橘劇団お芝居「大文字」(ゲスト・三河家諒さん)

2015.3.21 昼の部@池田呉服座

橘大五郎座長の座長襲名記念公演に、三河家諒さんゲスト!
橘ファンの方のブログで知り、意気揚々と行った池田呉服座。

「女って嫌だねえ…!」
大きな目が、暗がりの中でちらちら光る。
眼差しを花道の上の虚空に浮かべて、諒さんが言っていた。
「なんで女に生まれたんだろう…」
他でもない“三河家諒”が、このセリフを言っていた。

普段の記事なら、このへんでドーンと諒さんの写真を載せたいところなんだけど。
この日ホテルにデジカメを忘れるという大失態を犯してしまったため、写真はないです…。
楽しみにしてくださった方がいたら申し訳ありません。

さて、この『大文字』は橘小次郎さんが大枠を立て、初めてやる芝居とのことだった。
冒頭はいきなり人斬りのシーン。
「我が父の受けた恨み!」
播州姫路の侍・稲葉新十郎(橘大五郎座長)は、父の仇(水城新吾さん)を討ち果たす。

舞台が転換すると、そこは京の居酒屋。
稲葉新十郎は、仇討ちの後は半次郎と名乗り、女房のお梶(三河家諒さん)と居酒屋を営んでいた。
半次郎とお梶は決して互いの過去を探らない。
「互いに昔のことは聞かねえ、それで夫婦になったんじゃねえか」

この辺の居酒屋の場面は明るく飛ばしていて、諒さんと橘の皆さんの絡みがわちゃわちゃ楽しい。
たとえば小次郎さん演じる酔客は、諒さんにこんな風にくだを巻く。
「お梶、俺たちはなぁ、ここに飲みに来てやってんだよ。金がありゃあ、誰がこんな汚い店に来るか」
諒さんは冷静に返す。
「なんかこの人の顔、印鑑みたいだね…」
ぶっ飛んだたとえに、場内、沸いた沸いた。
諒さん、このネタ温めてらしたのか…それともふと自然に出たのか…
人を見て“印鑑”ってたとえが出て来る名女優の思考回路、一体どうなっているのだろう(笑)

ある日、お梶の弟・一馬(橘裕太郎さん)が訪ねてくる。
「姉上!姉上、お会いしとうございました…」
と慕わしく呼びかける一馬。
お梶は実は侍の娘だったが、侍の頑迷なしきたりが嫌になり、家を飛び出してきたのだった。
「姉上、父上はもう亡くなりました」
「おお、病で…」
「いいえ、何者かに殺められたのです」
この言葉にお梶も色を変える。
「私はずっと父上の仇を探してきました。その仇が、この京に来ているというのです」
「そういうことならば、私もできる限りのことをしましょう。一馬、仇の名を教えておくれ」
「我らの仇の名は――稲葉新十郎」

姉弟の会話を立ち聞きしていた半次郎=稲葉新十郎が、闇の中に、すっと現れる。 
大五郎さんの冷えた眼差しが、おもむろに女房をとらえる。

小さな居酒屋の賑わいが、くるりと反転して。
仇同士という巡り合わせが、夫婦に突き刺さる。

ここから先は、大五郎さん・諒さん両者の芝居が、それぞれの深度で波打つ。
大五郎さんの半次郎は、お梶に優しい言葉ばかりを残して、離れていこうとする。
「お梶、お前は体が強ぇほうじゃねえんだから、大事にしろよ」
「お前は父親の仇を討つんだろう。立派に仇を討ったら必ず迎えに来るよ」
そして、あえて一馬に討たれに行くのだ。
自分こそが仇だと知りながら、女房への愛情を刻みこむようなセリフが、しんしんと体に染みた。
(この方の芝居は巧すぎてちょっと恐いくらい…)

芝居の白眉は、お梶が全ての真実を知ったときの演技。
一馬と半次郎の果たし合いに、女であるお梶は取り残されて泣く。
それでも愛しい弟と夫の決闘場に、駆けつけようとして。
諒さんは、ふと花道で足を止める。
凍りついたように目線を動かさず、口を開く。

「女って嫌だねえ…!なんで女に生まれたんだろう」
「だけど女に生まれたからこそ、こんなに激しく人を愛することができたんだよね」
「女に生まれて…よかった…」

なんて目だったろう、あの光。
なんて、自分という女優が客席にどう映っているかを、理解しぬいたセリフだろう。
旅芝居の男社会で、フリーの女優として波風をくぐってきた、たおやかな姿。
彼女に、客席が望むセリフ。
彼女にしか、言えないセリフ。

『大文字』は細かな箇所が決まらないまま臨んだので、この箇所も諒さんのアドリブだったとのこと。
大五郎さんも口上で、「“女に生まれてよかった”っていうのは、絶対に僕ら男じゃ出てこない」と話されていた。

一回り年齢が離れているせいもあるのかな。
諒さんと大五郎さんは、互いにすごく敬意を払っている感じがした。
昨年8月、玄海竜二さんの公演で、凄まじい技量をぶつけるごとく芝居していた諒さんに比べると。
今回は、全体的に大五郎さんを立てて演じられていたように見えた。
大五郎さんの襲名記念公演なので、主役を目立たせようとする意図もあったのか。
「こういう公演にゲストさんが来ると、普段頑張ってる座員さんの出番がどうしても減ってしまうでしょ?」
口上での諒さんの言葉に、フリーで活動されている心遣いを感じた。

しかし可愛かったのは、
小次郎さんに“印鑑”発言をした後、諒さんが前列の女性客を振り返って苦笑した表情。
ね、可笑しいよね?と同意を求めるみたいに。

諒さん、関東にもそのうちゲストに来てくださらないだろうか…。

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