橘劇団お芝居「森の石松 閻魔堂の最期」

2015.5.3 夜の部@三吉演芸場

閻魔堂の前で燃える。
体の燃える、命の燃える、立ち回り。
「てめえら、まとめて相手してやる―かかってきな!」
場面場面がキンと切れる。
ひらめく槍が、刀が、張りつめたいくつもの視線が。
互いに乱反射してぶつかり合って、切れ味がいい。

「親分―っ!」
槍に囲まれ、刀に囲まれ。
石松=大五郎さんの片目が、火の玉みたいに光る。

橘大五郎座長(当日舞踊ショーより)


橘さん、お帰りなさい!
昨年からずっと、待っていた5月の横浜公演。
その芝居をと、手を伸ばして待ち望んだ5月。

再会の芝居は、いきなり大作『森の石松 閻魔堂の最期』だった。
2014年、大五郎さんの27歳の誕生日公演で作られたお芝居だ。

この誕生日公演のDVD、我が家にあります。
昨年、初体験の橘さんにすっかりクラクラしたとき買ったものだ。
三十石船の江戸っ子(橘小次郎さん)と石松(大五郎さん)の「寿司食いねえ」の場面なんて、何回観たかわからないくらい観てる…。

でも、眼前で観ると全然違った。
なんと言っても、ラストの立ち回りの迫力。
「俺の悪口だけじゃなく、親分の悪口まで言いやがって…!」
怒りをこらえきれなくなった石松が、閻魔堂から飛び出してくる。
扉が弾かれて、怒気が仁王立ちする。
都鳥の子分たちをねめつける大五郎さんの右目が、舞台中央に浮き上がる。

そこから、長い長いチャンバラシーン。
体力的に大丈夫なの…?!って言いたくなるくらい続く…。
腹を槍で刺され、背を刀で斬られ、石松の体が止まる。
もう石松の命はおしまいか?と何度も思わせるんだけど。
大五郎さんが吠えるように叫んで、また舞台は動き出す。

しかも、なんと言うか、長いだけでなく立ち回りのセンスがいいのだ。
舞台の上には8人か9人いたろうか。
ギンと刀のぶつかる音、ドドッと前に回りこむ足音。
客席にいるだけで、たくさんの音が体に響いてくる。
子分役の座員さんたち、誰ひとり崩れない。
全体が制止に近いくらい止まりかけて、瞬時に早回しのように全員が動く。

散々、稽古したのだろうな。
相当、テンポを計算し抜いたのだろうな。

刺され、斬られ、石松はまだ死なない。
ついに倒れこんでも、執念で腕だけ動く。
「こいつ―化けもんか…?」
都鳥三兄弟の長男(水城新吾さん)が、恐る恐る石松の体に近寄ると。
ひゅっ!と腕が持ち上がり、慌てて飛び退く。

もう尽きるはずの命が、爪を立ててこの世にしがみつく。
赤い血を塗った大五郎さんの手足が、むなしく空を掻く。
「親分…石は、石松は、帰りますよー…」
虚ろな目の周りに、大量の汗が滴っていた。

この若い座長さんに、私が毎度感動するのは。
信じがたい技巧もさることながら、“凄い芝居を見せたい”という彼の強い強い意気込みが胸に迫って来るからだ。

三吉の夜の部は、どの劇団さんでも集客が難しいようだ。
ゴールデンウィークで、地元のお客さんが不在がちだったのだろうか。
どこで観ても大入りを出しまくっている橘劇団にしては、やや寂しい客席だったかもしれない(それでも十分埋まってはいたけど)。

けど、瀕死の石松を見ていたら。
「清水港へ、帰りますよ…」
客席が満席だろうが空きがあろうが、この方はただ力を尽くして芝居するんだろうな…と素直に思った。
崩れ落ちそうな体が、刀に寄りかかって、立ち上がり。
潤んだ右目と、眼帯の下の左目が、客席をまっすぐに見つめる。
“この場にいる全員の度肝を抜きたい”
“感動させたい。ガツンと揺さぶりたい”
一人の役者さんの、あまりにもシンプルな思いが全開に現れていた。

あと、この夜は橘裕太郎さんが江戸っ子を演じていた。
ご本人は、セリフを噛んでしまったことを反省していたようだけど…(と裕太郎さんのブログにあった)。
観ていた私からすると、(多分)初役であろう難役を、懸命に演じる様が清々しかった。

橘裕太郎さん(当日舞踊ショーより)


気だるくあぐらをかく姿に、江戸っ子の粋な風情も漂っていたし。
お寿司を口いっぱいに頬張って、というか大五郎さんに食いねえと頬張らされて。
「ふぁんだのふまれよ(神田の生まれよ)」
と繰り返すのが可愛かった。

どっしり構えたベテランさんも、丁寧な芝居の女優さんたちも、元気に伸びていく若芽も。
心から帰還を待っている人も。

皆さんで、この関東へ持って来てくれた。
良いお芝居を、たくさん、たくさん。

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