“いつか”の芝居―柚姫将副座長、そして全ての役者さんに敬意をこめて―

柚姫将副座長(劇団KAZUMA)に尋ねてみた。
「最近、これは完全に出しきった!やりきった!っていうお芝居はありますか?」
「うーん…ないですねー」
私がいくら熱演だな、細かい工夫だなーと感心しようとも。
ご本人的にはまだまだらしい。

芸人の矜持的な意味で、役者さんが芝居にこだわるのは、当然といえば当然だけど。
時々、副座長の礼儀正しい言葉の端々に滲むのは、もうちょっと現実的なハードル。
やろうと思ったことも時間がなかったり、人数が足りなかったり、全体のバランス的にできなかったり。

そして私はようやく思い出す。
あぁ、そうだ、大衆演劇だったのだ、私が見ているのは。

あの忙しない舞台はまさに生き物なのだろう。
アドリブで芝居の前半が長引けば、後半のセリフがカットされたりするし。
舞踊ショーで、いつも踊る人と違う人が出て来れば、何か起きたな…とハラハラするし。
そして誰かがずっと出てこなければ、まさか消えたのか…?と肝が冷える。

舞台の表でも裏でも、役者さんたちは動き回っているようだ。
芝居進行中、裏では音響もされて。
着物も自分で着て、化粧も自分でされて。
自分の番になったら舞台へ出て、大筋しか決まってないところはその場で考えて演じて。
劇場やセンターの時間制限だってある、進む時計の針とにらめっこして。
終わればまた夜公演で、これをフルコースで繰り返し。
どうにか一日が終わると、翌日はまた別の芝居…!

改めて書いてみると、かなりあり得ない芸能形態だ。
芝居するのが仕事だけども、芝居だけしてりゃいい仕事じゃないのだろう、全然。

彼らの芸には、アレコレ制限があり、事情があり。
見れば見るほど、芸以外の角度から“仕方ない”が立ちはだかる。
もどかしい。
…と思う自分がずうずうしい。
この芸能システムを、まったりと満喫しきっている客は自分なのだから。
――大衆演劇なんだから芝居だなんだ言わなくても、今日もカッコ良かった面白かったでいいじゃないか。
よく聞くこの意見は、正しい。
――この低料金で三時間半、十分すぎるくらいだ。
この意見は、正しすぎるくらい正しい。

それでも、一度頭がお芝居にのめりこむと、もう止まらなくて。
「『戻り橋』のラストなんですけど、友蔵は真実に気づいてるんですか、気づいてないんですか?」
こんなことばっかり聞きたくなるのは、物語を探してしまうのは。
自分がその芝居に打たれて、3年間客席にいるからだ。

大衆演劇の芝居のすごさは、その刹那性なのかと思う。
それぞれの役者さんが、かなりの部分、演じながら場面を作っている。
ということは、セリフや仕草の中に。
“今”、目の前の役者さんが腹の中から吸い上げたばっかりの、“今”の感情が弾けているということ。
物語の脈に通される血は、“今”、生み出された熱さだ。

「俺はついて来る人を間違えなかった!」
2年前の10月、劇団KAZUMAお芝居『兄弟仁義 男たちの祭り』@篠原演芸場。
将さん演じる政吉の死に際のセリフは、個人的に2013年涙をしぼったセリフ1位だった。
それだけに、「芝居中は役の感情に任せて喋ってるんで、自分が何言ったかけっこう覚えてないんですよ」と言われたときの衝撃といったら…。

芝居に引き込まれて涙が出るとき。
そこには演じる側の限りない誠意があるのだと思う。
できるだけお客さんにわかりやすく。
できるだけリアルに、できるだけ役に浸って。
全てが、今できる範囲ではあるけれど。

事情事情のぬかるみの中から、“人を感動させたい”という意志が一点光るとき。
少しでも気づけるよう、この目は開いているか。
この耳をすましているか?

あの世界で生きる役者さんたちは。
日々のバタバタに埋もれながら、それでも、どこかで志しているんじゃないかな。
明日は、もっと良い芝居をしたい。
そしていつかは、自分の持てる全てを出しきる芝居をしたい。
心のひとかけらで、そう思っていてくれるといい。

いつか、いつかと歩いていく、彼ら彼女らの志が。
客席には眩しく見える。
いつか、いつかと目指し続けていれば。
その過程にこそ、実る悲劇の涙もあるだろう。
咲く喜劇の笑いもあるだろう。
明日の芝居は、彼ら自身も予想しなかった感動作になるかもしれない。

2年前、将さんが、昔やっていたという芝居の話をしてくださったことがある。
人数の関係でできなくなってしまったらしい。
あれから、その話を伺うことはずっとなかった。
でも『三人会』の日に耳にした嬉しい言葉。
――あの芝居をやっぱりやりたいですね。

一人が内に秘める火は小さくとも。
自分で消さない限りは消えない。
だから、長~い目でファンをやっていれば、きっといつか出会えるだろう。

柚姫将副座長(3/20群舞「木遣くずし」より)


今日の芝居は良かった!120%やれた!
柚姫将副座長がそんな風に思える日。
どこかの劇場でセンターで、必ず訪れるその日。

いつか、ね。

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