の心に暗く食い込んだ。

伍蔵は、役人兼やくざだ。
乳兄弟の又五郎(柚姫将副座長)・半五郎(藤美一馬座長)を裏切って、悪名高い井草の菊蔵親分(冴刃竜也副座長)の子分に。
さらに権力を得んがため、十手持ちになった。
「二足のわらじってやつか…あいつらしいな」
半五郎が、伍蔵の近況を聞いてそうこぼすくらいだから。
昔から、権力になびく性格だったんだろうなと想像できる。

又五郎は井草の親分に捕えられ、散々に痛めつけられる。
二人きりになったとき、又五郎が伍蔵を諭す場面がある。
「お父とおっかあが、お前と俺たち兄弟とで分け隔てをしたことがあるか?おっかあの右の乳房を俺が吸い、左の乳房をお前が吸って…」
その言葉にこもった心に突き動かされたのか。
伍蔵は刀で又五郎を縛る縄を切ってやる。
そして両の手をついて、涙ながらに謝る。
「俺が悪かった…!この伍蔵を、どうか許してもらいたい…!」
太くヤマを上げて。
佑馬さんの大きな体躯が、舞台にこすりつけられる。

けれど、その直後。
“井草の親分を殺す”という又五郎の言葉を聞いて、伍蔵の顔色が変わる。
「俺は今から取って返して刀を取って来る、それまでここを足止めしておいてくれ」
「ああ、わかった」
と頷いた後。
伍蔵は、おもむろに腰の刀を抜いて。
又五郎を背後から刺し貫く。

「お前は、言っちゃいけねえことを言ったなぁ…井草の親分を殺すって?それだけはしちゃいけねえだろう…」
じっとりと地を舐めるような口調。
伍蔵は、子どもの頃から又五郎を妬んでいた。
彼が今つぶそうとしているのは、幼い頃から目の前にあった、腹の立つ顔、姿、声。

初めてこの芝居を観たときから、ずっと気になっていたこと。
今回、佑馬さんに送り出しで聞いてみた。

「一度、“俺が悪かった”って謝るじゃないですか。あのときは、本心から謝ってるんですか?」

手をついて涙ながらに謝罪しながら、伍蔵の心は、どこを向いているんだろう。
最初から、改心したフリで油断させて、又五郎を後ろからズブリとやってやろうという魂胆だったのか。
それとも、このときだけは本当に悪いと思っていたのだろうか。

「あれは本心から謝ってるんですよ」
演者の回答ははっきりしていた。
「でもその後、又五郎が“井草の親分を殺す”って言ったから、ああこりゃ駄目だと」
「今回は時間の関係でカットしたんですけど、本当はまだあの後セリフがあって。“子どもの頃からずっとお前を憎んできた”って。とにかく、又五郎が昔から嫌いで嫌いで仕方がないんですよ」

思い出すのは、舞台で天を仰いでカラカラ笑っていた伍蔵の姿。
「お前の親の葬式で、俺は顔では泣いていたが、心では笑っていたんだよ!俺を捨て子って目で見るやつが、また一人あの世に行ったってな!」
「こんなにおかしいことがあるか?そう思うと、坊主のお経もおかしくっておかしくって…」
その笑い声に憎悪をいぶして。

それでも。
彼の謝罪は、一瞬であれ本気だったという。
乳兄弟に申し訳なかったと、心から泣いたという。

何年も、何十年も一緒の家で育ってきたならば。
そこに、情がひとしずくもなかったなんてことがあるだろうか。
たとえ妬みで埋もれてしまったとしても。

心が覆った理由は、又五郎が井草の親分を殺せば、子分である伍蔵も力を失うということだから。
また無力な捨て子に戻るということだからか?

けれど伍蔵は又五郎の傍に膝をついて、一度誘っている。
「なぁ又五郎、悪いことは言わねえ、一緒に井草の親分の下で楽しくやろうぜ」
あれもきっと本心だったのじゃないかな、と私は思う。

一緒に遊んだ日もあったろう。
食卓を囲んだ日もあったろう。
幼い頃から知っている、顔、姿、声。
心の底に何のこごりもなかったなんてことが、あるだろうか。

芝居の中に描かれない、物語の堆積。
それは多分、私の勝手な思い入れだけど。
佑馬さんが、将さんの背後で刀を抜く。
その陰った目を見つめながら、尋ねずにいられない。
貴方の人生は、そんなに悪いものでしたか…?

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