たつみ演劇BOXお芝居「夜叉ヶ池」・2―恋ぞ積もりて―

2015.2.11 夜の部@篠原演芸場

前回の記事(「夜叉ヶ池」・1―水に棲むもの―)では、異界の演出や妖怪の話を中心に書いたけれど。
今度は、このお芝居に描かれる“恋”の話をしたい。

「(百合を)一人ではやらん! 茨の道はおぶって通る。冥土で待て…」
地上では、萩原晃(小泉ダイヤ座長)と百合(辰巳小龍さん)の、情の極まりみたいな恋。
「私は剣ヶ峰へ行かねばならぬ。鐘さえなくば誓いもあるまい。皆、あの鐘、取って落として、微塵になるまで砕いておしまい!」
池の下では、白雪(辰巳小龍さん・二役)と剣ヶ峰の公達の、歯止めを飛ばしてほとばしる恋。

小泉ダイヤ座長(当日個人舞踊「無条件」より)


辰巳小龍さん(当日舞踊ショーより)


まず、背景として。
『夜叉ヶ池』の舞台の鹿見村は、閉鎖的で因習に縛られた土地として描かれる。
よそ者の学円(小泉たつみ座長)が来て、「夜叉ヶ池への道を尋ねたいんですが…」と切り出したとき、きれいに全員無視して立ち去るのが印象的だ。

村人たちには、ムラ社会を至上と唱える思想がこびりついているみたい。
神官(嵐山瞳太郎さん)は、いとこである百合に情もなく告げる。
「雨乞いが救うのは鹿見村だけではない。六ヶ村の民、八千人のため、犠牲になるのじゃ」
村を守り続けた晃に対しても、村の教師(小泉ライトさん)が冷たい目を向ける。
「もう村を立ち去ってくれたまえ。君はこの村において、肥やしのカスにもならない」
美女を裸に剥いて龍神に捧げるなんて因習が、廃れずに残っているのは。
固定化したしがらみの中で、村人がすっかり迷妄しているからなんだなー…。

だからこそ、あらわれる恋は目覚ましい。
“心のままに生きる”具現として、百合と晃の間にある恋。
「人は心のままに生きるべきだ、お前たちなどにわかるものか」
頭の曇った村人たちを前に、晃は声を荒らげる。
出ていけと言い募られれば、
「百合、行こう。支度が要るか、裸足で来い。茨の道はおぶって通る!」
百合は晃と学円をかばって、「私を(生贄に)出してください」と泣くのだけど。
ダイヤさんが小龍さんをひしっと抱いて、
「命かけても女房は売らん!龍神がなんだ、八千人がなんだ!神にも仏にも恋は売らない!」

ふおお…!
相手を想う心の美しさ(そしてダイヤさんの顔も美しい)。
村人たちの「八千人のため」「村のために犠牲になれ」の大合唱を聞いた直後だけに。
晃の言葉が、空疎な人の群れを穿つようで、心が晴れていく思いがする。
ダイヤさん、かなーり緊張していたように見えたけど、晃の大量のセリフを全てよどみなく終えたのはさすが!

晃と百合の恋と、呼応するかのように。
池の下の白雪は、剣ヶ峰の公達に恋している。
白雪は剣ヶ峰からの文を読んで、恍惚とつぶやく。
「懐かしい、優しい、嬉しい、おゆかしい便りを聞いた。姥、私は剣ヶ峰へ参るよ」
姥(辰巳龍子さん)は懸命に止める。
白雪が夜叉ヶ池から出れば、大洪水が起きる。
夜叉ヶ池の鐘が鳴らされる限りは、洪水を起こさず人命を奪わないというのが、人間との誓いだからだ。

けれど白雪は苛立ちに地を踏み鳴らし、
「人間とても、歳が経てばないがしろにする約束を…一息早く私が破るに、何にはばかる事がある?!」
鐘の誓いがあるならば忌々しい鐘を壊せ、とお姫様は大暴れ。
小龍さんが、豪華に飾った自身の体を抱きしめて叫ぶ。
「人の命のどうなろうと、それを私が知ったことか!命は捨てても恋は捨てない!」

小龍さんは、『夜叉ヶ池』をやると決めたとき、まず白雪を演じたかったらしい。
わがままで、誇り高く、まっしぐらな恋の炎に自らを焼く。
白雪の発火するような目つきに、小龍さんの全身全霊がこもっていた。

“神にも仏にも恋は売らない”
“命は捨てても恋は捨てない”

晃と白雪が言っていることって、同じだ。
縛るもの全部から心を解き放って、思いのままにしなやかに、あの人を恋うる。

そういえば、百合が一人で留守番することになったとき、寂しさを紛らわすために人形を抱っこしている。
この人形が予想外なものなので(笑)、未見の方はぜひその目で…。
「母さんは一人ではお夕飯も欲しくない」
そう言って人形に頬ずりする小龍さん。
百合はしっかり大人なんだけど、表情や行動は少女のようで。
泉鏡花は、人間の理想としての童心を大切に描いた作家…なんて昔読んだことを思い出した。

ある意味、子供のように。
『夜叉ヶ池』の恋は、痛いくらいの純度で澄む。

小龍さんは、お誕生日公演で『夜叉ヶ池』をやったものの、とにかく大掛かりな演目なので、再演は難しいと思っていたそう。
まだ2回目の公演で、小龍さんはともかく、他の皆さんは相当緊張されていたのだろうな。
(たつみさんの学円はさすがの余裕と貫禄だったけど)

きっと回数を重ねるごとに、まだたくさんの感情が注ぎ足されていくんだろう。
恋は、まだ深くなっていくんだろう。

最後に、白雪の眷族たちが心底羨ましかった瞬間。
鐘を自ら壊さんと、白雪はその身を止めようとする眷族たちを振りほどいて。
小龍さんが杖をかざし、カッとにらみつける。
「無礼者め!」

私も…私も小龍さんに無礼者めって言われてみたい…!

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コメント

ツボが一緒ですね。

心にのこる言葉の連続でした。
鳥肌立ちました。
この劇団を見て、それまでの三年間の大衆演劇は
何だったのだろうと思いました。
只、大衆演劇では実力と観客動員は一致しないような気がしています。
そこが歯がゆい。

>nemu様

「知性」×「猛稽古」×「綺麗」=たつみ演劇BOX、と個人的には思ってます^^
たつみさんのところだと平日の夜など苦戦している日も時々ありますが…
2013年7・8月の木馬・篠原公演より、確実に動員が増えたのを感じます。
まさに今、破竹の勢いに乗っている劇団ですよね。

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